第3話 功次とジュリの災難
俺は窓からの朝日で目が覚めた。
「…よく寝た」
俺は眠い目を擦りながら起き上がった。
「そういえばジュリと寝たんだったな」
隣でジュリが小さく寝息を立てて寝ていたので俺はそう呟いた。昨日はいろいろあったな。
ジュリが来て、真式を泊めることにして、ジュリの服を買ったり、いろいろあった。
これからは人数が増えて賑やかに生活していくのだろう。俺はそう思った。
「起きるか」
そうして俺はベッドから出ると
「…ん~」
ベッドからそんなに声が聞こえた。
「ジュリ起きたのか?」
俺が起き上がるジュリにそう聞くと
「…おはようございます。
ジュリは眠そうにそう言ってきた。
「眠かったらまだ寝てていいぞ。ジュリ」
俺がそう言うと
「大丈夫です。起きました」
そうしてジュリもベッドから出てきた。
「おはようさん。朝飯にするか?」
俺はジュリに朝飯にするか提案すると
「功次さんのお腹が減っているなら」
そう答えた。
「分かった。俺は腹が減った。だから飯にしようか」
「分かりました」
そんなやり取りをして俺らはリビングへ向かった。
「さーてと朝飯何作ろうかね?」
俺がそう言うと
「それなら私が作っても宜しいでしょうか?」
ジュリが俺にそう伝えてきた。
「なんだ?ジュリって飯作れたのか?」
俺は気になった。何故ならジュリはずっと奴隷だったはずなのだ。それだったら飯を作る練習が出来るタイミングはないと思っていたからだ。
「作れますよ?一応私女性ですよ?」
「いや女子が全員料理出来るってことはないぞ?」
偏見にも程がある。
「そうなんですか?今まで見てきた女性は皆料理出来ていそうだったので」
あー、あれだ。多分前はデルタロトの野郎が金に物を言わせて良いメイドとかを雇っていたからだろう。
「まぁ料理できるならお願いしようかな。家にあるものなら何でも使っていいぞ。大体の調味料は揃っているから」
「ありがとうございます。美味しく作れるように頑張ります!」
ジュリは意気込んで料理を作り始めた。ジュリが料理上手だったらこれから無理のない程度で頼むことにしよう。生きる上で自分で料理ができる程度にはなったがプロではない。
「俺は俺ですぐ食べれるように準備しておくか」
そうして俺は皿やコップを用意する。
「ありがとうございます、功次さん。ところで真式さんは起きてこないですけど大丈夫ですか?」
ジュリが料理をしながら聞いてきた。器用だな。
「問題ない。あいつは飯の匂いがしたら起きてくる」
「犬ですか?」
「かもしれない」
そんな話を少ししていると
「なんだか美味い匂いがするぞ〜?」
そう言って二階から犬かもしれない真式が降りてきた。
「本当に降りてきましたね」
「言った通りだろ?」
「もうそろそろ朝飯なのか〜?」
「あと少しで出来るので少し待っていてくださいね」
「はーい」
子供か?真式は眠そうに答えた。
「出来ましたよ」
そんなこんなでジュリは朝飯を作り終えた。朝飯なだけ合ってシンプルな見た目をしていた。
「ありがとうな、早速食べるか」
「おう、いただきます」
俺らは食べ始めた。味も美味しいし食べやすい。真式の量が俺よりも多かったが昨日の時点で真式がよく食べることが分かったので多くしたんだろう。気を使わせたか?
