2-9 林間学校と分かれ道





相部屋発覚から一週間が経ち、ついに待ちに待った林間学校がスタートした。


バスの席は班員の親睦を深めるため学年の班ごとにかたまるようになっているが、絵梨花ちゃんはさも当然のように俺の横に座った。


その時のクラスの男子からの目は思い出したくはないな。少しオロオロしてしまったが慣れたのもあってか堂々とできたと思う。


やはり絵梨花ちゃんと話すのは楽しく、バスの時間はそんなに長く感じなかった。そんな俺たちを白鳥さんと小吉がたびたびニコニコしながらみていたが、小吉のニコニコはどちらかといえばニヤニヤか。

やっぱ少し照れるな。


バスから降りた時に 色男♡ と言われた。

こいつやっぱり俺の反応を楽しんでやがった。


そんなこんなで1時間ほどバスに揺られ、

宿泊施設へと到着しロビーへと全員が集まる。いや、ロビーでかくない?めちゃくちゃ豪華なホテルくらいあるんだけどここ。

そうやって皆が驚いていると田村先生が前に出て話を始める。


「とりあえず部屋割り表は全員に渡りましたね。ではそれぞれの部屋へと荷物を置いて、動きやすい服装へと着替え20分後にロビーへと集まってください。それでは、解散」


田村先生がそう指示し、

皆各々の部屋へとむかう。

部屋割り表をみると番号で部屋を分けており、俺の番号はその中にはなかった。


「おい俊介ーお前の部屋どこなの?」


「あぁ・・・それは」


「蒼くんはこの前のテストがとても悪かったから、別室で各教科の先生が教えるようにするため教員部屋の横なのよ。申し訳ないけど、立ち入らないようにね」


「え!お前そんなに悪かったのかよ!

 ・・・まぁ、うん。昼間は楽しもうな!」


「お、おう!当たり前だろ!」


「じゃあこれが蒼くんの部屋割りね。

 ちゃんと勉強するのよ。見に行くからね」


そう言って田村先生から別途注意事項などが書いた部屋割りのプリントを受け取る。

なんて説明しようか言い淀んでいたら、田村先生がフォローをしてくれた。


やはりいつもの田村先生は頼りがいがあるな。いつものなら。ていうか、小吉の同情顔が少し悲しくなるな。いつもいじってくるが基本優しいからな、今度なんか奢ってやろう


とりあえず俺はそのプリントに書いた場所へと向かう。えっ?何が教員部屋の隣だ。めちゃくちゃ嘘っぱちじゃないか。


そこに書いてあった部屋の場所は生徒の宿泊棟ではなく、教員室がある棟をぬけ一度外に出て特別なカードキーがいるような、生徒が間違って入れも見ることもできないような厳重に隔離された場所だった。


いや、こんな山奥にすごい部屋を作るな!


そういえば田村先生がこのために宿泊施設を選ぶのも苦労したとか愚痴をこぼしてたな。

やっぱり同じような悩みを持つ金持ち学校とかが選ぶのだろうか。てかうちみたいな普通の高校が、こんなとこ泊まれるお金あったの!?


とりあえず俺はその宿泊棟へと向かう。

なるほど、このプリントにあるバーコードが鍵になってるのか。俺はバーコードを読み込ませ中に入ると


「俊介おかえり!」


「俊くんおかえり〜」


ジャージ姿の二人の美少女の出迎えてくれた。あぁ、これは至福のひとときだな・・・いやダメダメ!

今日は煩悩ゼロでいくんだよ!


「絵梨花センパイはもう行った方がいいわよ?田村先生もなんか呼んでたし!俊介の事は私に任せてどうぞお先に!」


「いやいや〜私はそんなこといわれてないし

舞香ちゃんこそ一年の先生が呼んでたよ?

