第15話 美成相見と大阪の花見1

 花見の為に大阪入りした私たちは、いったん武隈邸たけくまていに入った。

 ここは先代のお館様が建築された豪奢ごうしゃなお邸だ。天台座主てんだいざすを名乗っていた信厳公は比叡山ひえいざんとの繋がりが強く、それ故に延暦寺えんりゃくじを焼き討ちした第六天魔王・小山田信永おやまだのぶながとは相性が悪かったのに、小山田家とお邸がお隣同士なのはちょっと面白い。


 翌日、私は桜姫を連れて上森邸を訪れた。今回の花見は、越後からは影勝様が来ているはずだ。

 桜姫を紹介しなきゃ。義兄上になるのに、影勝かげかつ様にはまだ桜姫を会わせていないからね。

 影勝様は攻略対象じゃないから、ゲーム中でこういうイベントはない。けれどこの世界で実際「生きる」となると、こういうのは必要だ。



***************                *************** 


「影勝様、お久し振りにございます、雪村です。先達せんだっては上森家に断りもなく桜姫を連れ出した事、誠に申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げると、頭上から重厚な声がおりてくる。


「よい。兼継から聞いている。……息災だったか」

「はい」


 雪村も影勝様と会うのは久し振りだ。顔を上げた私は、怒っていない影勝様にほっとして表情を緩め、斜め後ろでちょんと座っている桜姫を紹介した。

 桜姫は影勝様の義理の妹って事になるけど、実際の間柄は従兄妹いとこだ。影勝様は剣神公の甥だから。


 現世の歴史では、謙信公の養子で息子になる上杉景勝と武田信玄の娘の菊姫が結婚している。史実の方がよっぽど乙女ゲーム設定だけど、こっちの世界では兄妹なのが面白いよね。


 五年ぶりに会った影勝様は昔と全然変わって無い。やっぱり影勝様は兼継殿の主君だし、威厳があるからか「雪村」は少し畏まっている気配がする。

 無口・無表情だから怖がる人もいるんだけど、子供の頃の雪村にとってはそんなに怖い人じゃなかったみたいで、再会を喜んでいる気配がする。


 桜姫はどうかなと様子を窺うと、こっそり欠伸あくびを噛み殺していた。

 影勝様はこわくないんだ?先日の右ストレートの件といい、何だか桜姫のキャラクターがつかめなくなってきたな。



 あとここでこなさなければならないのは「美成との出会いイベント」だけだ。



***************                *************** 


 影勝様に会った翌々日、今度は桜姫を連れて大阪城へと向かっていた。

 花見の宴は明日に迫っている。今の美成殿は準備に忙殺されていて全然暇はないだろうけど、今日やっと時間を作って貰えた。


 ゲームでの美成出会いイベントは「初めて大阪に来た時に発生」だから、どんなに美成殿にとって迷惑なタイミングでもこれは仕方がない。

 これを逃すと攻略対象からはずれるんだよ?シビアだよねぇ。

 せめて花見の宴が終わってから紹介したいんだけど、宴終了後は克頼様の「神の子」発言のせいですぐ甲斐に戻る羽目になるから、今日中じゃなきゃダメなんだよ。


 美成は初対面、特に女性にはものすごく冷たいキャラだからなぁ。姫がショックを受けないといいんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る