「美味いなこれ。そこら辺で食べるよりも美味いな」
真式はすごい勢いで食べ進める。朝だというのに何故こんなにもガツガツと食べられるのだろうか。
「ありがとうございます」
「功次よりも美味いなこれ」
「お前めちゃくちゃ失礼だな」
こいつに俺の金で飯与えるのやめようかな。
「私なんてまだまだで、昨日の功次さんのご飯のほうが美味しかったですよ」
「ジュリは良いやつだな、それに比べこいつは…」
「なんだよ?」
「はぁ〜」
「あはは…」
そんな会話をしながら食べ進み全員食べ終えた。
「後片付けは俺がやっておくよ」
「い、いえ私がやりますよ」
「作ってもらったんだ、こっちは俺にやらせてくれ」
「そ、そうですか」
ジュリに納得してもらって片付けを始める。三人分ともなると食器の量も多くなってくるな。
「俺は昼からちと働いてくる」
「了解した」
「真式さんってなんの仕事をしているんですか?」
ジュリは真式に質問した。たしかに昨日の様子だけじゃただのダメ人間に近い。
「俺は力を使う系統を全般でやるな。建設業とか引越し業とかそんな感じのやつ」
「へー」
「夕方までには帰れると思う」
「あいよー」
そんな話をしながらも俺は食器を洗い終わった。真式は昼から仕事か。俺も今日は作業を進めるかな。
「俺もちょっとしたら仕事進めるわ」
「私もなにか手伝えることありますか?」
「いや、大丈夫だ。ていうかそうだよな。昼間やること無くなっちゃうか?」
「確かにな、俺らは仕事があるけどジュリが暇になるかもしれないな」
「私は大丈夫です。何もしないでいることは慣れていますので」
うーん。でも何もしないでいさせるのも可哀想だな。何か手伝ってもらうか?
「だったら買い物でも頼んだらどうだ?昼飯とか夜飯の食材を買ってきてもらうとかさ」
「確かにそれは助かるな。行けそうか?ジュリ」
「問題ないです。今から行ってきたほうが良いですか?」
「いやまだいい。昼の分の食材は残っているからな。昼は俺が作ろうか?」
ジュリは料理がうまいが朝作ってもらって昼も作ってもらうってのは申し訳ないからな。
「私がやりますよ。ここに住ませてもらうんです。お世話されっぱなしは申し訳ないです」
「そうか。じゃあ無理のない程度で頼むわ。料理に関しては俺より美味かったからな。これからも頼みたい」
「いいですよ。私に役割をくれてありがとうございます」
「おう。じゃあジュリがどんなのを作るか決めていいから好きな時に買い物に行ってくれ。行くときにお金渡しておくから」
「分かりました」
「功次はそろそろ作業始めるか?」
「そうするよ」
「功次さん、頑張ってくださいね」
「おうよ」
俺はリビングから離れ作業部屋に向かった。
「なぁジュリ。今日聞くのか?功次にさ」
功次さんが作業部屋に行ったあと、真式さんが訪ねてきた。きっと昨日話していたことだろう。
「そうですね。聞きたいんですが迷惑じゃないでしょうかね?」
「そうだな。あいつに直接聞いてみなとは言ったが多分教えてくれないと思うんだよな」
「教えてもらえなかったら真式さんに話してもらうって言ってもらいましたけど、どうして功次さんは話してくれないと思うんですか?」
私は功次さんという人間性が気になっているので知りたい。優しすぎる性格と強さ、経済力。今までいろんな人を見てきたけど一番異質な感じがする。私は功次さんとこれから生活していくだろう。だから知りたい。
「あいつは話すと過去を思い出してしまうってのもあるだろうしあいつ自身、誰も信用していないんだよ。それは過去が理由なんだけどさ」
「そうなんですか…」