 俊くんの着替えは私が待っておくからどうぞお先にいっていいわよ?」


「なによ!」


「なぁに?」


二人の奥にある窓からは山の木々たちが風で揺れているのが見える落ち着いた雰囲気の部屋だ。まぁ、目の前は相変わらず修羅場だけど。

それにしても広い部屋だな。やっぱり高そう。


それとな、俺は先程も言った通りこの林間学校中は煩悩ゼロをめざすんだ!そして、いつもはあまり関わりのないこの大自然を堪能すると心に決めている!そうやって心を仙人にして煩悩を消し去ってやるぜ!


「はいはい、ただいま二人とも。

 せっかくこんな環境にいるんだから、いがみあってないで外を見ようよ外を。ほら、自然はいいよ?」


「・・・ねぇ、絵梨花センパイ。

 俊介なんか顔が達観してない?」


「・・・うん。なんか悟ってるね。

 おじいちゃんみたいになってる。」


「ふふふ。

 俺は今日は自然を堪能すると決めてるんだ。自然が俺を呼んでいる!さぁ、楽しむぞー二人とも!」


「「・・・あぁ、うん。」」


俺がアルカイックスマイルを浮かべながらそう言うと。さっきまであれほどいがみ合っていたのに、こんなにも息があってドン引きをしている。

これも自然パワーか!流石だ自然!


「と、とにかく!

 この部屋すごいわよ?露天風呂もあるし、大きいベッドが二つもある。私と俊介がこっちで絵梨花センパイがこっちね?」


「ん?何を言ってるの?

 私と俊くんがこのベッドを使って、舞香さんはそっちのリビングのソファでしょ?」


「それは扱いが雑すぎるわよ!」


なんだかんだツッコミをしている舞香。

実は仲がいいんじゃないか?喧嘩するほどなんとやらだし。


「ていうか本当にすごいなこの部屋。

 露天風呂もついてんのか・・・」


この豪華さ。ただの普通校が出せる範囲を確実に超えている。絶対にどちらかの事務所の何かしらの力が働いているなと高校生ながら感じる俊介であった。





「皆さん点呼も無事終わりましたね。

 それでは、リーダーの指示に従って早速フィールドワークを始めていきます。

 しおりにも書いてある通り、ポイントの近くにスタンプを設置してますので、それをしおりに押していってください。なにかあったらすぐに連絡をしてくださいね。

 それじゃあ皆さん、頑張ってください」


「「「「「 はーい!!! 」」」」」


そうしてみんな各々の班へと分かれていく。



「じゃあ知っていると思うけど、この班はわたくし白鳥明子がリーダを務めまーす!1年生のみんなもよろしくね!」


「「「「よろしくお願いします!」」」」


一年生の班は舞香、加賀さん、田代さん、美和さんの女子四人グループだ。こちらの班と同じように舞香の友達でかたまるように配慮したようだな。仲良さそうに話している。


やはりといってはなんだが、この班の注目度は凄いな。とてもたくさんの視線を感じる。

いつもならビクビクしてしまうところだが先程の俺を見たらわかる通り慣れもあるが今日は別人として過ごすのだ。自然が俺を待っている。俺は煩悩をすてるぞ!ジ○ジ○ー!


「・・・俊介。

 お前顔が仏みたいだぞ。

 なんか今はデ○オみたいだし・・・」


「うん。俊介くん。

 ちょっとキモいかも・・・」


小吉と白鳥さんに心配(?)された。

いや白鳥さんキモいはひどくない!?


それから俺たちは、設定されたポイントを巡るべく森の中へと進む。森といっても獣道ではなくしっかり整備されており歩きやすい。


結構近い感覚で設置されているみたいで、すぐに4つほどポイントを見つけることができ森をさらに奥へと進む。

そして、5つ目のポイントに向かう道中の分かれ道であるものを見つけた


5つ目のポイントの巨木への道順を示した立て看板だが、これどう考えてもじゃないか。

こんなずさんな管理でいいのかと考えていると白鳥さんがみんなを呼ぶ


「お!5つ目のポイントあったよ〜!」


白鳥さんがそう言うと、俺たちは5つ目のポイントである巨木へと集まる。まるであの有名な家電メーカーのCMにでてきたような木のような巨木にみんな圧倒される。


「わ〜凄い!」


舞香も感激したようで携帯を使い写真を撮っている。

みんな目を丸にして上を見上げ、空を覆う無数の木の枝を眺める。そうそう!これよこれ!林間学校が始まるまでは間違えが起こらないように煩悩を消そう消そうと躍起になっていたが、そうじゃないだろ!この感動こそが青春の1ページに刻まれるのだ!


