地獄の灯火
晴れ時々雨
☪︎
飲み込まれそうに足下が危うい。
これまで夜を共にした女を顧みることなどしてこなかったが、もしかすると女たちは自分の去ったあと、夜の底の泥濘から屍人のように這い上がっていたのかもしれない。
女を抱くとき、半ば挑むような気持ちがない訳ではなかった。しかし刺し殺すのはこちらで倒れるのはあっちだ。そんな錯覚に目眩がした。
その中に吐き出す物が何であれ、女の体はすべてを飲みくだす。いかなる無体にも怖気ず、苦痛に耐えながら忽ちこたえる。おのれの劣情の頂をみたあと、女らに強いた鞭の強さがどれ程であったか覚えてはいない。
女は笑いこそしないが燃えた目でゆらりゆらりと何度も首を上げる。
「それがおまえの精一杯かえ?」
何人かの女の束になった声にそう問われているような気がして、思わずむきになる。
「これ以上はお前を殺すことになるがいいか」
女は頷く。
そこで気づくのだ。
女は殺されたがっている。真一文字に腹を切り裂くとどめを欲しがっている。
あの夜、仮死に陥った女が真昼のさなかに虚しく目覚め、また蘇ったことに肩を落としひとり身繕いするあの、光りばかり照るうすら寒い部屋。
再び灯りに火を入れ、男を待つ女の芯はもう青白い炎が灯っている。
ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、ころして、、、
「殺してみなさい」
両手で絞りあげるか細い首の皮膚の下を無数の蟲が走る手ごたえを感じながら、今目の前にちらつく慄れは一体誰のものなのかわからなくなる。
男の手にかかるとき、女は初めから息を吹き返さぬ覚悟で飛び込む。男がつらぬこうとしているのは、快楽の淵に沈む地獄の一点なのだ。
地獄の灯火 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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