第205話 恋の結末 ~兼継の場合~
直球だ。
この盆暗娘は、遠回しに言われても気づかない。
おまけに今は『兼継が桜姫と添い遂げる未来を選択した』と誤解している状況だ。たとえ想ってくれていたとしても、しらを切る可能性が高い。
一瞬の表情の変化でも声音でもいい、本心を掴み取らなければ。
そう真剣に向かい合った兼継だったが、展開は予想を遥かに上回った。
雪が瞳を輝かせて、とんでもない事を言いだしたのだ。
「か、影勝様の恋ですか!? 良かった、誰に仲立ちして貰おうかと困っていたのです。ご迷惑でなければ、いえご迷惑でも兼継殿、どうかうまく取り成してもらえないでしょうか!??」
影勝様の恋だと!? 何だそれは。私は知らない!
いや、それはともかく『仲立ち』だの『取り成せ』だのと、なぜ雪村がそんなに前のめりになっている!?
「影勝様の恋!? それがお前と関係あるのか!? ふた月に数日 同じ屋根の下に居るからとて、何故そのような事になった?」
「同じ屋根の下にいたとしても、お、お伝え出来ない事ってあるじゃないですか。やっぱりちょっと……内容が内容ですし……!」
もじもじと躊躇う雪村に、兼継は軽く混乱した。
なぜそこでどもる! そして照れる!? 状況がまったく理解出来ない。
こう言っては何だが、剣神公と花姫を身内に持つ影勝様は、私以上に拗らせている。その影勝様がこのような訳ありの娘を……!?
影勝様も、何故よりによって雪村なんだ。だがたとえ主君とて、引くことなど出来ない!
「お願いします。兼継殿!」
「嫌だ! そのような仲立ちは断じて出来ない!!」
「そんなあ!!」
がばりと土下座してまで懇願する雪村に、どうして良いのか判らない。
まさか、まさかここにきて影勝様の名が出るとは……!
「恋の御霊が安らぐように碑を建てました! どうかそれでお許しいただけるよう、取り計らって下さいー!!」
「恋の御霊とは卜占か何かか!? 意味がわからない!! 意味が……――ん?」
鯉を茹でた件を 兼継に押し付けて、雪は意気揚々と帰って行った。
まさか花押まで刻んだ娘を手に入れるのに、ここまで手こずるとは思わなかったが、雪の気持ちを二の次にして、強引に事を進めようとした結果がこれだ。
――これも天の配剤か。
兼継はがっくりと項垂れた。
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