重々しく話す真式さんの顔にはいつもののんびりした顔ではなかった。その表情だけで功次さんの過去がどれだけ辛いものなのか感じ取れる気がした。
「まぁこれからあいつとお前は長い付き合いになるんだ。知っておきたいよな」
「はい。私はまだ出会って二日目ですけどそれでも功次さんを信じています。功次さんに隠し事はするつもりもありません。信じてもらわずとも疑われるようにはしたくないです」
「聞こうとしても怒られるようなことはないだろうから。あいつと向き合ってくれ」
「はい」
頑張って功次さんに少しでも信用してもらえるようにしよう。
「じゃあオレは仕事行ってくるぜ」
「行ってらー。サボるんじゃないぞー」
「うるせぇやい」
「気をつけてくださいね」
「おうよ。ジュリもな」
昼飯もジュリが作った美味いものを食って真式は仕事に行った。少し休憩してから俺も作業を再開するか。
「お昼も食べましたし買い物に行ってきましょうか?」
「飯食ったばかりだし休憩してもええよ。俺もちと休憩してから作業を再開するから」
「分かりました。では功次さんがお仕事を始めたら買い物に行きますね」
「買い物するなら昨日行ったヴェーラ屋だと思うけど場所分かるよな?」
「大丈夫ですよ。道は覚えています」
「最悪迷子になったら街の奴らに聞けばいいからな」
「分かりました」
「ついでになんか欲しいものがあったら買ってもいいからな」
「そんな無駄遣いはしませんよ」
「遠慮すんなよ」
そこから俺らは30分ほど休憩して各々の行動に出た。
「ふぃー結構進んだな」
俺は手を止めて時間を確認した。時計の針は4時を指していた。
「遅いなジュリ」
家を出たのが昼だったのを考えるとかなり遅い。迷子だったとしたら街の人とかに聞くように言ってあるから可能性は低いだろう。買い物が長引いてる?いや昨日買いに行った時はすぐに食材を持ってきたのでその可能性も低いだろう。もしかして誘拐?ありえなくはないがここからヴェーラ屋までは人通りが十分にある。犯人がそれを行おうものなら相当頭が悪いか計画があるかのどちらかだ。心配になった俺はリビングのテーブルに遅くなった時用の真式への置き手紙とジュリが帰ってきた時用の置き手紙をを書いて外に出た。
「どう探したもんかね」
とりあえずヴェーラ屋に行ってジュリは来たか聞いてみるか。危険なことに巻き込まれていないことを信じて走って向かった。
「ジュリちゃんかい?とっくに前にここを出たよ」
ヴェーラ屋まで走って来た俺に驚いたバルコルにジュリが来たかどうかを聞いたらすでにここを出ていたらしい。
「どうしてそんな事を聞くんだい?」
「ジュリが帰ってこないんだ」
「なるほどね。それは良くないな。僕も探すのを手伝おうかい?」
「いやバルコルは仕事があるだろ。もし1時間探しても見つからなかったら頼むことにするよ」
「分かった。無事でいることを願っているよ」
「あぁ邪魔して悪かったな」
そうして俺はヴェーラ屋を離れた。
ヴェーラ屋には来ているのか。それだったらますます変だな。これはあかんやつかもしれないな。急いだほうが良さそうだ。
そこまで考えているとあることに気づいた。大通りを歩いているのにも関わらず人通りがない。俺以外今この場にいないのだ。おかしいぞ。これは絶対なにかある。
そう考えた時後頭部に衝撃が入った。その瞬間意識が飛んだ。
「…うーん」
何が起きたんだ?てか視界も真っ暗だ。目隠しでもされているのか?腕も足も動かないな。拘束されたのか。
「やあやあお目覚めかい?クソ野郎」
突然そんな声が聞こえた。知らない声だ。声質的に男でそこまで年はいってない。15歳程度か?
「何者だお前は。声質的に若いな?」
俺は落ち着いて相手に問いかける。下手に騒いで重要な情報を聞き逃したくないのだ。
「腹が立つね。そんな落ち着いていられるとさ!」
「グフッ…」
相手が声を少し荒げると俺の腹に一発殴ってくる。かなり好戦的だな。
「俺の問いに答えてもらえるか。それか目隠しを外してくれ」
「そうだね。目隠しはなくてもいいかな」
そうして相手が目隠しを外す。目に光が入ってくるかと思ったがすぐに目がなれた。かなり暗い牢獄のような場所だった。俺は壁に手と足を金属製の拘束具で拘束され檻の中に入れられていた。そして目の前に居たのは予想通りかなり若い男が立っていた。
「ここはどこだ?」
「ここは僕だけの監獄さ。気に食わないやつはここで痛めつけるのさ」
目の前の男はニヤニヤしながら答えた。
「なるほどな。俺は気に食わないからここにいると。だが俺はお前を知らない。何者だ」
「僕かい?僕はとっても偉い人さ」
何を言っているのであろうか。
「偉い人?悪いが俺はそんな冗談に付き合っている暇はないんだ。やることがあるんだ」
そう。今はこの男に付き合っている暇はない。一刻も早くジュリを見つけなければならないのだ。
「おやおや何をそんなに急いでいるんだい?もしかして君は誰か探しているのかな?」
「そうだ。だから今はお前と関わっている暇はないんだ」
内心少し苛つきながらも落ちついて受け答えしていると男はまたもやニヤニヤしていた。
「何がおかしい」
「いやねー君が探しているのはこの子じゃないかなーって」
その言葉で牢獄の外に居た鎧を着た男が縄を引っ張って来たのはジュリだった。
「ジュリ?なんでここに?」
「功次さんこそ何故ここに?」
ジュリには傷もなさそうだし精神も大丈夫そうだった。そこには安心したがこの男が明確に敵であるということだけは理解出来た。
「感動の再会のところ悪いけどこれは返してもらうよ」
「返してもらう?何を言ってるんだ」
意味不明なことを言う男に疑問を返す。
「そのままの意味さ。返してもらうんだよ。これは元々僕達のものだ」
「ジュリはものじゃない。人だ。これ呼ばわりはするな」
ジュリの呼び方が人に対するものではないので俺は男に対して少し苛立ちを見せる。
「おー怖い怖い。でもそんな事をいう君の方がおかしいんだよ。これは奴隷。人なんかじゃないよ」
んっ?奴隷?ジュリが奴隷であったことを知っているのは俺の知り合いだけのはず。こいつを俺は知らない。知り合い以外だとしたら死んだデルタルト位なはず…待てよ。こいつは「返してもらう」そう言ってたな。ということは…
「お前、デルタルトの身内か!?」
「ようやく気づいたんだね。このおバカさん」
「返してもらうと言ったな。ジュリに何をするつもりだ!?」
相手がデルタルトの身内ということはジュリに対して何をするか分からない。そうなってくると俺に余裕がなくなってきた。
「これを楽しむのは家に戻ってからだ。今はお前が相手だ」
「俺には何をしてもらっても構わないがジュリには手を出すな!」
「そうだね。その性格、他人のことを自分よりも考える。今は亡きお父様が嫌うのもよく分かるよ。僕もその考え方すごく気に食わない」
お父様?ってことはこいつはデルタルトの息子?
「しかもお父様が亡くなったあの日、僕が見たお父様を殺した女と同じ黒のパーカーを着ている。とことん腹が立つ要素を持っているね」
「デルタルトを殺した女なんて俺は知らない!俺が今捕まっているのは全くのとばっちりじゃないか!」
「でもね君の存在が気に食わないんだ。だからいまここで君を苦しめるんだよ」
そう言ってデルタルトの息子はニヤリと笑い俺のいる檻から出た。何をするつもりなんだ?
「それを渡せ」
デルタルトの息子が縄で縛られたジュリを鎧を着た男から引き渡される。ジュリを連れて俺の檻の前まで来る。
「こ、功次さん…」
「おいジュリには手を出すなよ!」
「嫌だね」
「痛っ」
俺の喚起を拒否してジュリを連れて床に倒す。
「お前っ!」
「功次さん、私は大丈夫ですから…」
俺を落ち着かせるようにジュリが声をかける。
「あれあれ?最初の落ち着いていたのはどこに行ったのかな?」
「くっそ…」
煽るようにデルタルトの息子は俺に言う。
「もっとお前には苦しんでもらおう」
そう言うと近くに置いてあったナイフを手に取りジュリの上に馬乗りになる。
「お前っ何をする気だ!」
「これはナイフなんだよ?この状況ですることなんて決まっているじゃん」
「お、おいやめろ…」
「自分の無力さを感じるんだな」
そう言ってナイフを振り上げる。
「いやっ…」
「やめろっー!!!」
俺は大声で静止するが意味はない。あぁ俺はどれだけ無力なのだろう。
そこで俺の意識は闇に落ちた。
「いやっ…」
「やめろっー!!!」
功次さんはとてつもない声量でこの人を静止しようとする。その声量はこの空間にいる人全てが耳を塞ぎ動きを止める程だった。
「うるっさ」
あまりの声量にこの人もナイフを振り下ろす手を止める。この間に離れようと思ったが縄で縛られているのと馬乗りにされていて身動きが取れなかった。
「まぁどれだけ止められようとやるんだけどね」
そう言ってまたナイフを振り上げる。私は覚悟を決めた。やっぱり痛いのは嫌だな。
「させないわよ」
覚悟を決めるとそんな言葉が聞こえた。女の人?
