第261話 頑張れベルさん!

 大聖堂へ転移で現れた女神様は、ふわりと抱きついてくると私を胸に抱き寄せ、頭を撫でてきた。

 優しく、そして、愛でるように、一撫で一撫でゆっくりと大切に。


「久し振りですねアカリ。元気にしてましたか」

「一応元気だよ~」


 よいしょと胸に埋もれていた顔を上げて女神様へと返答し、女神様の胸へともたれ掛かった。

 頬へ更に強く加わる弾力と柔らかさ。

 そして、優しく包まれる様な温もり。

 流石は母性の象徴とも言うべきか。

 浄化されるのではと思う程に安心感と安らぎ度合いがはんぱない。


 前から思ってたけど、女神様なだけあって良いのを持ってるなぁ。

 私のフェリと良い勝負しそうな素晴らしいおっぱいだよ。

 私も結構大きい方ではあるけど、二人には敵わないかなぁ。

 二人に近い大きさとなると、リリスとうちのお母さん位かな?。

 あぁ~~癒されるぅ。……………………これ、浮気にはならない、よね?

 浮気じゃないよね?大丈夫だよね?

 一応母親だし、大丈夫だよね?


 唐突に冷静になった私は「大丈夫、大丈夫な筈だ」と誰に言う訳でもなく内心で己に言い聞かせる。

 私はフェリ一筋。

 フェリが望むなら基本的にどんな事をされたって受け入れる位には愛している。

 故に浮気なんてするつもりは微塵もない。

 万が一、私が浮気してしまえば再生OFFにし腹切りして詫びる位の覚悟はある。

 なのでとりあえず、ちょっと念の為に女神様から離れておこうと思い胸から脱出しようとした時、私の超高性能イアーが大聖堂に近付く足音を捉えた。


「ん?」


 はて、誰だろう?と私は女神様に抱き寄せられたまま大聖堂の入り口へと顔を向ける。


「あら?」


 どうやら女神様も此方に近付く足音に気付いていたようで、私とほぼ同時に大聖堂の入り口へと顔を向けた。

 十数秒後、よほど大慌てかつ大急ぎで全力疾走してきたのだろう。

 ダダダダッ!と足音を響かせ、ズザーッ!と入り口前で急ブレーキしながら足音の主……狂信姫のメイドであるベルさんが姿を現した。

 いやはや、どんだけ全力ダッシュしたのやら。

 まるでシャトルランや長距離走を終えた後みたいに「ぜえぜえはあはあ」と苦しそうに肩を上下させ、荒く呼吸を繰り返してる。

 さては狂信姫……何かやらかしてるな。

 私がそう確信を抱いてると、膝に両手をついて息をしていたベルさんがバッと顔を上げて怒号の如く叫んだ。


「姫様!!大切な会議を放って何をしてるのですかッ!!」


 うん。

 この狂信姫、マジで何してんの?

 あのヤベエ発言が実行済みとか私以上に頭おかしくね?

 え?お前の方が頭おかしいだろって?

 ハッハッハ、ご冗談を。

 こんな頭のおかしい狂信姫とは違って私は極々平凡なレズでロリコンな超絶美少女にすぎないが?

 まったく、発言には気を付けたまえよ( ´Д`)ハァー


 とまぁ、脳内おふざけはこの辺でおしまいにして。


「ベルさん、お久しぶり~」


 私はへら~と笑顔を浮かべフリフリと手を振りながらベルさんへと声を掛ける。

 すると、ここで私が居ると気付いたのか一瞬「え?」といった表情を浮かべたものの直ぐに表情を戻し、ベルさんは私へ挨拶をしようと思ったのだろう。


「アカリ様、お久」


 しかし、直ぐに私を胸に抱き寄せながら自分を見ている女神様を視認。

 ピタッと固まり、一秒、二秒、三秒と経過……


「め、女神アリシア様!?目の前でこの様な態度、も、申し訳ございませんっ!!」


 ベルさんは一瞬にして顔を青ざめさせ、残像が出来るのでは?と思う程の速さで跪いた。

 この世界の絶対の神である女神アリシアに気付かず、主である狂信姫に怒声をあげるという醜態を晒す。

 妙覚を使ってないのでわからないが、きっと「やらかしたッ!?」と後悔と混乱で内心大慌てな大騒ぎになってる事だろう。

 本当、狂信姫のせいでベルさん哀れすぎる(;ω;)

 頑張れベルさん!



「確か…ベルとかいう名の召し使いでしたか。アカリ、あってますかね?」

「違うよ?」

「え?」


 サッとベルさんに顔を向ける女神様。


「ッ!」


 ブンブンと左右に何度も首を振るベルさん。


「ア~カ~リ」

「ふぁははっ!ばらはれたま!(ふはははッ!騙されたな!)」


 私に騙されたと気付き、私の両頬を引っ張りお仕置きしてくる女神様へ愉悦に満ちた満面の笑みを返して高笑いをあげる。

 この程度のお仕置きなんぞ前世からお母さんへ何度もされてるから微塵も苦ではない。

 寧ろ、至高の美といっても過言ではない女神様の怒り顔が至近距離にあって眼福である。


「まったくもう。ベルよ、私は先の醜態程度気にしていません。寧ろ、愛しい娘と触れ合い、又、あなたのおかげでこうしてお仕置きする機会も出来て感謝している位です。そんな跪く必要などありませんよ」

「わ、わかりました」


 目茶苦茶ビビってるなぁ~といまだに頬を引っ張られながら私はベルさんをポケ~と眺める。

 ベルさんのこの反応が普通なのだ。

 目の前に居るのは、人間では抗う事の出来ない絶対である神。

 己の一挙手一投足が機嫌を損ない兼ねない緊張の連続。

 余計な事をせず、黙り跪いてるのが一番安心。


 それに比べて、普通の人間なのによく狂信姫は地形破壊なんて下手すれば女神様ブチギレ案件を実行しようとしたもんだよ。

 やっぱり、マジで狂信姫狂ってるわ。


 等と思いながら女神様にいまだに頬をもちもちプニプニビヨ~ンとされながら、クルリと首を反対方向に動かして狂信姫へと顔を向ける。

 そして見えるのは、私と女神様へ跪き、一心に祈りを捧げる信者達。

 余程感動する光景でも見えているのだろう。

 その顔は揃いも揃って涙を流している。


「ふふぁ~(うわぁ)」

「うわぁ」


 一人残らず涙を流している光景は中々に異様。

 しかも、そんな顔で自分を見てくるのだ。

 私だけでなく女神様もこれにはドン引き。

 素で口から無意識に声が漏れた。

 が、目の前の光景はこれだけでは終わらなかった。

 信者達を余裕でぶっちぎる涎が零れそうな恍惚とし蕩けたヤベエ表情で涙を流し、私と女神様を眺め祈っていた狂信姫がスッと立ち上がると、ブワッと教皇みたいな服を翻しながら信者達と向き合う。


「信者達よ。親愛なる我が同士達よ!その目に焼き付けましたか!これが!これこそが真実です!!」

『信者達よ。親愛なる我が同士達よ!その目に焼き付けましたか!これが!これこそが真実です!!』

「ん?」

「あれ?声が外からも?何故 ?」


 私といまだに胸に抱き寄せ私の頭に頬擦りしている女神様は、狂信姫の声が何故か外からも聞こえるという意味不明な現象に頭に?を浮かべる。


「『邪悪なる邪神?女神アリシア様の娘じゃない?違う。違う違う違う違う違う!!そんなものは全て偽!!今!私達が見ているものが全ての答え!!女神アリシア様の言葉通りアカリ様は女神アリシア様の娘です。そして、邪神だと判断するのは受け取る人間次第。国を滅ぼされた元帝国と女神アリシア様を信仰するシスリア聖国からすれば女神アカリ様は邪神に映る事でしょう。しかし!私達にとっては断じて違う!!かの邪悪なる吸血鬼の魔王と手を組んでいた悪しき帝国から私達の国を守り、今もこうして姿を現し私達を見守って下さる素晴らしき御方!至高なる女神なのです!!私は今ここで断言しましょう!私達は間違っていない!間違っているのは、女神アカリ様を悪と決めつけ偽りの正義を掲げ戦争を仕掛けてきた元帝国とシスリア聖国です!親愛なる同士達よ、安心して下さい。私は、私達、神聖アカリ聖国は決して戦争には負けません。神は正しいものに微笑みます。ですから、いつもと変わらず日々を過ごして下さい』」


 狂信姫は、己の話を最後まで黙って聞いていた信者達へ慈愛に満ちた微笑みを浮かべ深く頭を下げる。


「「「「わあああぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」」」

『わあああぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!』


 直後、大聖堂内と外から響き渡る大歓声。


「ねえ、女神様」

「はい。アカリ」

「コイツ、ヤバくね?」

「知ってます」


 私と女神様は、揃って頬を引き攣らせ若干の戦慄を抱きながら演説を終え、千を越える喝采の如き歓声を一身に向けられている狂信姫を見た。


「いつの間にあんなの設置してたの?」

「知りませんよそんなの」


 中と外から声が聞こえた。

 少し確認すれば案の定、この狂信姫は私と女神様の思考の先にぶっ飛んでいた。

 投射装置と収音・拡声装置による王都上空に空中投射された女神様に抱き寄せられた私と演説する狂信姫の姿。

 いやもうさ、本当に何しちゃってんの?

 ぶっ飛び過ぎてシンプルに怖いんだけど。

 王都の住人揃って拳を突き上げて大歓声あげてるんだけど?

 何なん、王家って幼少期から扇動教育でも施されてたりすんの?

