死の真相
縞々なふ太
第1話
「川端康成は、なんで死んだと思う?」
MはSを見た。心底分からないって顔だ。Sは笑った。
「川端康成って何歳で自殺したと思う?」
「え、知らない……」
「72」
「えーっ、おじいさんじゃん」
「意外でしょ」
「うん……ええ、そんだけ生きたんなら、最後まで生きればよかったのに……」
「思うよね。それで、仮説を立ててみた。ふたつ」
「聞いて欲しいんか……」
「聞いて欲しいんよ」
Sは笑った。Sはこういう人だから、Mは思った。聴くに限る、聴かなきゃ拗ねるし、と。Mは体をSに向けた。Sは笑った。なんだか今日はずっと笑っている。なにかに取りつかれたかのように。
「一つ目。十六歳の日記って知ってる?」
「作品?」
「うん。端的に言えば病気のおじいちゃんの看病をするお話なんだけど」
「いい子じゃん」
「いい子だよ。でも結構作品の中ではおじいちゃんのことボロクソ言う」
「だめじゃん」
「でも介護ってそんなもんでしょ。」
「そうなんかなあ」
「でね、それで私は思ったわけよ。川端康成はおじいちゃんみたいになるのが嫌だったんじゃないかって」
「病気になりたくなかったってこと?」
「や、そうじゃなくて。誰かに世話してもらいながらも、心の中ではボロクソ言われるのが」
「はあ、なるほど、ありそ」
「でで、ふたつめがね」
「そんな可能性高めの説だしといて……ふたつめいる……?」
「川端康成は徳田秋聲って作家を激推ししてたんだけど」
「話聞かないじゃん……徳田秋聲って、お前が買い込んだ?」
「そそ、私が買い込んだ。Mも読む?」
「でも奥さん、難しいんでしょ?」
「えっうん」
「うける。読ませる気ないやん」
「面白いよ?秋聲自身を知るとなお」
「へえ、そんで、ふたつめは?」
「ああっ話逸れてた……戻せるのえらい」
「だろ」
「ふたつめが……徳田秋聲の享年が71なの」
「おっ1歳違い」
「超えたくなかったんじゃないかなあと思うわけです」
「え、なんで?」
「憧れの先輩なわけじゃん」
「おう」
「いる?憧れの先輩」
「いるにはいる」
「その人の年齢追い越したい?」
「解釈違い!」
「まあそうよね」
「そりゃそうよ。年下は尊敬しても憧れはしないわけだから……」
「そうなんよな」
「なるほどね〜、そっちも確かにって感じ。でも1つ目には負ける」
「あっそう?へえ」
「えっなに……」
「なんでも」
Sは笑った。Mは不満そうに顔をむくれさせた。
きしくもその日は6月19日、彼女の最も尊敬する作家の命日であった。
死の真相 縞々なふ太 @nafuta
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