前世が竜だった令嬢は、お菓子職人の嫁になりたい!
@mikan-sakura
第1話
私の前世は竜だった。
羽を羽ばたかせば家の屋根が飛んでいき、爪を引っ掻ければ地割れがして、火を吐けば森が燃えてしまう、そんな竜だった。
そんな竜の私が、人間の食べるお菓子と出会ったのは偶然だった。
竜生150歳くらいのひよっこの私は、住処としている山からのんびりと夜空の散歩に出ていた。
月と星の光が明るい山から西に降りたところに広がる砂漠を、心地よい風に当たりながら飛んでいると、砂漠の真ん中あたりに精霊たちが集まっているのを感じた。
(何だろう?)
山の中にはたくさんの精霊たちが住み着いているが、砂漠に精霊が集まっているのは珍しい。
精霊は波長が合い、魔力が大きいところに集まってくる。
それは自然の中、特に古い木々や湖などが多いけれど、竜の魔力に惹かれる精霊も多く、自分の周りにもたくさんの精霊たちがいつも集まってきていた。
だけど砂漠には精霊たちを引き付ける魔力はないはずだ。
そんな精霊たちが集まっている砂漠の真ん中に興味を引かれ、精霊たちを驚かせないため、魔力と羽ばたきの音がしないように結界を張り、静かに下降していった。
そこは砂漠の中でも小さな湖と木々がある、人間たちの中でオアシスと呼ばれているところだった。
物音ひとつこぼれないように結界を張り、木々の側に降り立った私の耳に音楽が聞こえてきた。精霊たちが歌う中で、精霊たちの軽やかな歌声よりも力強い歌声が1つ響き渡る。
力強い歌声に合わせて精霊たちが歌っているようだ。
しかも、その歌声には魔力が感じられ、その魔力に精霊たちが惹かれているようだ。
私は魔力に惹かれることはなかったが、楽しそうな歌声たちに心がワクワクしてきた。
森の中で毎日変わらない生活を送っている私には、とても心が躍ってくる歌声だ。
その歌声に合わせて体を左右に動かしながら、近づいていくと、人間の周りにたくさんの精霊たちが躍っているのが見えてきた。
結界があるため、人間も精霊も私にはまだ気が付かない。
ゆっくりと近づき、精霊たちの踊りを真似し(本人が真似しているつもりだけだが)、こっそり仲間に入ろうとしたら、流石に気が付かれた。
『キャッ』『ウワッ』
踊りに夢中になっていた精霊たちがいっきに輪から外れ逃げていき、驚いた人間も歌をやめてしまい、こちらを凝視して固まっている。
いきなり現れた木々と同じ背丈くらいの大きさの真っ赤な竜に、余りの驚きに逃げることも忘れ、固まってしまったようだ。
もしかしたら目を開けたまま気を失っているのかもしれない。
私は楽しかった歌と踊りが、自分が現れたせいでなくなったことにショボンと項垂れた。
逃げて行った精霊たちを涙目で見つめていると、1匹の小さな赤色の精霊が戻ってきた。
『あら、赤の星の竜ちゃんじゃない?』
体に赤の星の模様がある私のことをそう呼んだ精霊は、たまに山の私の住処に遊びに来る、見知った精霊のお姉さんだった。
『ルビーさん』
昔、人間と契約を交わしていたという、ひよっこ竜の私よりも年上のお姉さん(ほんとは精霊の中でもおばあちゃんなのだが、そう呼ぶと猛烈に怒りだしてしまうらしいので、絶対におばあちゃんとは呼べない)が近づいてきた。
『珍しいわね、あなたが人間のところに近づいてくるなんて』
両親や周りの竜たちから絶対に人間には近づかないようにと口を酸っぱくいわれているため、私は山から降りたときでも人間には近づかないようにしている。
『精霊たちがいっぱいいるから、何だろうと思って・・・。人間がいるって気が付かなかったから・・・』
涙目のまま口をとがらして言うと、ルビーさん(昔、契約していた人間が付けてくれた名前だそうだ)がコロコロと笑った。
『まぁ、竜がいきなり体を揺さぶりながらでてきたら、そりゃ驚くわよ』
楽しそうに笑いながら言うルビーさんに、不貞腐れてしまう。
『だってぇ・・・。』
涙目で訴えても、ルビーさんはコロコロ笑うだけだ。
これ以上何か言っても、この場所はさっきの楽しそうな歌声の溢れる場所には、私がいる限り戻ることがなさそうだ。
ズドーンと気持ちが沈みながら、住処に戻ってふて寝しようと飛び立とうとした。
『あっ、赤の星のおチビちゃん、ちょうどよかった、ちょっと頼まれごとをしてくれないかしら?』
羽を広げようとした私にルビーさんが笑うのをやめて話しかけてきた。
私はキョトンとルビーさんを見て首を捻った。
精霊が竜に頼み事とは珍しい。精霊から、というか私が頼まれごとをされるのは初めてだ。
『何かしら?』
不思議に思いルビーさんを見ると、ルビーさんは相変わらず固まったままの人間を見て困ったように笑った。
『あの子、私が昔、契約していた人間の子孫なの。
契約していた人間が寿命を全うしたときにね、私、約束したことがあるの。』
懐かしそうに目を細めて話すルビーさんは、きっと昔の契約していた人間のことを思い出しているんだろう。
とっても優しい表情をしている。
『契約していた子の子孫が、どうしても困ったことがあったら、1つだけ願いを叶えてあげるから私のことを呼びなさいって。
それでね。この間、あの子から呼ばれたから行ったんだけど・・・』
ルビーさんは困ったように眉をおろして人間を見ている。
『あの子ね。子供ができないらしいの。小さい頃に大きな病気になったらしくて。
一命は取り留めて、今は普通の生活も寿命にも問題がないらしんだけど、その病気のせいで子供を作るのが難しいって人間のお医者さんに言われたらしいの。
私の友人の水の精霊の見立ても同じで、お腹の中にある傷が原因で子供作る器官が働かないようになっているんだって。』
『ふーん』
私はルビーさんの話に首を傾げたまま聞き入るが、いまいち理解ができない。
子供ができない病気なのは分かった。
だけど私たち竜は子供ができにくい種族だ。だから、子供がいないことに何が問題あるのかわからない。それに、それがどう私への頼み事に繋がるのか分からない。
『人間でも別に子供ができなくても特に問題にならなかったりする。でもね、あの子はちょっと特殊でね。あの子に後継ぎの子供ができないと、戦争が始まってたくさんの人間が死んじまうかもしれないんだ』
ルビーさんが契約していた人間は、とある国の王様だったそうだ。
そして、ルビーさんが困ったように見ている人間も王様なのだそうだ。
その王様が治める国は、左と右の大国2国に挟まれている、中くらいの国だけど、魔力が大きい人間が多いこと、資源が豊かなことにより大国に挟まれても、侵略されることなく国を治められてきた。
しかし、年々、魔力の高い子供が生まれることが少なくなり、大国を圧倒するくらいの魔力を保有する子供が生まれるのが、王家の血を引く者だけとなってきた。
大国2国に挟まれるその国では、魔力が高いことが国王となることが必須条件だ。
そのため、王家に近い血筋で婚姻を繰り返しているため、子供が生まれにくくなっているそうだ。
両親を早くに亡くし、若くして王位を継いだ現王には子供がいない。
そして、前国王には現王の生母以外に2人の側室がいた。
その側室は、国を挟んでいる右の大国と左の大国の姫君だ。
そしてその姫君たちが産んだ現王の異母弟が2人いる。
魔力が高いことが必須条件のため、1番魔力が高かった現王が、前国王が崩御した後、後を継いだが、魔力が少ないが大国の後ろ建てを持つ異母弟たちの影響力は強い。
魔力を持つ者が少なくなってきているため、同じ国内でも魔力が少なく肩身が狭い思いをしている臣下たちからは、後継ぎには魔力は関係なく選ぶべきだと声が上がってきている。
子供がいない現王の後継ぎ争いに、2つの大国が絡んできて戦争になりかねない状態だそうだ。
『ふーん。まぁ、戦争とか、人間の国でおこることはどうでも良いけど、ルビーさんは困るんだよね?』
私が生まれたときからの付き合いである精霊のルビー姉さんが困っているのは、助けてあげたくなる。
私は相変わらず首をかしげたままルビーさんを見ると、ルビーさんはすまなそうに眉尻をさげた。
『私の契約者がね、大切に守っていた国なんだ。その国を荒らされるのは、心が痛むんだ。
それに約束をしたんだ。天寿を全うしたあと、あの国を離れる私を送り出してくれたあの子の子供に、困ったことがあれば1度だけ助けてあげるって。
あれから、100年以上経ってから助けを求められたんだ。だから何とかしてあげたくって。』
未だ放心状態の人間のもとに、ルビーさんはそっと近づいていった。
『でも、私の力では何ともならなくって。知り合いの水の精霊に頼んだんだけど・・・』
人間の肩にとまったルビーさんは悲しげに首を振った。
『精霊の力でも無理だって。でも、竜の鱗から作る万能薬なら何とかなるかもしれないって。だから山の竜に頼みに行こうとしてたのさ。私の力では、この子の国から山までいっきに転移するのは無理だから、何回かに分けて転移しながらさ。ほんとはあなたのお爺さんに頼もうと思ったのだけど』
子供のあなたにこんなことを頼んだってバレたら、殺されちゃうかもしれないけどさ、と言ってルビーさんは肩をすくめた。
頼みに行くからには、原因であるこの人間を連れて行ったほうがいい。ルビーさんが頼んだだけでは、決して頷かないだろう。人間を連れて行って、必死に頼んでも無理かもしれない。
竜の鱗は万能薬になるため、昔から人間が徒党を組んで竜を襲ってくる、竜狩りをされることがあった。
多くは竜が返り討ちにしたが、中には小さな竜や、年老いた竜が犠牲となることがあった。
そのため、鱗を欲しがる人間を竜たちは毛嫌いしている。
だから、人間のために欲しがる精霊にも、竜たちは決して簡単には鱗を譲らないだろう。
それでも、その人間は戦争にならないためには、と願った。
決して竜を害そうとするわけではないが、それでも竜たちから返り討ちにされる可能性をルビーさんが全力で守る約束で、山に向かっているところなのだそうだ。
だが、この人間は不安定な国の国王だ。不在なことを隠して旅だったが、長く不在にするわけにはいかない。
なるべく早く国に戻る必要があるのだ。
そんな中、私に会った。まだ小さな子供の竜である私にこんなことを頼むのは、親竜に殺されかねない反則技だそうだけど、『それでも』、とルビーさんは言う。
『うーん。鱗をとるのは痛いから嫌だけど、でもルビーさんの頼みかぁ・・・』
鱗をとるのは血が出て痛い。もっと小さい頃に森の中で遊んでいて、岩にひっかけて取れてしまったことがある。自然にとれる場合もあるし、取れたらまた生えてくるけど、わざと取るのは痛くて嫌である。
傾けたままだった首を、反対側傾け、うーんと唸りながら考える。
悩んでいると放心状態だった人間がルビーさんにペシペシと頬を叩かれ、ようやく我を取り戻したようだ。
「あっ!」
『まったく、いつまで呆けているんだよ、情けない。ほんとにあの子の子孫なんだかねぇ。
あんたが城を飛び出してまで会いに行くって言っていた、竜が目の前にいるんじゃないか。
呆けてないで、自分で頼んでみな!』
ルビーさんはそう言って、パシッと人間の頭を叩いた。
契約を結んだ人間と精霊は会話ができるらしい。ルビーさんが契約を結んだのは、この人間の先祖だけど、この人間とも会話ができるようだ。
「あのっ、私はスレート王国の国王、ルード・ジークフリード・スレートと申します。
偉大なる竜に出会え・・・」
人間が喋り始めると、またルビーさんはペシっと頭を叩いた。
『残念ながら、人間の言葉はこの子には通じないよ。言葉じゃなくて魔法の思念で頼みな。』
「そんな、言葉が通じないって聞いてない・・・」
ルビーさんに叩かれた頭をさすりながら、人間がぶつぶつ呟いている。
私には人間の言葉は理解できない。だけど思っていることは伝わってくるので、なんとなく何を喋っているかわかる。
「理不尽な・・・」とルビーさんに言っていることが伝わってくるので、ちょっと笑えてくる。
『果ての山に住まう赤き竜殿。私は、スレート王国の国王、ルード・ジークフリード・スレートと申します。』
