カオス戦国 ～気付いたら18禁乙女ゲームの世界に転生してました・でも私、攻略される武将側なんですけど！？～

第4話 ゲームのはじまり ～side S～

　輿に乗せられ、それがゆっくりと移動を始めた所で、俺はそろそろと目を開けた。気絶していると思われているせいか随分と慎重だ。

　慎重に運ばれてはいるんだろうが、乗り心地がいい訳じゃない。魔法だか霊力だかがある世界な割にそういう所はレトロなままみたいだな。

　俺は桜井 遥（さくらいはるか）という、現代日本に在住するしがない会社員だ。

　俺には高校生の妹がいるんだが、先日もう何回されたか分からない「一生のお願い」をされた。

　フリマアプリに出品されていた「花押を君に～戦国恋歌～」というパソコンゲームの「初版」を購入して欲しいというお願いだ。

「花押を君に」というのは現在妹がハマっている乙女ゲームで、先日「改訂版」が発売された。実はそれも俺が買わされている。

　何故ならそれは18禁ソフト。18歳にさえなってしまえば選挙権や運転免許のように解禁されるモノなのかは知らんが、一応まだ女子高生のお前が買っていいのか？ってシロモノだったからだ。

「お金は自分で払うよ！お兄ちゃんは名前だけ貸してくれればいいから！」そう言っていたはずなのに、決済は俺のカードで行われ、その後はウンともスンとも言ってこない。

　改訂版が出たなら同じような物はもういらないじゃないか、そう言ったのだが、何やら特殊イベントが発生するとかでゴリ押しされた。

「お兄ちゃんもやっていいから！18禁だよ！エロだよ！」

お兄ちゃんを色欲の権化みたいに言うな。とは言ってみたが、俺も健全な男子であるからして興味がないこともない。

　ありがたくインストールさせてもらおう。

　どうせなら特殊イベントとやらも見てみよう、とフリマアプリで買った初版もインストールしておく。

　何だかキラキラしたキャラが少女マンガみたいな台詞を喋り、選んだ選択肢によってピンクのハートが飛んだり砕け散ったりする。

　俺自身はアクションゲームくらいしかやらないから、こういったシミュレーションゲームは新鮮だ。

　ただゲームでも相手のご機嫌とりして、おべんちゃら言わなきゃならないのはちょっとな……。日々鍛えられている営業スキルのみせどころってか。

　途中途中でイベント戦闘があるから、多少キャラクターを鍛えなきゃならないが、そんなに手間でもない。

　つい真剣にプレイしていたら、いつの間にか夜が更けていた。

　2章の途中でセーブして、シャットダウンする。とりあえず今日は終わりだ。

　俺はスマホのアラームをセットして布団に潜りこんだ。

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　気付けば俺は、戦場の只中に居た。戦場というより、映画の1シーンというべきか。

　怪我した人間が倒れていたり、あちこちで煙が巻いていたりするのは戦場っぽいが、敵はキモい模様が入った大蜘蛛だ。

　そこで気が付いた。俺はこの場面を知ってる。さっきやった「花押を君に」の冒頭シーンだろこれ。

　なんだ、じゃあ夢だ。

　そう思った瞬間、頭に衝撃が奔（はし）った。

　俺を庇おうとした侍女の肘が当たったっぽいんだが、普通に痛い。何だこれ本当に夢なのか？それにしては痛みがリアルだぞ！？

　俺を抱きかかえている着物姿の女の温かさも身体の震えも、全部本当にリアルだ。

　女の肩越しに、大蜘蛛が前足を振り下ろすのが、スローモーションで見える。

　危機感も絶望も無かった。俺はこの先に起きることを知っていたから。

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　知っているのと納得しているのは、似ているようで全然違う。

　大蜘蛛をいとも簡単に消滅させた若い男が、俺に向かって近づいてきた。

　胸元だけを覆った赤い鎧、赤い柄の十文字槍。

　長い髪をひとつに結わえ、気遣うように微笑んだ顔は女だと言われてもおかしくない程度に中性的だ。

「姫、お怪我はありませんか？」

　男にしては少し高めの耳障りの良い声が聞こえてくる。真木雪村だ。

　ゲームではここで選択肢が出て、雪村と会話するか気絶するかを選ぶ。

　当然「雪村なの……？」と数年振りの再会ですが覚えてますよとアピールするのが正解だ。

　しかしその先はどうする？ 俺はこのゲーム、まだ2章途中までしか進めてないから、桜姫の情報もこの雪村の情報も少なすぎる。

　ようするに、このまま起きていて昔話でもされよう物なら 対処しきれないって事だ。

　俺は迷わず「気絶する」を選択した。

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　輿の中で俺は頭を抱えていた。

　夢ならそれでいい、しかし改めて頬をつねってみたけど普通に痛いぞ？　輿の中はがたがた揺れて酔いそうだし、とても夢とは思えない。

　何が起こってるんだ？あ、駄目だ、本格的に酔ってきた。

「うえ」

　うっかり嗚咽が出て俺は慌てて口を押えた。その途端、輿が静かに停止して、俺はさらに慌てて寝た振りをする。慌てまくりだ。

　御簾が上がり、雪村が顔を覗かせた。

「姫……ああ、まだお気づきになられないか」

　囁くような独り言のあと、俺の膝に小さな花束が置かれた。名前は解らないが薄紫色の小さな野花、輿の中にすっとした緑の香りが満ちる。

「これで落ち着かれると良いのだが」

　こいつ、俺が寝たふりしてるのも具合が悪いのも気付いてるのか。

　てか、何その気遣い？現代なら「酔い止めいる？」と薬を差し出す感じか。いや、そんなの用意している男なんているのかよ。

　ドライブしてて女が車酔いしたら、俺なら「吐くなよ」か「車酔いするタイプなら薬飲んでから来いよ」としか思わんな。当然本人には言えないけど。

　おお……これが乙女ゲームクオリティってやつか……反省するわ、俺。

　御簾が下りかけて、俺は慌てて目を開けた。

「ありがとう、雪村」

　にっこり微笑んでどういたしまして、と答える様もやたらとスマートだ。こりゃ女はトゥンク……とかなるわ。

　もらった花束をすんすんと嗅いでいるうちに、いつの間にか気持ち悪さも和らぎ、俺はそのまま眠りに落ちていった。

　そういえば俺、ゲーム中でも「気絶する」を選んだけど、こんなイベントあったっけ？

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　聞き馴染んだスマホのアラームで、俺は目が覚めた。

　何だか直前まで夢を見ていた気がするけど、よく覚えていない。寝違えたのかぎしぎし痛む身体に顔を顰めながら俺は起き上がった。

「何だこりゃ？」

　パジャマ替わりのTシャツに緑の染みがついている。布団を剥ぐと、中には小さな薄紫色の花が散乱していた。

　摘んだばかりみたいな緑の匂いが、俺の周囲にふわりと漂う。

妹のいたずらか？でも昨日、寝るまではこんなの無かったよな？

　潰れた花をごみ箱に入れて俺はふと考え込んだ。　何か大事な事を忘れている気がしたけど、全く思い出せない。

　とりあえず俺はシャワーを浴びる事にした。

　今日も会社なんだから、いつまでももたついている訳にはいかない。

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この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

どうやら女子高生は卒業までは18禁ゲームはお預けらしいのです。

良い子の皆さんは卒業までお待ち下さい。

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