第四十七話 うどんと山葡萄
横田城のそば 阿曽沼孫四郎
水車小屋が増えた。横田城のそばを流れる五万堂沢では足りなくなったのでその隣、不動沢にも水車を設置した。こちらの水車小屋は石臼を供え、搾油あるいは製粉に供せられる。
「結構喧しいな」
「しょうがないですよ。石臼がすれるんですから」
ポピーシードオイルを作ろうかと思ったが、思ったほど種がなかったので取りやめた。代わりに乾燥の終わった小麦を挽いている。
「若様、麦を挽いてどうするのです?」
「大和の三輪では素麺が、讃岐に弘法大師様が広めた饂飩なる食い物があるという」
「それを作ると?」
「そうだ。麦を美味く食うための策よ」
一斤(600g)ほど小麦粉ができたところで城の厨房を借りる。
「水と塩を少し入れると粉がまとまるらしい」
流石に一斤を1人でこねるのは大変だし、適正なコネ具合もよくわからんので清之と弥太郎、なぜか紛れ込んだ守儀叔父上がこねていく。
「若様、水と塩はこんなもんでしょうか?」
「わからん。使った水と塩の量を記帳しておけ。どれが一番美味いか調べていく」
皆一生懸命こねている。俺も全体重をかけてこねるがいまいち粘りが出ない。半刻ほどこねて疲れ果てたので麺棒でのばして包丁で切っていく。太さはバラバラだ。
「なるほどそういう感じになるのか」
宇夫方の叔父上が納得したようで綺麗に斬っていく。さすがは我が家の包丁番。包丁捌きがピカイチだ。
よく沸かした鍋で茹でていく。確か半刻ほどだったか?んー時間がわからん。多分こんくらいだろうからヨシ!時計が無いから仕方がない。
「よし皆できたな。食ってみよう」
んーやっぱ俺の体重では足りなかったか、コシが足りない。続いて麺の太さが綺麗に揃っているこれは叔父上のか。ふむ俺のより美味いがやっぱり少しコシが足りないな。弥太郎のはしょっぱくて食えぬ。清之のはもそもそしておりコネ方も茹で方もいまいち足りてない。
「叔父上のが一番美味いな。弥太郎は塩が強すぎる。清之のはぼそぼそしとるな」
「ふむ。柔らかくて食いやすいが、出汁に合わせる事を考えるともう少しコシを持たせた方が良さそうだな。あとは俺にまかせろ。美味いのができたら神童殿に教えてやろう」
これは叔父上に任せるのが良さそうだな。美味いレシピができたら量産して乾麺にできたら保存食にもなるし、商品として売り出すこともできるだろう。
「ねぇ若様」
「どうした雪?」
「うどんも良いけど、パンも食べたい」
「パンか……イーストの分離法なんてしらんぞ」
「干しぶどう使えば良いんじゃ無い?」
なんでも果物には元々イーストがくっついているそうなのでそれを取り出せばいいらしい。
「干しぶどうから採れるのか。しらなかった。じゃあ山葡萄でもいいから探してみるか。うまくいけば葡萄酒も作れるかも知れない。」
「お、若様、山葡萄から酒を造れるのですか?」
「清之聞いておったか。うむ、明や南蛮では葡萄から作った酒が飲まれているそうだぞ」
酒が造れると聞いて清之の目が光る。
「あんな渋くて食えぬものなら、山に行けばいくらでもありますぞ」
「ヨシ!では、明日葡萄の木を採りに行くか。」
葡萄酒ができればブランデーとかグラッパとか色々酒も豊富になるな。何より食えないものを飲み食いに使えるようになるなら儲けものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます