パパラッチ フィーバー!

パパラッチフィーバー①

side L


ピピピピ ピピピピ ピピピピ ピピピピ

激しく鳴るスマホのアラームを止めると、おれは目を開いて擦った。

「ふぁああぁ〜」

漸く薬がなくても一人で眠れるようになってきたこの頃。

薬がなく眠れた日の朝はやっぱり気持ちがいい。

おれは軽く伸びをすると、ベッドから起き上がった。

洗面台へ行き、顔を洗って歯を磨く。

ええと、昨日のスケジュールは……午前中はダンスレッスン。

午後からはバラエティ番組の打ち合わせか。

おれはスマホのスケジュールを確認すると、テレビをつける。

画面にはツジテレビの朝の情報番組。

丁度、今は先週のオリコン情報だ。

『先週のオリコンチャート一位は……やはり強い!A’sエースのenergy!でした!』

おお、A’sが一位か。

さすが名前の通りTrident Promotionトライデント プロモーションのエース。

巷ではおれたちAshurAのライバルなんて言われてたりする。

A’sはTrident Promotionのダンスヴォーカルユニットで、日比野秋生ひびのあきみ嘉神綾斗かがみあやとの二人組だ。

甘めの顔で勝気の秋生と凛々しくてクールな綾斗の絶妙なバランスの二人は、AshurAと二分する人気がある。

実は、この二人もボーイズラブゲーム『君は最推し!2nd season』に出てくるキャラクターだ。

日比野秋生は『君は最推し!2nd season』の敦士のライバルキャラクターとして登場する。

そしてなんと、AshurAのメンバーをフルコンプリートすると、隠しキャラとしてA’sの二人も攻略出来るようになるのだ!

ライバルの時の秋生はちょっと高飛車で敦士の邪魔をしたりする嫌なヤツ何だけど、攻略キャラになるとこれが一変する。

仲良くなるとツンデレのデレ多めの可愛いキャラなのだ。

おれは、AshurAは勿論A’sの二人も大好きだった。

特に、秋生のツンデレ具合には何度画面の前で「クゥ〜!」と言わされたことか……。

しかし、こちらの世界が現実になると、やはりゲームの世界とは色々違ってきている。

秋生は別におれたちに絡んできたりはしないし、敦士に嫌がらせをしたりもしない。

至って普通の芸能人同士と言った感じだ。

上手いこと今まで同じ時期に曲をリリースしたことがないから(上の策略かもしれないけど)直接対決はしたことがないけど、直接対決したらどっちが勝つんだろうなぁ。

まあ、負ける気はないけどな。

おれはパンを齧りながら敦士の迎えを待つ。

ピンポーン

あの一件以来、敦士はからなずおれの部屋の前まで迎えにきてくれる。

おれはその方が安心できるけど、ちょっと申し訳ない。

しかし、それを言うと決まって「凛さんの安全に変えられるものはありません!」と一蹴されてしまうのだ。

おれはチャイムの音にカバンを持つと、仕事へと向かった。

「おはようございます、凛さん」

「はよ」

「おはよ」

「おっはよー」

車に向かうと、すでに優と翔太が乗っている。

「あれ、翔太。車は?」

おれは車に乗り込みながらそう聞くと、翔太は笑いながら答えた。

「だってさー、自分の車だったら凛と一緒に居られる時間が減るじゃん!」

「車で行ってくれていいのに」

翔太の言葉に、優が茶々を入れる。

「えー!優だって車あるのにこれで来てるじゃん!」

「え!優、車持ってるの?」

おれの言葉に、優は頷く。

「おれは仕事前に運転して余計な神経使いたくないからね。でもプライベートなら乗るよ。今度乗りに来る?」

なんだなんだ、皆車持ってるじゃないか。

おれも買おうかなー。

そんな事を話していると、清十郎のマンションに着く。

「おはよう」

「はよ」

「おはよ」

「おっはよー」

あ、もしかして清十郎も車持ってたりするのかな……。

「清十郎、おまえは車持ってたりする?」

「?なんだ急に。」

清十郎は車に乗り込みながら不思議そうに聞く。

「いや、優も車持ってるって言うからさ。持ってないのおれだけ?って」

「ああ、そう言うことか。……それならおれは持ってない。バイクがあるからな」

「あ!そうか!バイク!」

そうだった、清十郎にはバイクがあるんだったな。

バイク雑誌で表紙飾ってた事もあったな、そう言えば。

確かに清十郎にはバイクが似合う。

ライダースーツをビシッと着こなしてバイクに跨る清十郎は、うっとりするほど格好良かった。

「なんだ、気になるなら今度ツーリングに行くか?」

「え、いいの?」

「勿論だ」

「えー狡い!おれともドライブ行こー!」

「それならおれが先でしょ」

お前らは先生を取り合う幼稚園児か!

