果実

六宗庵

表題・果実

 


皆様におかれましては、こんな妄想をしたことがあるでしょうか。



幼い頃、私は父から一羽の背黄青セキセイを賜り、それはそれは子供ながらに、懸命に愛でていました。

家は父の仕事柄内地であり、やたら"こんくりいと"で固められた硬い地面や、先の見えぬビルヂングに囲まれていたので、生きた色彩が間近で見られることはとても貴重な体験であり、また楽しいものでした。

然して、相手は生き物。慣れぬ環境に世話の仕方も知らぬ者が集まる成金の家。色彩はおよそ三年ほどでその羽ばたきを止め、私は庭の唯一の柿の木の下に彼を弔いました。




それを、久方振りの今日、思い出したからでしょうか。

私は娘と庭でのケンケンパの最中でした。―ふと、刹那に奪われた目線の先。

色彩が、熟れた柿の実に成り代わり、そこに生っていました。いくつも、いくつも。

色彩は実を食い破ったかの様に見え、ぴちりと実と一体化し、そこへたわわに生っていました。


「…ちちうえ?」


娘の声にはっとして、次に仰ぎ見た時。色彩は、もうそこにはおりませんでした。


遠く、中の国では伝説として、赤子の顔をした果実があると聞いたことがあります。

ならば、果たしてあれはなんだったのでしょうか。鳥面果、とでも名付けるべきだったでしょうか。


私からの、お話はこれまでです。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

果実 六宗庵 @keinxpulse

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