「誰だ?」
この人も手を止め疑問の表情を浮かべる。ふと功次さんが拘束されていた檻を見るとそこには功次さんよりも圧倒的に長い髪、胸には男の人ではありえない2つの膨らみがあった。やはり女の人だ。
「お前は誰だ?」
この人も気づいたようだ。その女の人をよく見ると功次さんと同じ服装をしていた。
「さっき功次が最初聞いた時に答えなかったのに自分は聞くのね。あんたに答える義理はないわ」
女の人は冷静に話している。
「まぁお前が何者であろうとも関係ない。どのみちその檻からは出れない」
「そうかしらね」
そう言うと女の人は手を少し動かしただけで壁に固定された手の拘束具を破壊した。バキンという音を立てて金属片が床に落ちる。
「な…な…」
とても驚いた様子で私の上から離れる。それはそうだろう。完全に動きを封じていた相手が突然動けるようになったのだから。
「よいしょっと」
女の人は軽々と足の拘束具も破壊する。この人は既に愕然として声すら出ていない。
「あっ、この檻は拘束具より固いね。鍵渡してくれない?」
檻の出入口の金属を触って変わらないトーンで話している。自分のやったことがどれだけすごいことかわかってない?
「わ、渡すわけないだろう!どのみちお前は出られないんだな!」
この人も焦りが見える。
「あら渡さないの?じゃあ遠慮なく」
そう言って出入口の金属も曲げて中から出てきた。
「…は?で、出られないんじゃないのか!?」
「あら誰が出られないって言った?私はここまで固い金属はそこそこの値段するだろうと思って親切心で言ってあげたのよ」
「な…」
驚きのあまり固まっていた。
「さてと功次を苦しめたのとジュリちゃんを拉致したから充分破壊するに値するわね」
「くっ…お、お前ら!こいつを殺せ!」
余裕がなくなったようで私を縄で縛っていた兵と奥から5人の兵が追加で来た。
「あ、あの…」
私は女の人を心配して逃げるように言おうとすると
「大丈夫よ、ジュリちゃん。ここは私に任せな」
そう笑顔で言ってくる。その顔には功次さんと同じ雰囲気を感じた。私はその言葉に安心したがそれと同時に不安もあった。功次さんは強いと思うがこの女の人は強いのか分からない。しかも相手は強そうな兵士5人、武器も持っている。いくら強くても勝てる可能性が低い。
「随分と余裕だな。今許しを請いたら妾くらいはしてやるぞ」
「嫌よ。あんたは忘れたの?功次がいたところに私がいたのよ。功次は私で私は功次。あんたが妾にしようとしているのは功次よ」
「そうか、それなら殺す他ないな」
「そしてあんたはまだ忘れていることがあるよ」
「は?」
「デルタルトのクソジジイを殺したのは…私よ」
「「え?」」
突然のカミングアウトにこの場にいる全員が固まる。
「お…お前が…」
「何?声が小さくて聞こえないわよ」
「お前がお父様を殺したんだな!」
「えぇそうよ。功次に危害を加えるし街の人を苦しめるんだもの。我慢が出来なくて殺したのよ」
「お父様が何をしたっていうんだ!」
「何をした?数多の悪行をしておいてって、そうかあれしか見てなかったら正しさなんか分からんだろうな」
「うるさい!お前がお父様の敵なら容赦はない!」
「ま、こいつも同じか。ジュリちゃんを物扱いする程度だ。容赦はいらないね」
女の人はそう言うと笑顔を消し構えた。
「お前ら!こいつはお父様の敵だ!容赦はいらん!殺せ!」
そう叫んで周りの兵士たちが女の人に攻撃を入れようとする。
「ジュリちゃんは下がってて!」
そうして戦闘が始まる。
兵士の1人が剣を振り下ろす。女の人は軽々と避けもう1人の顔にパンチを入れる。