「・・・なんか今の俊くんの顔つきは、さっきと違ってキラキラして子供みたいでかわいいね。楽しそうで何よりだよ」


「ど、どうも」


隣にいた絵梨花ちゃんからニコニコしながらそう言われる。俺ってそんなに顔に出てるのか!?とにかく、巨木の下に配置されたポイントのスタンプを押す。


「ここでご飯を食べてもいいみたいだから、休憩がてらお弁当の時間にしよ!」


白鳥さんがそう言い、みんなその意見に賛成をするとシートを広げ、巨木を眺めながら自然の中で昼食を食べる。最初はぎこちなかったこの班も共に体を動かす事で、親睦が深まったようで話に花が咲く楽しい昼食の時間になった。




 

それから全15個あるポイントの14個まで制覇できた。時間にしては出発からざっと3時間は経っており、もう少しで日が落ちそうな時間帯になっている。森を一周周ったこともあり、現在は一番最初に訪れたポイントの近くにいる。


正直とても楽しかった。

道中もみんなで仲良く会話できたし、きつい山道のところもあったがみんなが手を取りあって攻略するこの楽しさは、ゲームとはまた違った楽しさがある。


周りを見ても疲れているだろうに嫌そうな顔をしている人は一人もいない。変なゴタゴタもおきず本当にいい思い出ができた、そう思っていたら


「あれ?ない、私の携帯・・・」


舞香がそう言って携帯を探していた。

カバンの中を探すもどうやら見つからなかったようだ。


「どこかに落としたのかな?

 心当たりはある?」


「たぶんあの昼食をたべた大きな木の所だと思います。私、探しに行ってきます!」


白鳥さんがそう聞くと、心当たりがあったようで一人探しに行こうとする舞香。


「無くしたものはしょうがないだろ。

 帰ったら新しいの買おうよ」


「あれだけは絶対にダメなの!

 ごめん!私、行くね!」


いつもなら無くしたら買おうとするからそういう提案をしたが、却下して巨木のあった場所へと走る舞香。

なんであんなに焦っているんだ?


「ったく・・・悪い白鳥さん!俺がついていくから、先に戻っててくれ!一応田村先生に伝えてて!」


「う、うん。気をつけてね!

 見つかったらすぐに連絡するんだよ!」


「俊介、気をつけろよ!

 舞香ちゃんを頼んだぞ」


「俊くん!絶対に気をつけてね!

 なにかあったらすぐ連絡だよ!」


「先輩!舞香ちゃんをお願いします!」


「あぁ!ごめんな!行ってくる!」


みんなの心配を背に、俺も舞香の後を追う。

いや、あいつ足速いなもう姿が見えないぞ。


道は整理されているとはいえ、もうすぐ完全に日が落ちる。いまでさえ少し暗い森の中で携帯もなしに一人では危険だ。


早く追いつかなくては。

それにあの分かれ道・・・急がないと


そして俺は、気がかりだった立て看板のある巨木へ続く分かれ道へとたどり着く。


本来ならば地図通りここを右に行ったら巨木へと辿り着く。だが、今の舞香の精神状態ならば立て看板を鵜呑うのみにして進む可能性もあるだろう。


舞香は基本は視野も広く、周りに迷惑をかけまいと気を配りつつ行動するが、時々周りが見えなくなるときがある。もそんな感じだった。もしその時々が今だったとしたら・・・


俺は舞香を信じ、あえて本来の道とは逆の立て看板が示す道を選び、奥へと進む。

お願いだ舞香、無事でいてくれよ・・・




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