おれはワーワー言うメンバーをいなして、ため息をつく。

「わかった、順番!皆とちゃんと遊ぶから」

「よっしゃー」

「絶対だよ?」

「覚えたからな」

「はいはい。忘れませんって」

あの事件以降、敦士以外のメンバーもかなりおれに過保護になっている。

まあ、おれ自身もちょっとした……いや、かなりのトラウマになったから、過保護気味でもありがたいんだけどな。

おれたちはレッスンスタジオに着くと、各々着替えをする。

「ふふ〜ん。どこにドライブいこうかなー!ねえ凛、どこがいいー?」

翔太なんか、鼻歌を歌いながら着替えをしている。

そんなに楽しみにしてくれてるのか……。

「んー、翔太のオススメのところでいい」

おれの返事に、おれたちから少し遅れてやってきた一哉の眉がキリキリと上がる。

「ちょっと待て、なんの話だ」

「おれと凛のドライブデートの話だよー」

にへっと笑いながら翔太がそう言う。

「はあ?!」

一哉は目を釣り上げると、くるりとおれの方を向いた。

「それならおれとのデートの方が先約だろう!」

「あ、そう言えばそうだな。うん、一哉が先だ」

「えー!」

おれの言葉に、翔太がその頬を膨らませて抗議する。

「ドラマ撮影の時、本読み付き合ってもらったお礼がまだなんだよ」

おれはそう言うと一哉を見る。

「一哉は何したいんだ?」

「プランはおれに任せろ」

「ん、任せた」

その向こうでは翔太、優、清十郎が真剣な表情でジャンケンをしている。

どうやらドライブの順番決めらしい。

おれはその辺はもう本人に任せることにして着替えに集中した。

おれはダンス用の動きやすい格好に着替えると、フロアに立つ。

その後を清十郎、優、翔太、一哉が出てくる。

今回もダンスの振り付けは清十郎と一哉だ。

「じゃあ、今回のダンスを説明する」

清十郎はそう言うと一哉と並んでおれたちの前に立ち、曲をかけて一通りのダンスの振りを披露した。

か、格好いい……。

清十郎のキレッキレのダンスと躍動する肉体が美しすぎる。

対して一哉のダンスは優雅で滑らかだ。

どちらも甲乙つけ難い……。

……って、今回のダンス難しっ!

曲調が激しいから、自然とダンスも激しくなる。

え、おれ大丈夫?

このダンスしながら歌える?

めちゃくちゃ格好いいけど、これおれ踊れる?

おれは内心アワアワしながら二人のダンスを見る。

曲が終わると、清十郎の視線がメンバーに向いた。

「どうだった?」

「うん、格好いいね。けど難しそうだ」

優は正直にそう口にする。

「そうだな。特におまえたちはサビ以外も歌いながらだから、難易度が上がるだろう」

「うう……おれ、踊れるかな」

「何言ってんだ。なんだかんだで今までだって『無理だ無理だ』って言いながら、完璧にこなしてきたくせに」

一哉の言葉におれは心の中で叫ぶ。

そりゃあね!

凛の姿で無様なダンスなんて見せられないから、おれ必死で努力してますから!