「グッ…」
相手は吹っ飛んで壁に叩きつけられる。2人の兵士が女の人を捕まえて斬りつけようとする。しかしそれも避け片方の脇腹に回し蹴りを入れ2人とも吹っ飛ばす。
「な…な…」
「何々弱いわね?これだったら拘束具さえ無かったら功次でも勝てちゃうわよ」
「い、いやまだだ!こいつらは軍の中でも上位の戦力だ。ただの民間人ごときが勝てるわけ無い!」
「ここまでやっといてまだ私を見くびるつもりなの?戦う相手は選んだほうがいいわよ?」
「う、うるさい!やれ!お前ら!」
「本当に救いようがないわね」
その声で残りの二人が女の人に攻撃の体制を取る。その様子からは殺意を感じた。視線が怖すぎて私は床に膝をついてしまった。
「さっきはあんたたちから来たから今度は私から行くよ」
そう言って1人の兵士に突っ込んでいく。そのスピードは人の出せるようなものではなく獣のようであった。相手の目前まで行くと拳を固く握り相手の顔に付き出す。それを相手は剣を持っていない方の手で掴み体を持ち上げる。相手の兵士はかなり身長が高く功次さんの体の女の人よりも一回り大きい。
「あんた今の止めるとはかなりやるね」
「この状況でよくもそんな余裕があるな。お前の動きは防いでいる。俺は剣が使えるのだ。このまま刺すことだって出来るんだぞ」
「やればいいじゃない。これは殺し合いなのよ」
「そうかいい覚悟だ。一思いにに殺してやろう」
そう言うと剣を振り上げ殺そうと構える。私が出ても意味もなく殺されるだけ…どうしようもなく私は見ていられず目を閉じてしまった。
「まぁそんな簡単に死んでやるわけないけど」
「ウグッ…」
そんな唸り声を出して膝から崩れ落ちた。何が起きたの?
「男って可哀想よね。急所が多くて」
「貴様っ、よくも…」
「言ったでしょう?これは殺し合い。なんで急所を蹴ってはいけないっていうルールがあるの?」
どうやら相手の兵士の急所を蹴って悶させているようだ。私は女の人が殺されないで済んだので安心した。
「あんたたちは1人ずつ攻め込もうと考えるの?まるで最東国みたいね」
「そうか…女だからだと1人ずつでも良いと思ったが貴様は違うな。部下を一瞬であしらい先程の拳に俺に入れた蹴りも軍の者でもそうそういない。手加減をする必要はないな」
兵士二人からの殺意がまた強くなった。もう立つことすら私はままならない。
「あら?よく立てるわね。これに耐えられそうなのは功次だけだったのだけど」
「本気でいかせてもらおう。1人である必要がないのであろう。挑発した自分を恨むんだな」
「構わないわよ。本気で来てちょうだい」
その言葉で2人の兵士は挟み撃ちで攻める。片方が右から剣を振り、もう片方が左から剣を振る。2人は慣れているような連携を取った。
「ほーん?」
それを見てからしゃがんで避けた。しかしそれも計算通りのように片方が剣を下に振り下ろす。
「まぁそうするわよね」
「なにっ!?」
とても低い姿勢になり足払いをして振り下ろしてきた兵士を転ばせる。それを見たもう片方は今度は突き刺すように剣を出す。その剣先を軽々と避け相手の後ろに回り込む。剣の先端は勢いが押さえきれずそのまま壁に刺さる。
「相当切れ味良いわね」
そんなことを言う女の人は相手が2人が手練の軍人であるにもかかわらず顔には余裕が見える。後ろに回り込んだので拳を握り構えようとすると
「ふんっ!」
「おっとっと」
先程転ばせたもう1人が剣を薙ぎ払う。それに気づき身を捻り躱す。
「いまのを躱すか」
「ちょっと危なかったわ。その鎧相当重そうだから起きるのにもう少しかかると思ったんだけど」
