3-7 純粋と恒例
・・・とは言ったものの、
本当に俺は入っていいものなのか。
いや、そりゃあ絵梨花ちゃんの時は入ったけど元を辿れば事故だったしさ!今回のとはちょっと毛色が違うじゃん・・・
それに、俺たち兄妹といっても中学からでこんな事初めてで・・・
くそ、俺に彼女が出来た事がないことが悔やまれる。こういった時の対応方法なんて学校では習ってないぞ!教えるべきだろ!心の準備がいつまでもできないぞ!
「ちょっと!遅いわよ!」
後ろを振り返ると、バスタオルを体に巻いて少し濡れた髪を纏めた舞香がそこにはいた。
時計を見たらかれこれ10分は悩んでいたようで、舞香もさすがに痺れを切らして呼びにきたようだ。
当たり前だろうが、いざ目の前にしてみると分かり切っていた事だがやはり俺の義妹は可愛い。
それに着痩せしていたのか、胸のあたりの膨らみはいつもより大きく感じる。ていうか何その髪のまとめ方!おだんごはたまらんだろ!
そんなバカなことを考えたらまた緊張してきた。
「あ、あんまりジロジロ見ないでよ・・・」
「わ、わるい!」
舞香の恥じらう姿をみて、俺は急いで後ろを向く。舞香の恥じらう姿はよく見ていたはずなのに、状況のせいなのかいつもの何倍もドキドキする。
「ん?なんか俊介、顔赤くない?
あれー?もしかして照れてんの?」
「いや、流石に照れるだろ!」
「えへへ、ほら早くいくよ!」
「ちょっ、おい!」
舞香は嬉しそうに俺の手を引いて、
お風呂場へと向かう。この義妹は行動力があるのかないのかよくわからんな本当に。
*
「じゃ、入ってるね〜」
舞香は俺を脱衣所まで連れていくと、
そう言って浴室へと入っていった。
もうここまで来たら後には引けないな・・・
いいさ、舞香には悪いが俺はお兄ちゃんだ。
他でもないお兄ちゃんとして、このイベントを乗り切ってみせる!
そう覚悟を決めた俺は、腰にタオルを巻きいざ戦場へと参ろうとしたが、ドキドキしすぎていて気づかなかった異変に今更ながら気づいた。
・・・ん?浴室暗くね?
疑問に思いながらも暗い浴室に俺は足を踏み入れた。
「あのー・・・舞香さん?
暗くてあんまり前が見えないんですが」
「だ、だって、いざ入るってなったら緊張するんだもん・・・今日はこれではいろ?」
浴室に差し込む光は脱衣所の明かりだけで、舞香の顔ははっきりとは確認できないがきっと真っ赤なんだろうな。
水の音がよく聞こえる。
目が見えないことにより、音に敏感になっているんだろう。水の音だけでドキドキがとまらんぞ。
俺は、手探りでレバーを見つけ体を洗い舞香が入っている浴槽へと浸かるが、やはり恥ずかしかったのか俺が入ることを感じた舞香は体勢を変え、向かい合わせではなく、背中合わせで俺たちは体を温めた。
「・・・当たり前だけどやっぱり緊張するね。」
「・・・そりゃそうだろ。初めてなんだし」
「けど、してみたかったんだもん・・・」
「まぁ、俺はいいけどさ・・・」
「「・・・」」
触れ合う背中とぎこちない会話があの時のように俺たちの緊張を高めた。
暫く沈黙がつづいていると、
よし と舞香は言うと、彼女の背中の感触はなくなり
「ねぇ、こっち向いて?」
と一言俺の背中へと呼びかけた。
「・・・いいのか?」
「うん。だって、お話するために入ったんだもん。恥ずかしいけどやっぱり俊介の顔を見ながら話したい。」
そう言うので俺も体勢を変え、舞香の方へと向くが
「っ!?」
「? どうしたの?」
「い、いや・・・」
壁を見ていた気づかなかったが、どうやら沈黙していた間に俺の目はこの暗闇に慣れ切ってしまっていたらしく、少しだけではあるが水に濡れた舞香の姿が見えてしまい、とっさに彼女から目をそらす。
「まぁ、いいや。
それより、いっぱい話したい事あるの!
あのね・・・!」
それから俺たちは舞香のドラマ撮影のことや、
お互いの学校であった事、絵梨花ちゃんや雪音のこと等たわいもない事を色々話した。
楽しみにしていたのだろう。
言葉の強弱だけで、彼女が今どれほど気持ちを
俺もやっぱり舞香と話すのは楽しい。
本当に昔より仲良くなれてよかった。
「ふふっ。なんか俊介と二人っきりで話すのって久しぶりな感じがするね」
「確かになー、二人暮らしになってもなんだかんだ絵梨花ちゃんがいたからな」
「うん。だから今本当に嬉しいの・・・
たまにでもいいけどさ、また一緒に入りたいな・・・」
「・・・お、おう」
・・・舞香の純粋さを見ていると、不純な思考でのぞんだ事が申し訳なくなる。おそらく舞香は言葉通り、俺との時間を誰にも邪魔されないように、この場所を選んだのだ。
この純粋さもアイドルとして大成した理由の一つだろう。これは妹でなくても推したくなる。今日何回も言ってるような気がするけどうちの妹天使かよ、尊い・・・
「・・・なんか今向けられた視線が、お兄ちゃんが妹を愛でてる感じがする!だめだから!」
「・・・いや、すげぇな」
・・・あんまり見えてない筈だよな!?
