天文8年(1539年)
第六百五十六話 己亥戦争の始まり
相国寺阿曽沼本陣 阿曽沼遠野太郎親郷
松も開けぬ正月四日、本陣に朝廷から遣いとして四条様が派遣されてきた。
「正式に阿曽沼殿を征討大将軍に任命し、この戦乱の世を終わらせるよう勅令が下りました」
「謹んでお受けいたしまする」
そして錦の御旗に節刀と征討大将軍の官印が下賜され、晴れて官軍となった。
「併せて阿曽沼殿を従三位、権大納言兼右近衛大将といたす旨、帝より来ております」
「その名に恥じぬよう専心いたしまする」
近衛大将か、天下人だなこれは。
「これでようやく天下人になられましたな」
四条様が感慨深げにそう仰る。
「それもこれも四条様をはじめとする公卿の皆様の御力添えでございます」
「そう言ってくれると嬉しいわ。それで今後はどないしはるん?」
「そうですね。未だ下る気のない二条御所を打ち倒すこととしましょう」
徳川慶喜みたいに大政を返上してくれていたら良かったのだが、足利にそれを期待するのは難しいのだろうか。
「その後惣無事令、要は私戦を禁じようと思います」
「それは良い考えや。帝も喜ばれるやろ」
これには四条様も特に異論は無いようで素直に喜んでおられるようだ。
そして刀狩だな。特に寺社から取り上げねばならん。信仰するのに刀も弓も必要ないというのが俺の持論だ。しかし刀狩りをする名目は何にしようかね。秀吉は方広寺の釘や鎹にするってことでやっていたが、とりあえず荒れに荒れた寺社の再建に使用することとするか。
さらに職にあぶれた京周辺の浮浪者たちに仕事を与えてやらねばならんが、まずは鴨川の清掃と治水から始めよう。その費用は山門から搾り取ろうかね。
「それと帝や殿上人の皆様を守る部隊を創設しようかと思っております」
「北面武士か?」
「その通りではありますが、名前は北面武士ではなく、当家で用いている警護局から引用して皇宮警護局ととりあえずは致そうかと」
近衛師団は軍だし、宮内省をおいて皇宮警察みたいなのにするか。それに合わせて警護局と保安局を分離して、警護局を司法省に発展させ警察に改称、保安局は国家公安憲兵として内務省に発展させていくか。
「そのあたりはやはり武士を採用するのか?」
「一部はそうですね。しかし公卿公家の皆様にも朝廷を自ら守る気概を見せていただきたく存じます」
いずれは武家と百姓、町人の別は上位陣を除けばあんまりないから、あとは公家の別がなくなれば良いんだが、しばらく残すしか無いだろうね。
「う、うむ、せやな。あてらも自分でやらなあかんわな」
帝からも世の模範となるべく率先せよとの号令が掛かったと聞く。清彦親王がすでに当家で参謀役と言う名の飾りをやっていたりするので、表立って反対を述べるものは居なかったそうだ。
「適度に体を動かすのは良いことだと遠野の医師達も言っております」
「おたくはんら武家はんはやりすぎちゃいますか?」
「御冗談を、命の取り合いをするのにやりすぎなどございませぬよ」
実際に弓を引くことはもはやほぼ無くなったわけだが、かと言っていざという時に戦えません。なんてことは言い訳にもならん。
「それに四条様に輿入れします我が娘の珠子もおてんばでしてな、馬に乗りますので、四条様もそれなりに乗れなければ困りますぞ」
というか当家の娘達は皆、一通り馬に乗って弓槍出来るからな。
「そ、そうか、それは退屈せんですみそうやな。それはそうとあては弓が苦手でな、誰か教えるのがうまいの寄越してくれへん?」
「承知しました。では後日四条様の下に誰か遣りましょう」
珠子に習えば良いとも思うが、そこはある程度出来る男ってのを見せたいのだろうから仕方が無いな。
◇
そしていよいよ松の内が明けた睦月十五日となった。
「結局、平島公方は参上しませんでしたね」
「致し方有るまい。現在二条御所に残っている者は朝敵と見なす。それで二条御所にはどれほどの兵がいるか?」
「は、正月が明けましたが領地に残っている者も多く、二条御所は食い詰め者などをはじめとした総数二千程度と思われます」
「では本日正午を以て戦を開始する。各所に直ちに臨戦態勢を取るよう伝令を走らせろ、朝廷にもその旨を奏上する遣いを出せ」
そう下知を与えて直ちに戦闘準備を開始する。常備軍は便利だね。一方で二条御所はしばらく大きな動きをしていなかったからか、俺と敵対したくないからか兵が少ない。 放っておいても食えなくなって勝手に兵が居なくなりそうだが、三好も含めた上方の諸勢力に示威するのも必要であろう。
正午近くになり本当に帝をはじめとした連中が戦見学にやってきた。
「これがその重砲か。中々立派やな」
「お待ちしておりました。あまり近いと砲の操作に支障を来します故、此方で御観覧ください」
およそ五十間(約90m)程離れたところに一同を置いておく。
「上様、各部隊配置完了しました。砲撃を合図に二条御所へと攻め寄せます」
「承知した。重砲、準備でき次第発砲せよ!」
そうして微妙な射角調整を行い、砲撃準備が完了したという旗が揚がる。
「では皆様お耳を塞いでおいてくだされ」
俺が手を挙げたのをみて砲が猛然と轟音と煙を吐く。帝は興味深げに、他の者は腰を抜かして居るようだ。
「弾ちゃーく、今!」
砲撃から数秒後、二条御所に着弾したようだが信管は不発、ただ土煙が舞い上がるのみである。
「修正!第二射用意!」
すぐさま砲身が洗浄され次弾が装填され、およそ十分ほどで第二射の準備が完了する。
「攻め寄せている味方には当てるなよ!」
重砲班長がそう言い、第二射が放たれ、今度は上手く信管が作動したようで黒煙が噴き上がる。
「なかなかの迫力やな。それでこれは口径はどれくらいや?」
「六寸でございます」
「六寸ということはおよそ七
「やはり陛下……」
「何れ話す機会もあろう。まずは戦乱を納めよ」
「は、承知いたしました」
何れ話す機会は、そうだな。ここでするような話では無いな。
何はともあれこれで足利の世、中世の終わりを告げる戦、となってくれれば良いな。今年は
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