ハリー編 PART1
1-1
風の吹きすさぶ中、イプシロンシェルター東防衛地区につづく地下通路から出発した。
東の方向に体を向けると巨大な渦の塊とみられる一部が
話によると、高さにして五十メートル、幅にして一キロ四方もある巨大なハリケーンが
ふと、ハリーは思った。あの凄まじいほどの竜巻の塊は、父アンソニーの手紙にあった『ブリザード地帯』になるのだろうか。父親がいた遠征隊は、手紙によると半数が犠牲になった。だが、どんな過酷な旅であっても、犠牲者を出してはならない。危険と隣り合わせとはいえ、生きて生き抜き、アンソニーと再会し、きっと故郷に帰還することなのだ。リンとキャサリンが一時的に隊から離れた今、黙々と次のチェックポイントを求め歩を進めた。
次に向かう【ローシェルター】には、ある程度の情報を得てから進む必要がある、告げられたのは、電波塔にたどりつきフリージア・シェーミットと再会してからすぐのことであった。電波塔の一室に招かれる。
立ちあったのはハリーとリン、フリージアとフレデリック、ガスターミュであった。
彼女は遠征時期の数か月前、偶然にもウォルターがアルファシェルターの襲撃を計画していることをドームシェルターの知り合いから知ったようであった。そこにはサム・ポンドがウォルター側の襲撃に加担しているという事実があったのだ。彼女は、今度の遠征期間でキャサリンを遠征隊員の一員として参加させられないか、さりげなく、手紙の内容に『自分がキャサリンの力を借りなければ解決できない』ことをほのめかす文章を差し入れていた。それは彼女にとって賭けでもあった。障害になるのは、ハリーであったからだ。ハリーの心次第でキャサリンを連れてくるか来ないかが決まってくる。結果、皮肉にもベータシェルターの襲撃が、遠征出発直前に起こったことにより、ハリーはキャサリンを連れず、キャサリンは育ての親のエルシェントの行方を追うことで、アルファシェルターから出発することとなった。計画されていたこととはいえ、彼女を襲撃から救うことが叶った。襲撃から数日後、彼女がエルシェントのいる鉱山跡地にむかったことを聞かされたという。
ハリーは、不思議そうな表情でフリージアをみる。
「フリージアはロックファイドマンの動きを……」
「ええ、ある程度、組織の大きさをやっと把握することができたわ。すぐにでも襲撃を阻止することはできたけど、組織の全体像を
通信装置側の監視モニターを見ていたが形相を変え、フリージアに振り返る。
「今回の遠征隊が動いたことで、彼の確証を掴むことができた。救援に行かれなかったこと、犠牲者が出てしてしまったことは謝るわ。でも、組織の全容解明に一歩……」
被せるようにハリーは、
「全容解明……? まさか、おまえはっ! 俺たちをハメたのか……」
と怒鳴った。
「まぁ、憎まれても当然の行為かもね」
フリージアは非を認めるように高飛車な顔になっている。
「なにィ!」
憤りの声をあげ、彼女の胸ぐらを掴みかける。だが、フレデリックとガスターミュがハリーを引き離した。
「ハリー、やめろっ! 彼女は彼女なりに最善を尽くしていたんだ!」
「そうとも、フリージアだって辛かったんだ! キミも彼女も無事、イプシロンに着けるか心配だったんだ。わかってやれ」
彼らの説得で、腕を強く振りほどくと、ハリーは冷静な口調の中にも怒りのみえる顔を露わにした。
「お前はっ! お前はむかしから人を利用するのに
フリージアは目をブレさせることなくハリーをみつめる。
「ええ、自分の判断に否定はしないつもりよ」
肩を持つようにフレデリックがフリージアとハリーの間に入り、
「たしかに、彼女の話を聞くかぎり、ハリーたちを手玉に取ったとも解釈できる。だが、フォローをしているし、何よりも目的があった。そうだろ?」
