ユディアの戦い

 開戦は早朝、日の光が街を照らし始めた時間であった。

 魔軍とスピリ教国軍は首都ユディアの前に広がる街道を間にして睨み合っていた。

 教国軍はあくまで相手の動きを見る守りの体制を取っていた。

 それゆえ、最初に進軍を始めたのは魔軍だった。


「スケルトン大隊、進軍開始!」


 魔族の指揮官の声が響き渡る。

 魔軍の前線を務めるスケルトン兵が隊列をなして進軍してきたのである。


「弓兵隊、魔法兵隊、放てーっ!」


 教国軍はそれに弓兵と魔法兵にて対応する。

 当然スケルトン兵も射撃で応戦し、双方に被害が出る。

 だが、武器の差から教国軍は徐々に押され、スケルトン兵の進軍を許すことになる。


「くっ……第二防衛線まで速やかに後退せよ!」


 教国軍はやむを得ず後退。後方に石材などで作っていた対銃撃用の遮蔽物に身を隠しながら応戦することに。

 しかし、それをやすやすと許す魔軍ではない。


「敵が奥へと動いたぞ! 敵に守りを固めさせるな!」


 教国軍が守勢に入ったのを見ると、曲射砲によって砲撃を行い始めたのだ。

 それにより、遮蔽物の裏に隠れていた兵士は遮蔽物ごと吹き飛ばされてしまう。


「うわああああああああああっ!?」

「くそっ! くそっ!」


 砲撃による遮蔽物の破壊。更に浴びせかけられる銃弾の嵐。

 それにより、教国軍はまたも撤退を余儀なくされてしまう。


「いいぞ! そのままユディアまで突き進めっ!」


 指揮官の命令により魔族はより侵攻を進める。

 しかしそこで状況は膠着する。

 というのも、教国軍が引いた第三防衛線の守りが硬かったからである。

 第三防衛線にはいくつかの小さな砦があり、教国軍はその砦に立てこもりながら防衛線を気づいた。

 また、その砦は魔軍から坂の上にあったため、地理的にも不利であった。

 魔軍が坂道を登ろうとすると、そこから矢の雨や魔法による火球や電撃の攻撃が浴びせかけられ進軍が止まる。

 ならばと曲射砲にて砲撃をするも、砦の作りが思ったよりも堅牢であり致命打には至らない。

 魔軍はそこで一旦足を止めることとなった。

 そして、その局面であった。


「はあああああああああああああっ!」


 魔軍の前線に、突如大剣を持ったシャーロットが現れたのである。

 彼女は砦から瞬間移動によって現れ、大剣を回転して振るって言った。


「勇者推参! ここから先は一歩も通さないわよっ!」


 すべては教国軍の作戦であった。

 魔軍の力押しに対し、ある程度の抵抗はすれど第三防衛線まで後退させられるのは分かっていた。

 ならばそこまで敵を引き込み、状況が膠着した状態において切り札である勇者シャーロットを投入する。

 それが教国軍の立てた作戦であった。


「ふんっ! せいやあっ!」


 懐に突然現れ、前線のスケルトン兵をなぎ倒してくシャーロット。

 魔軍はシャーロットを照準に収めようとするも、彼女の瞬間移動による動きは捉えることができず、なすすべなく倒れていく。

 彼女の奮戦により教国軍の兵は奮い立つ。

 そして更に、最初に決めた手はず通りにシャーロットが前線の敵兵を壊滅させた後に、砦から歩兵が次々と出てシャーロットに続く。


「ええいおのれ……! こちらも兵を出せっ! 白兵戦だっ!」


 魔族も接近戦を強いられることとなり、別種の兵を投入することになる。

 ウェアウルフ、魔狼、オーガ、ミノタウロス、などなど、接近戦を得意とする様々な魔族が投入された。

 だが――


「いかな魔族が来ようとっ! 私には敵わないわよっ! せいやっ!」


 通常の歩兵なら難なく倒せても、勇者であるシャーロットには傷一つつけることができなかった。

 それほどまでにシャーロットは強かった。


「このまま敵陣に突き進むわよっ! みんな!」

「うおおおおおおおおおおおおおっ!」


 そしてシャーロットが味方兵を連れて進軍しようとした、そのときだった。


「っ!? きゃあっ!?」

「わあああああああああっ!?」


 榴弾が、彼女達の元に降ってきたのである。

 とっさに瞬間移動で後方に逃げるシャーロット。

 しかしシャーロットの味方の兵士はそうやって逃げることができるわけもなく、みな次々に吹き飛ばされていく。さらにそれだけでなく、砲撃は味方であるはずの魔族すら吹き飛ばしたのだった。


「そんな……自分の仲間ごと……!?」


 味方の損害をいとわない魔族の攻撃に絶句するシャーロット。

 彼女の周りには、人間魔族関係なく死体の山ができ、生き残っているのは彼女だけという状況であった。


「あら、さすが勇者様。力だけじゃなく運もいいのね」


 と、そのときシャーロットの前方からそんな声がした。

 声の方を向くと、そこにいたのは仮面をつけた富皇であった。


「魔王……! あなた……!」


 富皇を睨みつけるシャーロット。

 そんなシャーロットに、富皇はニヤつきながら右手で挑発するように指を内側に動かすのだった。


「さあおいで。遊んであげるわ勇者様。ちょっとだけね」

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