2-11 自責と白雪




俺たちは無事に施設へと戻ることができた。

案の定、先生方からはこっぴどく叱られたが横を見たら舞香は何故か少し嬉しそうな顔をしていた。


まぁ、そのせいでまた怒られたんだがな。


班のみんなにも謝ったが、暖かく出迎えてくれた。いくら待っても帰ってこないから心配したのか、一年の子達は舞香に抱きついて泣いていた。いい友達ができたみたいでお兄ちゃんは嬉しいぞ。


俺はニコニコしながら舞香たちをみていると、絵梨花ちゃんが ねぇねぇ と言って話しかけてきた


「ね、俊くん。

 舞香ちゃんなんか嬉しそうなんだけど、なんかしたでしょ。なにしたの?」


「少し昔の話をしただけだよ。

 それ以外は特には何も」


「ふーん。

 さっき舞香ちゃんが私にドヤ顔で自慢してきたんだけどー!何もしてないんだ!」


「え!?

 あいつ言ったの!?」


「私は俊くんの口から報告して欲しかったなー。ほら、言ってみな?

 お姉さん、ちゃんと許してあげるから」


そういって少し頬を膨らませ拗ねる絵梨花ちゃん。なんか誤解してるみたいだな・・・


「はぁ。勘違いしてるみたいだけど

 帰り道舞香からキスはされたが、

 別に付き合ってるわけじゃないよ」


「えっ!?

 キスされたの!?」


小声で驚く絵梨花ちゃん。


俺もまさか驚くとは思ってなく、周りを見回すが誰も聞いてなかったようだ。

危ないまじで危ない。


「そんな驚かなくても・・・

 舞香に聞いたんじゃないの?」


「いやー。なんか舞香ちゃんがニコニコしてたから、なんかあったのかと思ってカマかけてみたらまさかの事実を叩きつけられました・・・」


「カマかけたの!?」


「そうです!」


女優の演技力を甘くみていた。

本当に気づかなかった。てか、その嘘はずるいだろ!誰だってわからんわい!


「むー。

 舞香ちゃんだけズルい・・・

 ね、私ともしてよ!一回したんだからもういいでしょ?おねがーい!」


「だ、だめです!みんないるし、何より自分の立場をかんがえてよ!」


「なら、みんながいなかったらいいの?」


「そういうことじゃなーい!」


絵梨花ちゃんと白熱した小声の論戦をしていると、なにしてんのこいつらみたいな顔をした舞香が近づいて来た。


「・・・お兄ちゃんたち何してんの?

 なんか身振り手振り凄すぎてちょっと引いちゃったんだけど。

 

 とりま私たちは今からご飯だから行くね!絵梨花センパイ今日は本当に迷惑かけてごめんね!それじゃ、またね〜お兄ちゃ〜ん!」


「ん、ばいばい」


「おう、またなー」


そうやって絵梨花に謝罪をすると、手を振ってみんなと共に食堂へと向かっていった。


「・・・舞香ちゃんいい子だよねぇ」


「あぁ。あいつは昔からいい子だよ」


「・・・それは兄目線?

 それとも恋する男の子目線?」


「さぁ?どっちだろうね」


「あっ、ひどーい!