心地よい魔法の思念が頭に響いてくる。
私は知らなかったが、思念を魔法に乗せて伝えるのは、人間の中でも高い魔力を保有するスレート王国の王族にしかできないことらしい。
ルビーとルードは契約を交わしていないが、発する「言葉」で会話している。それは、契約を交わした相手の濃い血を受け継いでいるからできることらしい。
それに対して「思念」での会話は、思っていることを魔法に乗せて伝えるため、表面上の言葉ではなく、強く思っていることが伝わる。
そのため、ルードから送られてくる思念には嘘偽りがない。
私には相手の思っていることは、思念での会話でなくても分かるのだけど、魔法に乗せた思念は直接、強く頭に響いてくる。
私は語りかけてくる人間をじっと見つめた。
今まで遠くから人間を眺めたことはあったけれど、こんなに間近で見るのも、会話をするのも初めてだ。
黒い髪に黒い瞳。まっすぐに語りかけてくる思念と表情には、糸がピンと張りつめたものに似ている。
表情は、こっそりと近づいた私に気が付いてびっくりした後、逃げ出そうとする動物と同じような表情をしている。
『私の身勝手なお願いだとは分かっています。でも、どうしても私は、竜の鱗が欲しいのです。私の国を、私の代で終わらせるわけにはいかない!私に子供ができなければ、わが国を挟んだ両国が、わが国を乗っ取ろうと争いを始めるだろう。』
うーん、と私は首を捻る。
人間が真実、強く願っているのは伝わってくる。誠実な人間なのだな、ということは分かる。
だけど、私にとっては、人間の国がどうなろうか知ったことではない。
ルビーさんの願いなら、ってことと、痛いのは嫌だなぁということ間で、心が揺れているだけである。
どうしよっかなぁ。
ここには相談できる両親も爺ちゃんもいない。
住処に帰って相談しようかなぁ。でもルビーさんは急いでいるみたいだし。
頭の中を、鱗がとれて痛かった思い出がぐるぐるとまわり、ついでに視線もきょりょきょろとさ迷わせると、人間の側にある火元から、何やら嗅いだことのない良い匂いがするのに気が付いた。
『ねぇ、ルビーさん』
人間の肩にとまっているルビーさんに、なんか良い匂いがすることを伝えると、ルビーさんは目をパチパチとさせて、なぜか、がっくりと項垂れた。
『まったく、こっちは国の命運がかかった真剣な頼み事をしているっていうのに・・・』
あきれたように呟き、人間の肩から良い匂いがする火元に、ルビーさんはふんわりと飛んだ。
人間は私の言葉が分からないらしく、緊張した顔で私とルビーさんを見ている。
『良い匂いは、これだろ』
そういって、ルビーさんは自分の身長の2倍はある串に刺さった肉を差し出した。
『そう、それ!』
こちらに向かって差し出されたことに、ますます良い匂いがしてくる。
その匂いを嗅ぐと、口の中にじゅわっと唾が溜まってきた。
『サイボーンの串焼きさ』
『串焼き?』
サイボーンは知っている。砂漠に生息する大きな角が1本生えている動物で、私もよく食べる。でも、私たち竜が食べるのは生のお肉で、焼いたりして食べたことはない。
『そうさ、人間は生の肉を食べない。お腹を壊すからね。それに焼いたほうがおいしいのさ』
そういって、ルビーさんが差し出した串焼きを、私は我慢できずにパクリと口にした。
『・・・!』
何これ!?
表面はパリッとしているけれど、中はジュワっとしている!温かくて口の中に良い匂いが広がり、とろけてしまいそうだ。
『おいしい!何で?これ本当にサイボーンなの?』
一瞬でなくなってしまった串焼きの串をなごり惜しく見ながら、ルビーさんに尋ねる。
『あなたたち竜は生肉しか食べないもんね。これはサイボーンの肉に胡椒という調味料をかけて、焼いたものさ。人間たちの中ではありふれた食べ方だよ』
そう言ってルビーさんは、もう1本、私に串焼きを差し出した。
差し出された串焼きを、私はすぐに口に入れる。
やっぱり、おいしい!口の中に広がる肉汁がたまらない!こんなおいしいものを、人間が食べているなんて・・・!
