4-6 和解と支援



「……お邪魔します」


「……ねぇ、それもう3回目の挨拶なんだけど」


「だって、あいつがいると思うと足がすくんじゃうんだもん!」


「あいつて……もう、ほらいくわよ〜」


「うわっ、ちょ、引っ張っちゃダメだって!もー!たんま〜!」


 ……玄関から慌ただしい声が聞こえる。


 今日は舞香の友達が家に遊びに来る日なのだが、なぜか暇だろうから俺もその場にいておいてくれ、と舞香に今朝方頼まれたのだが。


 義妹よ。なぁ、義妹よ。お兄ちゃんは別に暇人ではないのだぞ?……今日がたまたま暇だっただけだよ。うん。


 まぁ、それは置いといて……

 なんで俺まで会わないといけないんだ?


 何故俺が舞香の友達に会う必要があるのか。もしや何かを友達に宣誓でもしたいのか?


 と、つい先ほどまで考えていたが、玄関を舞台に行われた『舞香の友達』の三回もの挨拶を経て、俺は初めて来客の正体に気づいた。




「……よっ」


「……ども」


 リビングに入ってきて、どこかよそよそしいというか……いや、恥ずかしげと言った方が的確か。


 手を恐る恐る前に出し、軽い感じで俺に挨拶をしたのは、先日泣きながらこの部屋を走り去った、舞香と同じくアイドルグループ『Amour』のメンバーであり、中学のとき同じ部活だった 宮園 神奈 だった。


「えーと……本日はどのようなご用件で?」


「そ、それは……」


「「……」」


 えーーー、なんで無言なの……


 それは……と言ったっきり充電の無くなった携帯のように、うんともすんとも言わなくなったぞ。


 え?君、本当にあの神奈なの!?この前見せた慌ただしさはどこに身を潜めているんだよ!


「……はぁ、この前失礼なこと言ったことを気にしてたみたいで、謝りたそうにしてたから連れてきたのよ。そうよね、可奈?」


 舞香がそういうと、神奈は無言でコクリとうなずく。


 こりゃ、どちらが年上かわからんな。我が義妹はいつの間にかこんなにも大人になっていたのか……お兄ちゃん感動。涙。


「……こ、この前は散々失礼な事を言って、ごめんなさい。これ、お口に合うかはわからないけど食べて、くだ、さい」


「あ、いや、全然きにしないでくれ。

 俺の方こそ……ごめん、な?」


「え?俊介も何かしたの?」


「あーいや、前も言ったけど覚えてなかったからさ……失礼だったなって」


「あ〜そんなこと言ってたような……

 こんな可愛い子を忘れるなんて信じらんないわよね」


「え!か、可愛い!?私のこと!?」


「そ、そうに決まってんでしょ。他に誰がいんのよ。って近いわよ離れなさい」


「えー!舞香だ〜い好き〜〜〜♡」


「ちょっ!?もー!はーなーれーなーさい!」


「ん〜〜、やだ♡」



 いや、わしゃあ何を見せられとるんだ。

 目の前で美女が目をハートにして美女に抱きついとる。すごい混ざりたい。んや嘘ついたな、すまんすまん。ものすっっっっごく混ざりたい。


「もう!俊介が変な目で見てるじゃない!何すんのよ!」


「……おい、てめぇ。何舞香をいやらしい目で見てんだよ。お?」


「だからそれをやめいって」


「いてっ、もー!痛いよ舞香〜。」


 ……こいつは学びがないのか、それとも女性は全て私のものとでも思っているのか。


 そんな横暴なジャイニズムの継承者も、美女である舞香には弱いみたいだ。


「むぅ……ま、さっきも言ったけど俊介にはとりあえず失礼な事言ったから謝ろうって思って来たのが、理由の一つなわけよ」


「いや、突然態度変わりすぎだろ!」


「はぁ?なんでアンタにぶりっ子しないといけないのよ……」


 そう言って、舌をだし俺を煽る神奈。

 まじでこいつ謝りにきたんじゃねぇのかよ……


 てか、理由の一つってなに?その言い方だと二つ目もありそうなんだけど……


「その通りよ」


「まだ何も言ってないけど!?」


「そういう顔してたじゃない。あなた顔に出やすいわよ?鼻のしたも縮めなさい?」


「!?」


「嘘よ」


「何の意味が!?」


「意味なんてないわよ。バカね。

 とにかくよ、二つ目は……」


 神奈が何かを言いかけると、ピーンポーンと玄関からインターホンの音が鳴った。


「!? 可奈だけじゃなかったの!?」


「それが無理だったの。ごめんね舞香〜」


「っ!?!? もうっ!聞いてない!」


 そう言って舞香は急いで玄関の方へと向かった。話の内容は何が何やら理解できなかった。


「はぁ……本当に思ったより早かったわね……」


 舞香が見えなくなるのと同時に頭を抱える神奈。どうやら彼女は誰が来たのか知っている様子だ。


 え?誰がきたの?そんなに困る人なの!?


「ったく、もう時間がないわね……いい!これからの舞香の、絵里さんの雪音先輩の輝かしい未来の為にも!私も協力するから絶対に、絶対に!乗り切るわよ、必ず!」


「お、おう?」


 少しトーンを落として深刻そうに神奈がそう言うと、すぐに廊下からドタバタと足音が聞こえ、勢いよくリビングの扉が開いた。


「おにーさーん!お邪魔しまーす!きったよー!あれ?可奈が抜け駆けして先に来てる!」


「こ、こら!そんなに暴れちゃダメだろ!

 本当にすみません!すみません!」


「あらあら、みんな慌てんぼなんだからぁ。落ち着かないとダメよぉ?」


「まったく……本当に落ち着きなさい。忙しなくてごめんなさいね、俊介くん」


「……い、いえ、どうも」


 そう。やって来たのは 舞香 と 神奈 もとい 桃宮可奈 以外の『Amour』のメンバーである 茜みつき、金城美香、江藤紫乃。そして、彼女らのマネージャーである縁さんだったのだ。


 なるほど、神奈はこの状況をフォローしてくれる為に他の方々よりも早く来たのか。うん。確かにこのメンツは何故か修羅場の予感がしなくもない、な……


 てか、俺ここにいない方がイクナイ?


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 次回更新日は 9/9 です。


【新作】

『ずっと推していたアイドルが引退してお隣さんになったが、俺は彼女にめちゃくちゃ嫌われている』

 ↓小説URL

 https://kakuyomu.jp/works/16816452221427664579


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