 たらしだ!たらし!」


「さっき嘘つかれた仕返しだよ」


「二人とも何いちゃついてんのー?」


「うおっ!?びっくりした!」


「えぇ、そんなにびっくりしなくても」


白鳥さんが話しかけてきた事にまじで全く気づかなかった。旅行で少し浮かれてるな、また気を引き締めなおさなければ。


「とにかく、今から発表だから二人ともいくよー!絵梨花ちゃんの可愛いところを発表しなきゃ!絵梨花ちゃん!がんばろうね!」


「うん。

 少し恥ずかしいけど、がんばろうね!」


そうやって絵梨花ちゃんと白鳥さんは発表を行う場所である、会議室へと向かった。


「俊介ー俺らも行くか」


「おう、行こうぜ」


「てかお前あん時、全速力で走ってたけど足は大丈夫なのか?」


「それ舞香にも言われた。


 ・・・少し痛むが大丈夫だ。

 ありがとうよ!」


小吉とは中学から知り合って共に一年の時にはバスケ部に所属していた。だから、俺が足に怪我をしてバスケ部をやめたことも知っている。


「そうか・・・

 なんにせよ良かったよ。

 帰ったらまたフリースロー対決でもしようぜ!約束な!」


「おう!昼休みにでもやるか!」


俺はバスケの練習中に怪我をした。


あの日、俺と小吉は二人で居残り練習をしていた。そして、小吉がレイアップをし着地した時に、ゴールが上から降って来たのだ。


俺は咄嗟に小吉を押して、落下地点から外した。だが、その結果俺の足に落ちてきて怪我をしてしまった。原因はゴールの老朽化だったそうだ。


彼は何も悪くない不慮の事故だったのだが、小吉は何回も何回も謝って来た。

俺が入院した時も、マネージャーと小吉だけは毎日お見舞いに来てくれた。


甲斐小吉という男はそういう男なのだ。


だからこそ俺はいつも本当に申し訳ないと思っている。


俺は小吉にずっと助けられている。

社交性もあり、友達もたくさんいる小吉が

俺といてくれるのも、きっと自責の念を感じているからだろう。


「おーい俊介ー!

 俺らも早く行くぞー!」


「・・・おう!」


・・・ごめんな小吉。俺は最低だ。

まだお前に足が完全に治った事を言えない。

まだお前と一緒にバカやってたいんだ・・・





俺らの班の発表は以外にも大盛況に終わった。何故かひとつひとつ発表する度に歓声が上がるほどだった。絵梨花ちゃんって本当に人気だな・・・


拍手喝采で終わり、田村先生が場を締める。


そしてみんなの発表と今後の連絡を終え、俺たちは夜ご飯を食べる為に食堂へと向かおうとしたが、俺だけ田村先生に呼び止められた。


「なんですか先生」


「今日の舞香さんのことでね。」


田村先生はキョロキョロとあたりを見回して人がいない事を確認すると


「ほんっっっとうに助かったわ!

 蒼くんがいなかったらまじで私の首チョンパよ!チョンパ!

 私が同年代ならまじで速攻ベタ惚れ案件よ!まじでありがとう〜」


そういって俺は田村先生に肩をバンバンと叩かれる


「兄として当然の事をしただけですよ。

 気にしないでください」


「あら?なんか元気ないわね。

 喧嘩でもしたの?」


「してませんよ」


「ま、今回の事で貴方に借りもあるし

 一回くらい私の胸を貸してやらない事もないわよ?物理的に」


そう言って豊満な胸を寄せる田村先生。


「・・・セクハラダー。」


「ふふっ冗談よ。

 口ではそう言っても目線はしっかりしてるのね。蒼くんも年頃の男の子みたいで安心したわー。なんか貴方無駄に大人びてるもの」


「無駄にて・・・

 話も終わったんなら俺行きますよ」


「おっけー!今日は本当にありがと!

 引き続き頼みますね!

 では、美味しいご飯を食べておいで〜」


そうやっていつものクールな顔でなく、満面な笑顔で手を振る田村先生だった。





「じゃあな俊介勉強がんばれよ!

 寂しいが、帰ったらその分遊ぶぞ!」


「おう!いっちょしごかれてくるぜ!」


ご飯を食べ終え、皆生徒の宿泊棟へと帰っていく。今からお風呂の時間だが、俺の泊まっている場所がバレる可能性もあるので、俺は部屋の風呂で入ることになる。


みんなといれなくて少し残念だが、しょうがないことだ。


「・・・疲れたぁ」


部屋につき、ソファに座りぐたーとする。

本当に今日は色々な事があった。

そして、色々な事を考えさせられた。


「・・・俺も変わらないとな」


一人の静かな空間でそう呟く。

帰った時には絵梨花ちゃんも舞香も部屋にはいなかった。靴もなかったし大浴場にでも行ったんだろう。


まぁ、何にせよ旅行の最中に考えても仕方ない。ひとまず一日の疲れを落とそうじゃないか!


この部屋には露天風呂がついている。だが、女の子が二人もいるから使えない。と思っていたが今の状況はチャンスだ!


お風呂好きな俺にとって、風呂は1日で一番と言っていい至福の時間だ。るんるん気分で鼻歌を歌いながら脱衣所に向かい、服を脱ぐ。


「ふふ〜ん♪ふふふ〜ん♪」


さて、露天風呂からの自然の景色はどんなものだろう!ウキウキしながらドアを開け露天風呂に向かった、が


浴室に入った瞬間に1番に目についたのは、雄大な木々でも、待ちに待った檜風呂でもなく、白雪のような透明感を持つ見惚れてしまう程の綺麗な色の肌をした


一糸纏わぬ姿の絵梨花ちゃんだった。



「「・・・え?」」



絵梨花ちゃんも俺も何が起こったかよくわからず呆然と立ち尽くしていた。

ハッ と俺は我に返り、状況を理解する。


あ・・・これ、終わったわ。




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