『それで、どうなんだい?鱗をこの子にあげてくれる?』
幸せをかみしめながら串焼きを食べていると、ルビーさんが真剣な表情に戻して聞いてきた。
『あっ、そうだった』
すっかり串焼きに気を取られていた私は、頭を切り替えようとするが、頭の中から串焼きが出ていかない。
そうだなぁ、この串焼きをもうちょっと貰えるなら、鱗をあげてもいいかな。
そう思い、ルビーさんに告げると、ルビーさんは、またがっくりと肩を落とした。
『竜の鱗が、串焼きと交換・・・。竜の鱗を売れば、串焼きなんて竜の寿命分、毎日食べることができる分以上の価値があるのに・・・。』
ぶつぶつと呟くルビーさんに、あっという間になくなってしまった串焼きのおいしさが忘れられず、期待するように見ると、ルビーさんは串焼きを5本差し出した。
『これで全部だよ。人間はそんなに食べないからね。これでもいつもより多く焼いたんだよ』
そう言って差し出された串焼きを食べながら、私は考える。
焼けばこんなにおいしいなんて、今まで、なんて勿体ないことをしてきたんだろう!
火を吐いてサイボーンを丸焼きにすれば、こんなにおいしくなるのかな?
でも、胡椒という調味料も必要なんだよね。それってどこで手に入るんだろう?
自分でも作れるかなぁ、と思って食べていると、あっという間になくなってしまった。
残った串を名残惜しく見てから、ルビーさんと人間を見る。
『おいしかった。ありがとう。じゃあ、約束だから鱗をあげるよ。
なるべく痛くないように取りたいんだけど、どう取ればいいかなぁ?』
うーんと考えると、ルビーさんが人間に何か話しかけた。
『私は癒しの魔法を使えます。癒しの魔法をかけながら取れば、多分、痛みは少なくてすむでしょう』
人間がそう言ってゆっくり私に近づいてきた。
『わかった、じゃあいいよ』
人間の思念には嘘は感じられない。人間を信じることにして、私は私より遥かに小さい人間が鱗をとりやすいように、寝そべって、目を閉じた。
人間が私に触れるくらい近づいてきたのを感じながら、さっき食べた串焼きのことを思い出した。
口の中にまた、じゅわっと唾がたまってくる。
明日、さっそくサイボーンを狩りに行こうかな。でも胡椒がないや。胡椒のこと、だれか知っているかな?ときどき遊びに来る、水の精霊のおじいちゃんなら知っているかな。聞いてみようかな。
そんなことを考えていると、右の脇腹あたりにポワッと温かい魔法が感じられ、そのあとにこそばゆい感触があり、温かい魔法が消えた。
『取れました!』
ありがとうございます!と泣き出しそうな思念が伝わってきたので、もう終わったんだと思い、立ち上がった。
全然、痛くなかったなー。人間の癒しの魔法ってすごいんだ。
ちょっぴり感心し、人間とルビーさんを見た後、また串焼きのことに頭が戻っていった。
とりあえず住処に帰って、明日のお昼にサイボーンを狩りにいこう。
そう気持ちを切り替えた私は、住処に帰ることにした。
『じゃあ、私は帰るね。ルビーさんはその人間を送っていくんでしょ?また今度、胡椒のことについて教えてね』
そう言って飛び立とうとした私を人間が引き留めた。
『あのっ、よかったらこれを』
といって、人間が袋を差し出した。
首を捻ると、私が串焼きを何本も食べたことで、お腹が減っているだろうと思い、食料を差し出したのだ。
串焼きではないけれど、人間の食べ物はおいしそうなので、私はありがたくその袋を口に咥えて住処に帰ることにした。
そして、その袋の中に入っていた「クッキー」というお菓子が、串焼き以上に私に衝撃を与え、今後の私の竜生、果てには人間に生まれ変わった後の私の人生を大きく変えることになるとは、このとき串焼きで頭がいっぱいだった私は、まだ気が付いていなかった。
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