パパラッチフィーバー②

side L

ピピピピ ピピピピ ピピピピ ピピピピ

「ーーうーーん……」

おれは激しくなるスマホのアラームを止めると、ひどく痛む額を押さえる。

流石に調子に乗って飲みすぎた。

隣では、同じくダウンしている秋生がいる。

「……ちょっと、調子に乗りすぎたな」

「……だな」

おれたちはモソモソとベッドから起きると、並んで洗面台へ向かう。

半分くらいぼーっとしながら歯を磨く。

冷たい水で顔を洗って、やっと少し目が覚めた。

「凛、朝食食えるか?」

「んー……少しなら」

「シリアルでいい?」

「サンキュー」

秋生はシリアルを準備しながら、同時に濃いめのコーヒーも淹れてくれる。

「あ、そうだ凛。二日酔いの頭痛にはこの薬がいいぞ」

そう言って漢方薬を手渡すと、自分もそれを飲んだ。

おれもそれに倣うと、シリアルとフルーツを頂く。

そのまましばらく、お互い無言でスマホでスケジュールを確認したり食事をしたりしていたが、突如秋生が自分のスマホを見て頭を抱えた。

「あちゃー……おれ、やっちまったかな」

「なにが?」

おれの問いに、秋生はスマホの画面を見せると、そこには仲良く肩を組んで酔っ払っているおれたち二人の姿がインスタグラムにあげられている。

そこには何万ものイイネが寄せられていた。

ちなみにハッシュタグは #秋生とLIN #なかよし #親友 #大好き #うち飲み

いや、女子か!

おれはじっとりと秋生を見ると、秋生はハハハと乾いた笑いを返した。

おれはため息をつくと、メンバーからのLINEを確認する。

そこには何十件のLINEが押し寄せていた。

おれは「まさかな」と思いながら自分のツイッターアカウントを開くと、秋生と同じく仲良く腕を組んで酔っ払っているおれたち二人の画像をあげられていた。

同じように何万ものイイネが付けられている。

ハッシュタグは……言うまでもなく同じようなことが書かれていた。

……というか、これ、おれがあげたってことだよな?

まっっったく記憶にないけど……。

「ーー秋生、おれもすまん」

そう言ってツイッターアカウントの画面を見せると、秋生も苦笑いをして突っ込む。

「いや、おまえもかい!」

まあね?

喧嘩してるわけじゃないしね。

仲良しなわけだから問題ないよね。

おれたちはそう言うことにして、何か聞かれた時の口裏合わせの作戦を練った。

流石に「前世で腐男子同士親友で、その話題で盛り上がってました!」なんて言えないもんな。

口裏合わせの作戦が練り上がると、おれたちはまた遊ぶ約束をし、連絡先を交換すると別々の現場へタクシーで向かった。



side A

漸く漢方薬が効いてきた頃、おれはタクシーの中であくびを噛み殺した。

昨夜は前世からの親友、徳重雅紀ーー西園寺凛との再会にテンションが上がりすぎて、ちょっと調子に乗って飲みすぎた。

おれは昨夜おれが投稿したらしいインスタグラムを再度見ると、嬉しそうに肩を組んで顔を赤くして笑い合うおれたちがいる。

昨日からイイネは順調に増え続け、コメント欄も凄いことになっていた。

『秋生とLINの最強コンビ!』

『可愛すぎて死にそう』

『尊すぎて崇めた』

などなど。

うん、そりゃそうだろう。

秋生はおれの最推しだからな!