まあ、そんな事嘆いてても仕方ない……上手くなるには練習しかないからな。

おれは気合を入れると、鏡の前に立つ。

「じゃあまず前奏部分から行くぞ」

清十郎も鏡の前に立つと、鏡越しにおれたちを見ながらポーズを取る。

「ワンツー、スリーフォー……」



そんな感じで午前のダンスレッスンは終わり、おれたちは午後のバラエティー番組の打ち合わせにテレビ局に来た。

うう……身体中が痛い。

普段からダンスをしてるおれでも筋肉痛になりそうだ。

おれは身体を肩を回して身体をほぐしながら、ミーティングルームに入る。

「ううー身体が痛いよー」

翔太がそう言いながらおれにしなだれかかってくる。

うん、おれもだよ……。

今回は珍しくAshurA全員が出演するバラエティー番組だ。

なんと、今回出演するのはA’sの二人の名前が入った冠番組である。

A’sの二人がミュージシャンと対談しながら色々な企画をするという番組だ。

A’s自体の人気もさることながら、A’s二人の掛け合いが面白いと深夜枠からゴールデンに進出した人気番組なのである。

歌って踊れて、トークもできるなんて凄いよな。

そこに、今回おれたちAshurAがゲストに呼ばれたのだ。

打ち合わせでは、A’sの二人とのダンスバトルの企画や、音程当てやメンバーの好みを当てるクイズなどが企画されている。

負けた方は酸っぱいジュースを飲むと言う罰ゲーム付き。

……おれはいつもクールな顔をしてる一哉あたり負けないかな、なんて意地悪なことを考えてしまった。

「企画の説明は以上になります。何かご質問等ありますか?」

一通り企画の説明や打ち合わせが終わると、プロデューサーからそう聞かれ、おれたちは首を振る。

「では、打ち合わせは以上になります。後は当日リハーサルと本番、よろしくお願いします」

そう言われて、おれたちがミーティングルームを出ると、丁度A’sの二人も打ち合わせが終わって部屋から出てきたところだった。

「お、AshurAじゃん」

A’sの日比野秋生がそう言って笑う。

「今度よろしくなー!」

「よろしくお願いします、でしょうアキ!」

マネージャーの女性が、そう言って日比野の頭をバチンと叩くと、おれたちに向かって頭を下げる。

「次回はよろしくお願いします」

眼鏡をかけて一見地味にしてるけど、この人凄い美人だ。

おれの目は誤魔化せない。

……なーんて、そういう設定だから知ってるだけだけどね。

でも、ほんとに美人だ。

おれはA’sの二人とマネージャーに視線をやると、ペコリと頭を下げる。

「こちらこそよろしくお願いします」

「よろしく」

嘉神綾斗がそう言ってクールに挨拶する。

くー、格好いいな!

おれが嘉神を見ていると、不意に日比野と目が合った。

「?」

「なあ、LIN。ちょっとで良いんだけど、今時間ある?」

日比野は突然おれにそんなことを言い出す。

「えっ?!」

おれは意味がよくわからずに日比野を見つめると、日比野は悪戯っぽい目でおれを見た。

「だからーちょっと顔貸してって言ってんの」

「ちょっとアキ!何言ってんの!」

マネージャーが目を見開いて日比野に問う。

「ありすちゃん。おれ今日一人で帰るから、綾斗だけ連れて帰って」

「何を言って……」

「いいから。ね、お願い!」

そう言って日比野はマネージャーに手を合わせて舌を出すと、おれの方を振り返る。

「な、LIN。行こうぜ!」

「おい、ちょっと待て……」

押し留めようとする一哉の手をするりと交わし、日比野はおれの肩を抱いて歩き出す。

「ちょ、ちょっと……」

おれが慌てて止めようとすると、日比野が耳元である言葉を囁いた。

「……徳重雅紀」

おれはその言葉に一瞬固まると、そのまま日比野は開いている会議室へと滑り込む。

日比野は後ろ手に鍵を閉めると、ゆっくりとおれの方を向いた。

「な……んで、おまえがその名前を知っているんだよ……」

ドクドクと脈打つ心臓を感じながら、おれは日比野にそう問う。

「ーーわかんないか?」

「わかるわけ……」

おれがそう言いかけると、日比野はおれの言葉に被せるように声を発する。

「ーー藤代涼太」

「……え」

突如、再び聞き覚えのある名前を出されて、おれは酷く混乱する。

藤代涼太とは、前世でのおれーー徳重雅紀の友人の名前だ。

と、言うことは、まさかーー。

「え……もしかしてーーおまえ涼太なの?」

おれはこれ以上大きくならないんじゃないかってほど目を見開き、日比野を見つめる。

「やっぱり、おまえ雅紀か!」

おれたちは一瞬見つめ合った後、激しく抱き合って再会を喜んだ。

日比野ーー藤代涼太はおれの前世の腐男子仲間で、親友だった男だ。

毎晩のようにネットでボーイズラブについて熱く語っていたのを覚えている。

勿論、涼太も『君は最推し!』をプレイしていた。

ーーそういえば、涼太の最推しは秋生だったな。

おまえもおれと同じで最推しに転生したのか。

おれはなんとも言えない顔をして涼太を見ると

、同じ事を思ったのか向こうも苦笑する。

「おれ、記憶を思い出したのが最近でさ……。いや、ビックリしたのなんのって」

「あ、おれもだよ。つい4、5ヶ月くらい前」

「まじかー!ほぼ同じくらいの時に覚醒したのな。いやあ、今日不審に思われるの覚悟で話しかけてよかったわ!」

そう言って涼太は笑う。

「しかし……おれはともかくとして、おまえも転生したってことは、何かで死んだの?」

「あ、おれね、バイク事故……。バイク乗ってたらトラックに追突された。お前が死んで、三ヶ月くらい後だったかな」

いや、明るく笑ってるけど結構壮絶な過去じゃない?

おれは苦笑いすると、涼太を見る。

「ていうかさ。happiness見たよ、ヤバすぎ。めっちゃ良かった」

「ぐわー!恥ずかしい!」

おれは顔を覆うと、ジタバタと動いた。

「何でだよ、褒めてんだよ!語りたくて仕方ないよおれは。語りたすぎて、匿名で腐男子Twitterアカウント開設しちゃったよ!!」

「おまえ……なにおれと同じ事してんだよー!」

おれたちは懐かしさから話が盛り上がりに盛り上がると、まだまだ語り足りずに日比野の家に行って存分に近況報告をし合うこととなった。

「えーと、日比野?」

「秋生でいいよ。おれも凛て呼ぶし」

おれらは軽く変装すると、近所のコンビニで酒と肴を買い込み、秋生の家で存分に語り合った。

まさか、そこからこんな騒動になるなんて思いもせずに……。

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