第79話 雪村恋愛イベント・勃発 2 ~side S~

 とりあえず、兼継が雪村に惚れているのは見てりゃ解る。

 だが雪村は、兼継の事を全く意識してないんだろうか?

 そうじゃなければこんな、桜姫との仲を取り持つような事は言えないよな?

 そもそも雪村って今、男なの、女なの? 元に戻るの??


 さっぱりわからん。


 けど、これだけはわかる。

 好きな女ゆきむらに、他の女オレとの仲を取り持たれた男とのデートなんて本当に御免被りたいし、それが宣戦布告し合った仲の相手だなんて。

 わたくし、兼継殿に縊り殺されてしまうわ。……ってなもんですよ。


「……行くのやめる」俺はぷいとそっぽを向いた。


 俺だって命は惜しい。この世界と現世のシステムがどうなってんのかは知らないが、こっちの世界で怪我をしたら あっちの世界の身体にも影響が出てるんだ。

 今のところは食いすぎの胃痛と ぶつけた時の内出血程度だが、こっちの世界で兼継に殺されたら、あっちの世界でも死にかねない……気がする。

 雪村は不思議そうに「でも楽しみにしていたのでは……」なんて鈍いことを言ってるけど、楽しみにしていたのはお前とのおでかけだよ。


 ぷりぷり怒る俺をしばらく困ったように見ていたが、やがて雪村が諭すように口を開いた。


「私は今、女性の身体ですよ? そしていつ元に戻れるか解りません。私と縁を深めるより他の殿方を優先して下さい。時間は有限ですから」

「え?」


 俺は思わず、まじまじと雪村を見返した。

 何だ? 何て言った、今。


 雪村がいつ元に戻れるか解らない、そこまではいい。

 でも「私と縁を深めるより他の殿方を優先して下さい。時間は有限ですから」って、普通こういう発想になる? これ「イベント制限があるから自分じゃなく、他の男のルートに行け」って言ってない?

 この状況であえて兼継を推すのも、俺がもう兼継以外のフラグが折れているのを知ってるんじゃないか?


 ……雪村も、俺と同じ現代人なんじゃないか?


 いや、でもまさか。俺は内心で頭を振った。


「カオス戦国」のプレイヤーキャラは桜姫だ。

 それに現代人が「雪村」の中に入ってるとしたら、こっちの世界に馴染みすぎている。

 例えば俺がいきなり「雪村」になったとしても、戦える気は全然しない。戦国時代なのに加えて怨霊が出るんだぞ、こっちの世界は。


 きっと単純に遠慮したんだろう。桜姫は超絶美少女だから、他の男が放っておかないと思っているだろうしな、雪村は。


 そんな控えめなところは元の雪村のままだ。やはり攻略するなら雪村にしたい。

 俺は慈愛のココロで微笑んだ。


 そういう事は気にしないで雪村。実はわたくし、モテる男が限られている女なの。そして残っているのが兼継だけなら、わたくし、雪村が男に戻るのを待つわ。……ってなもんですよ。


 しかし雪村がそんな心遣いを見せるなら、俺も応えねばなるまい。

 何といっても「俺の為に」無理な鍛錬にも耐えてくれているのだ。


「雪村は「わたくしを守る」という父上様のご遺言を守るために無理な鍛錬をしてこうなったのでしょう? わたくしが何も感じないと思っているの? 雪村が大事なの、あまり思いつめないで。綺麗なお花が咲いているなら一緒に見たいわ。お花は心を癒してくれるもの」


 ぺらぺらこんな台詞が口をついて出たのは、俺の現在の心境と「雪村恋愛イベント其の三」での台詞が合致した結果だろう。


「桜姫……」

 そう呟く雪村が遠い目になっている気がするが、気のせいだ。


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