目線が向けられるだけでわかるなんて、さすがはアイドル(?)なのか?
*
話していたら結構な時間が経っていたらしく、温かかったお湯はいつの間にか冷めきっていた。
「さ、もうお湯も冷め切ったし出ようか」
俺がそう言い、浴槽から出ようとすると
「・・・ね、俊介。
私にもぎゅってしてほしいんだけど」
「え?」
「だって絵梨花センパイにはしたんでしょ?
私だってしてもらいたい!いいじゃん」
「結構してるだろ?」
「今がいいの!今!」
そう言う舞香の姿は見てはいないけど、きっと頬を膨らませて不満そうにしているんだろう。これは抱きしめないとこの後拗ね続けるやつだな。
「ほら、はやく!」
「・・・わ、わかったよ」
そう言って俺は浴槽へと戻り、正面から舞香を抱きしめる。
あ、やっぱりだめだ。せっかく会話で緊張も和らいだと思ったのに、いざ密着したらさすがに緊張してきた・・・
「・・・やっぱり安心する」
「そんなに?」
「うん・・・すごく」
俺とは対称的に純粋な舞香は、抱きしめられてご機嫌なようだ。ま、まぁなんにせよ当初の目的通り舞香がリラックスできたようでよかった。
いや、けどごめん舞香、俺の精神はもう限界・・・
「・・・ん?
えっ!? あ・・・」
「っ!?」
何がとは言わないが、俺の身体に起こった変化に舞香は気づき、驚いて俺から離れるがその際に舞香が巻いていたタオルが取れてしまった。
完全に暗闇に目が慣れきった今、俺の目には舞香の一糸纏わぬ姿がはっきりと焼きついてしまった。
急いでタオルを拾い隠す舞香
「もしかして・・・見えた?」
「・・・あぁ、はっきりとな」
「エ、エッチ!そんなはっきり答えないでよ!私が先に出るからあっち向いててよ!」
・・・やっぱり裸をみられるのは恥ずかしいようだな。俺が再び壁を向いている間に舞香は浴室から出ていった。
2人・・・いや3人から好意を伝えられるのはめちゃくちゃ嬉しいんだが、ここ最近過激になりすぎていて、俺の精神力は限界を迎えつつある。
いや、男として嬉しいよ?嬉しいんだけどね?
けど理性を保たないと3人の人生に迷惑をかけてしまうからさ・・・
ていうかこの調子で明日のプール大丈夫なのか!?
なんか最近の傾向を踏まえると、どことなく何か起こりそうな予感がしなくもないんだが!
***
「お兄ちゃん!はやくはやく!」
「はいはい・・・」
「あわてないの舞香。更衣室はここね。
それにしても、ふふ。舞香がこんなお兄ちゃんっ子とはね、それじゃあ私は戻るから何かあったら教えてね」
「はい、ありがとうございます!」
「ありがとうございます、縁さん!」
次の日、約束通り俺は舞香と共に『Amour』がよく使うという室内プールへと来ていた。
マネージャーの縁さんとは何回か会ったことはあったが、2人の絡みを見るのは初めてだったからかいつもとは違う舞香に少し驚いていた。けど少し嬉しそうだったな、なんでだ?
「じゃあ着替えたら、プールで待ち合わせね!」
「へーい」
俺は更衣室で着替えを済ませると、約束通り舞香を待つべくプールへと向かう。
ん?先客がいるようだな。女の子が泳いでいる。それにしても、さすがは芸能人がよく使う会員制プールだな、ゴーグルをしていて少ししか見えないが相当な美人だ。
ん?なんか見覚えがあるような・・・
いや、あの銀髪は・・・
「ぷはっ!」
「お疲れ、絵梨花ちゃん」
「? ありがとうございます・・・
って、俊くん!?なんで!?」
すごい驚いている絵梨花ちゃん。
やっぱりあの銀髪美人は彼女だったか。
反応を見るにどうやら本当に偶然鉢合わせたようだな。
「俊介〜お待たせ・・・げっ」
舞香がプールへ来たと同時に、俺と共にいる絵梨花ちゃんを捕捉したようで声を漏らす。
やっぱりハプニングが起こったな。
だが、もう俺はこの程度じゃ驚かないぞ
この程度じゃ、な・・・
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次回投稿日は7/13(火)→16(金)です。
※追記(7/13)
mimcです!いつも読んでいただきありがとうございます。大変申し訳ないのですが、急病の為次回更新は7/16(金)とさせて頂きます。本当に申し訳ございません。
続きが早く見たい!面白い!と思っていただけたら是非評価、お気に入り、レビュー、ブックマーク等をしていただけると助かります!創作意欲がさらに高まります!
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