と、フェアにことを進めようとハリーの心を落ち着かせた。
ハリーは納得に軽く頷くも、
「襲撃の犠牲者は最小限に抑えただろうが、俺自身、素直に感謝するべきか複雑な気持ちだ。一時的ではあるにしろ、俺たちにとって生まれ故郷を失ってしまったんだからな」
「そうね。この遠征が終われば、あんたはあの土地に帰らざるをえないのかもしれない。そんな場所を失ってしまったのだから。怒るのも当然だわ」
優しい口調だったが、強気の表情をフリージアはみせた。
「でもね。ハリー、あんたは、この先遠征隊の指揮をとって、もっと辛い出来事を経験するかもしれないのよ!」
フリージアが強く説得した。
「そうだな、ハリーにはもっと過酷な目に合わせないと乗り越えられないことだってあるかもしれない。こんなところで議論をしても始まらないはずだ」
男口調の低い声でリンがハリーを一瞥し、フレデリック、ガスターミュにも目配せした。
一つ訊かせてくれ、と彼女がフリージアに寄り添った。
「組織の全容解明とあなたはいったが、ロックファイドマンに何かあるのか?」
「手がかりが掴めたというぐらいで、まだ話せる段階ではないわ! ごめんなさい。わかっていることといえば、彼も誰かに利用されている可能性があるということぐらい」
「利用されている?」
部屋中に動揺が広がった。ハリーをはじめとしてガスターミュ、フレデリックが戸惑いを見せる。
「ええ、まだ一握りなの。軍をも利用した巨大組織があるようだわ。この氷河期を利用した」
「そう、なのか……」
リンの反応は乏しかった。だが、彼女は深刻にうつむき言葉を失っていた。
わずかに入ってくる冷たい空気がハリーを冷静にした。
「この話は一旦終わりにして、そろそろ今後の行動と次の目的地を具体的に決めたいんだが」
フレデリックが横やりを入れた。
「リン、何か考えがあるとか言っていたよな」
通信装置の横に設置された椅子にまたがるとリンが話し始めた。
「キャサリンのいる療養所でも、良かったんだけど、ボクもハリーも実は先を急ぎたいとおもって、手っ取り早い場所をハリーに聞いたんだ。それでオネエサンにとっても電波塔なら……」
被せるように、
「その……、『オネエサン』はやめて。くすぐったい気がするからフリージアと呼んでほしいわ。それよりもどういうことなの? 電波塔の方が手っ取り早いというのは。いくら先を急ぎたいとはいえ、あなたは知らないと思うけど、一応元ロシア領地よ。面倒は起こしたくないわ!」
と、冷静に彼女が見つめた。はっきりした物言いにリンが表情を曇らせた。彼女は数度頷くが納得してもらうために話しはじめる。
「フリージアさんが言いたいことも
「なるほど、通信が目的なのか」
ガスターミュが横から口を挟んだ。
「本来の役割の場所だから有効活用するのが一番だ。こういう時代で情報は重要だし、決定事項を信頼ある人にすぐにでも伝えたいと思ったからさ」
はっきりと言い切り、
「フリージアさん、気象タワーについて知っていることを教えてほしい」
続けて彼女に気象タワーの情報を訊ねた。
「気象タワー? うわさには聞いたことはあるけど、そこにヴェルノ博士が」
ハリーはうなずき、父の手紙とキューブデバイスをフリージアに見せた。キューブデバイスの存在を興味津々にながめている。彼女の見ている傍で、リンも手紙に目を通した。
「手紙には俺を呼び寄せている。しかも、最後の年数からすでに四年以上経っているんだ。フリージア、何か気象タワーに繋がるような手がかりはないか?」
フリージアは黙ったまま考え込んでいた。
「どんな些細なことでも、この際構わない」
ガスターミュが叫んだ。彼らがフリージアの言葉を待ち望んでいた。
2へつづく
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