「最初の二段攻撃を躱され転ばされるとは俺も思わなかった」
「まぁいい加減終わらせたほうがいいわね」
「ほう?どう来る」
そこから勢いよく走り片方の兵士に突っ込む。それを見て間近まで迫ったとき剣を振るが
虚空を斬っていた。
「何!?」
「上だ!」
気づいたもう片方がそう叫び全員が上を見ると高く跳び剣を振った方に落ちてきて首の後ろに掴まった。
「貴様何をするつもりだ!」
首を掴まれ振りほどこうとする。
「あんたの出番はここでお終い」
そう言うと掴まっていた首を勢いよく曲げ折った。
「あがっ…」
その声を最後に動かなくなった。もしかして死んでしまったのだろうか。
それを見たもう片方は怒りの顔を見せ剣で斬ろうとするが避け相手の顔を掴み床に叩きつけられ動かなくなった。そうして残りの2人も倒してしまった。
「さてと、後はあんただけだね」
「な…な…」
女の人は仲間が全員やられ、たじろいでいる私達を連れてきた人の前まで向かう。
「あの軍人には手加減したけどあんたには必要ないわね」
そう冷たく言い放つ。あの強さで手加減していたという。
「た、助けてくれ。金ならいくらでもくれてやる。そこの女にも謝罪する。だからどうか命だけは」
そうして命乞いをする。私はあの人を許せない。けれどあの女の人はどうなんだろう?
「見逃すわけないじゃない。あんたら一族にどれだけの人間が、功次が、ジュリちゃんが苦しんで涙を流したか。それはあんた達は知らない」
その声には怒りがこもっていた。殺されそうになっても表情を変える事が無かった。それが今は変化がある。それだけ功次さんは苦労したのであろう。
「覚悟しな」
そうして構えようとすると
「ならば殺してやる!」
そう叫んで私に使おうとしていたナイフを取り出し刺そうとする。
「危ないっ!」
私が叫んだときグサッという音がする。
「…えっ?」
その音は女の人のお腹にナイフが刺さった音だった。
「…嘘」
「ははっ…やったぞ…僕が勝ったぞ!」
刺して喜びの声を上げている。私は倒れそうになる。あの人がそんな簡単に刺されるなんて…。
「…ぬるい」
「へっ?」
「この程度痛くないわね」
そう言うとお腹に刺さった抜いた。平気なのであろうか?
「お、お前、人間じゃない!」
それは化け物を見るかのようだった。それはそうであろう。ナイフが刺さって普通に立ってていられる人なんていないのだから。
「殺す前に一つ言っておくわ。殺すなんて言っていいのは殺される覚悟がある人間だけよ」
そう言って抜いたナイフで目の前にいた相手を刺す。
「うがぁ…」
そんな声を残し倒れた。
残ったのは私功次さんと入れ替わった女の人だった。
その凛としたたたずまいと、息の一つも上がっていない様子に底知れぬ恐ろしさを感じてしまった。
普通の日常が送れるそう思った2日目。
家事も役割分担して貰い役に立てる。
そうしたら買い物に出るとさらわれた。
その時に思い出したのは幼い頃に奴隷商人にさらわれたときを思い出した。
しかし功次さんは探してくれた。
だけど功次さんも捕まってしまってもうどうしようもない、そう思った。
すると功次さんが女の人になった。
あまりにもありえなくて状況をつかむので精一杯だった。
強い軍の人たちを相手に圧勝するほどの強さ。
功次さんも強かったがこの人もあり得ないほどの強さだった。
功次さんが女の人になってしまったこともあってより功次さんという人が分からなくなった。
功次さんの過去についてより気になってしまった。
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