凛だってAshurAの人気ナンバーワンだ。

おれはふふん、と自慢げに一人で笑う。

ーーが。

この後は面倒臭いことが待っている事は確定している。

きっとありすちゃんと綾斗に質問攻めにあうのだ。

まあ、ありすちゃんはわかる。

マネージャーとして把握しとかなきゃいけないからな。

でも綾斗に根掘り葉掘り聞かれるのは正直面倒臭い。

巷では綾斗はクールとか涼やかとか言われてるが、実際は全然違う。

表情があまり大きく出ないだけで、すっっっごくわかりやすい大型犬だ。

しかも、異常に相方愛が強い。

おれが他のやつと仲良くすると、すぐに拗ねたりぐずったりする。

結構面倒くさいやつなのだ。

ゲーム上ではもっと本当にクールだったんだけどなぁ。

まあ、ゲーム上でも相方愛は強いキャラではあったけど……。

だから、綾斗攻略の難易度は高めに設定されていた筈だ。

おれは「はあ」とため息をつくと局の玄関でタクシーを降りた。

「「アキ!」」

「「あれはいったいどう言う事」だ」

案の定、楽屋で二人に捕まったおれは、二人の事情聴取が始まる。

こうなる事は目に見えていたので、おれはあらかじめ凛と決めてあった理由を説明した。

「あー。前から同じダンスヴォーカルグループだし、気にはなってて話をしたかったんだよね。で、番組をきっかけに話してみたらさー、めっちゃ盛り上がって。もうさ、前世からの友達なんじゃないか?って位意気投合してさー。おれの部屋に誘って二人で飲んだ」

「そう……仲が良くなったのはいいけど、これからはちゃんと連絡して頂戴ね?プライベートに口を出す気はないけど、公式インスタに出す以上、仕事にも絡んでくるんだから……」

あ、おっしゃる通りです。

ぐうの音も出ません。

「ありすちゃん、ごめんねー」

おれはありすちゃんに謝ると、ずっと不機嫌そうにしている綾斗に向き直る。

「なんだよ、その顔」

「……のが……い」

「は?聞こえないし」

「おれの方がおまえと仲がいい!」

はあ?!

え、引っかかってたのってそこ?!

おれは思わず間抜けな声を出すと、綾斗をじっとり睨め付ける。

「ーーなんでおまえがそんな事決めつけるんだよ……」

「ーー!」

おれの言葉に、綾斗が目を見開いた。

まさか、否定されるとは思ってなかったようだ。

いや、前世からの仲の良さ舐めんな。

数少ない趣味の合う腐男子の友情はそんじょそこらの友情じゃないんだぜ。

「LINよりおれの方がおまえの事を好きだ。この世界でおれが一番おまえを好きだ」

あー……なに変な対抗意識燃やしちゃってるの。

ていうか、おまえはそうかもしれないけど、おれはそうじゃないかもしれないからね?

本当に残念だな、このイケメンは……。

変な事を言いながらおれにのしかかって抱き潰す綾斗に、おれはため息をつく。

ええい暑苦しい。

おれはベリっと綾斗を引き離すと、ありすちゃんに今日の予定を聞く。

「今日の予定は?」

「CM撮影と歌番組の打ち合わせよ」

ああ、そうだった。

サニーのワイヤレスヘッドホンのCM撮影だったな。

おれは有線派だけど、CMが来たから一度聞いてみたら、結構いい音だったんだよな。

あ、そう言えば凛も有線派って言ってたから、無線でもいいのあるよって教えてやってもいいなー。

「なんだかご機嫌ね?」

「あ、わかる?」

「LINくんとよっぽどウマがあったのかしら」

「そうなんだよー。音楽性から本の好みまでほぼ一緒!」

腐男子としての話をこんなにオープンにできることなんてなかったしな!

おれは上機嫌でそう言うと、再び綾斗がのしかかってくる。

「アキはおれのパートナーだ」

あーもう。

「わかってるよ。別におれはAshurAに移籍しようとか思ってないから。おれはあくまでもA’sの日比野秋生。凛とは仲のいい友達。おれの相方はおまえだって」

おれは綾斗にそう言ってやると、漸く満足したように頷く。

いや、納得したなら離せって。

おれは金魚のフンのようにおれにくっついて回る綾斗を引きずったまま、CM撮影のための衣装部屋にに移動する。

おれは白を基調、綾斗は黒を基調とした対照的なレザー風の衣装が格好いい。

ヘアセットをバッチリ決め、ヘッドホンを渡される。

おれは赤、綾斗は青。

おお、結構格好いい色だな。

「これ、新色?」

試し聞きの時にはなかった色だ。

「そうなんです。前回ご用意したのは黒だけだったんですが、今回は白黒赤青銀の5色展開になってます」

いいな。

おれは赤が好きだ。

「アキは赤が似合うな」

綾斗は目を細めてそう言っておれとヘッドホンを見比べる。

「まあ、おれには何色でも似合うけどな」

おれの言葉に綾斗は頷く。

「それは勿論そうだ。けど、アキの綺麗な金髪とピンクアッシュのメッシュには赤が一番映える」

いや……クソ真面目にお褒めいただきありがとう。

おれは少し調子を崩されながらスタジオに入った。

スタジオはブルースクリーンで覆われており、壮大なCGと組み合わせて作成されることがよく判る。

「よろしくお願いしまーす」

「よろしくお願いします」

おれたちは各々別々の撮影になるらしい。

それを後で編集で合成するそうだ。

まずは綾斗のシーンの撮影。

ブルースクリーンの前でビシッとポーズを決めた決めた綾斗は、誰がなんと言おうと格好いい。

モデルができそうなほどの身長と、涼しげな目元が凛々しいイケメンだ。

実際、最初にスカウトされた時はモデルとしてスカウトされたらしい。

うん、わかるよ。

ーー黙ってればだけど。

そもそも綾斗はおれやありすちゃん以外にそんなに喋る方でもないから、その残念具合はバレてないんだけども。

「ーー空の向こうまで、遙かなる音」

「カット!オーケーです!」

綾斗のカットが終わり、一目散にこちらへ向かってくる。

うん、褒められたくて仕方がない犬だな。

ぴょこぴょこ動く耳とブンブン振ってる尻尾が見える。

「アキ、どうだった?」

「うん、よかったんじゃね?」

「そうか!」

「では次、日比野さんいきまーす」

おれはスタッフに呼ばれて、ヘッドホンを持ってブルースクリーンの前に立つ。

綾斗とは反対方向に身体を向け、目線を下に向けた。

「スタート!」

おれは下に向けていた視線を徐々に上げ、何かを見つめるように遠くに視線を向けた。

「ーー虹の先まで、果てのない音」

「……カット!オーケーです!」

綾斗の熱視線が暑苦しい。

おれは小さくため息をつくと、先回りして言葉をかける。

「おれが格好いいのは言われなくても知ってるぞ」

その言葉に、綾斗はブンブンと首を振る。

「ああ、アキは格好いいし、かわいい」

いや、最後の要らなくない?

今のシーンかわいい要素あった?

おれは眉を下げると、再びため息をつく。

「では、お二人一緒のシーン行きまーす!」

「ほら、行くぞ」

「ああ」

おれは綾斗と背中合わせに立つと、ヘッドホンをかぶる。

「では、行きます!……スタート!」

「ワイヤレスで繋がっている」

「究極の高音質」

カメラマンがおれと綾斗の周りを回り、順に写していく。

「この感動を」

「ぜひ、あなたに」

「ーーカット!いいねえ!」

最後は二人で並び、お互いのヘッドホンの耳に片手を当てる。

「最後のカット、行きまーす!……スタート!」

「「サニー ワイヤレスヘッドホン『Sコネクト』」」

「……カーット!オーケー」

カットがかかり、おれはモニターチェックをする。

うん、なかなかいい。

あとはCGとどう組み合わせられるかが楽しみだ。

おれは満足して頷くと、褒められ待ちの綾斗を振り返る。

「あー、うん、よかったと思うぞ」

「……!そうか!」

まったく何だってこんなに相方に褒められたがるんだ……。

おれは近づいてきたありすちゃんから水を受け取ると、そっとため息をついた。

「お疲れのところ悪いけど、着替えて少し休んだら次の打ち合わせに行くわよ」

「へいへい。人気者は忙しいねぇ」

おれはそう言うと、衣装から着替えるために楽屋へと向かった。

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