 だとしたら誇れ、大成功だよ。


「あの、アカリ様、女神アリシア様。姫様が本当に申し訳ございません。本当、なんとお詫びすれば良いのか」

「あ、いえ、貴女は気にしなくて良いですよ」

「うん。私も、もう姫様に関しては諦めてるから。ベルさんは気に病まなくていいよ。それと、今更ながらふと思ったんだけど、姫様って今は王位簒だ、継承してるのに陛下呼びとかしないの?」


 あんまり大した事ではないが、ちょっと気になったのでベルさんの精神と体力を勝手に回復してあげながら聞いてみた。


「あ。身体が……アカリ様でしょうか?ありがとうございます」

「気にしなくていいよ~」


 ベルさんの疲労は間接的というには大々的に私にも原因があるからねぇ。

 可能な限りケアはしてあげなきゃね。


「アカリ様の質問に関してですが、当初は陛下呼びしようかと私共も思い陛下とお呼びしたのですが『アカリ様に姫様としては呼ばれてるのに陛下呼びなんて不敬ではないですか!!変わらず姫様呼びしなさい!!』と命令されてしまいまして。王命ですので従わない訳にもいかず、それ以降は以前と変わらず姫様と呼んでいるんです」

「マジかぁ。ブレないなぁ」

「危うく山脈破壊されそうになっと時も心底思いましたが、他を一切省みない清々しいまでの狂信振りですね」

「どうしてこんな狂信者になっちゃったのやら」

「アカリのせいでは?」

「」


 うん。知ってた。

 それとね、ベルさん。

 なんでいきなり私から視線を反らしてるのかな?

 まるで女神様が言った通り、私のせいで姫様が狂信者になったって言いたいみたいじゃないか。

 まぁ、実際私のせいみたいなもんだけどさぁ。


「まぁ、この話は一旦終わりにして。ベルさん、姫様を回収しに来たんじゃなかったの?なんかそこ、また私に祈り始めてるけど」


 いまだに女神様に抱き寄せられ、後ろからハグするように抱かれながら私は視界の先で信者を扇動しながら祈り始めた狂信姫を指差してベルさんに尋ねる。

 それを聞き、ベルさんは短時間に色々起き過ぎて当初の目的が遥か彼方に消えてたのか、ハッとすると私に一礼してきた。


「アカリ様、ありがとうございます。危うく当初の目的を忘れてしまう所でした。直ぐに姫様を会議室にお連れしないと!」


 そう言ってベルさんは私と女神様から離れ狂信姫の元へ行き、抵抗する隙を与えず狂信姫を俵担ぎ。


「ベル!下ろしなさい!下ろしなさいと言ってるでしょ!!ちょ!待ってベル!お願い下ろして!お願いだから下ろしてよ!!ねえ!お願いだから!!あーーーーーーーッ!!アカリ様!アカリ様ーーーーーーーーーーッ!!!」


 私、女神様、信者達に見送られながら大聖堂を後にするのだった。


「色々女神様に聞きたい事があるけど、折角だし会議見てく?」

「そうですね。たまには人間視点の戦争の情報を知るのは良い機会かもしれませんね」


 そんな訳で、私と女神様は祈りを捧げてくる信者達に見送られながら大聖堂を出ると隣の王城へと歩いていった。


 ※※※※※


 アカリ達がそんな事をしていた頃。

 地球の日本、東京。


「ど田舎に行ったかと思えば今度は東京。いつから俺らはパシリになったんだ?こんなん下っ端の構成員にでもやらしとけよクソが」

「まあまあ落ち着きなって。仕方ないだろ?最近、任務先で重傷か行方不明になる能力持ちの構成員が多発してるんだからさぁ。それに、簡単な仕事なら兎も角、今回は前々から組織が目を付けてたターゲット。下っ端だけに任せず僕や潤君の様な上の者が派遣されるのも仕方ないって~」

「チッ、めんどくせぇ」

「まあまあ、同意はするけどねぇ」


 ここ暫く機嫌の悪い相方に内心やれやれと思いながら、今の所わかっている情報を互いの情報確認がてら話していく。


「潤君も知っての通り、あの屋敷には誰一人居なかった。けど、後で合流した念写の能力者が確認したら一人の少女が居たのがわかった。十中八九、その少女がターゲットだろう」

「そのガキがどっかの爺を操って車で東京まで来てんだろ。言われなくても知ってるっての。ったく、そのガキは何がしたくて東京まで来てんだよめんどくせえな」

「さあねぇ。念写によると今は東京の中野辺りに居るとしか連絡が来てないからねぇ。どうにも常に移動してるっぽいし、遠くに移動される前に早く見付けないとねぇ」


 とは言っても監視網として使える下っ端が中野を含め周辺区域に配備している。

 その少女の家系からして呪術を使う可能性が高いとは聞いてるが、能力を使うとしても若い少女。

 律儀に自分達で探さなくとも下っ端に任せておけば直に見付かるだろうし、万が一暴れられたとしても幾人かは死ぬだろうが人数の暴力で確保は出来る筈だ。

 自分二人は、万が一見付からない or 逃げられて中野を抜けられた時の為に新宿に先回りして待機しておけば何とかなるだろう。

 まぁ、そんな事は限りなく低いだろうし自分達はこの新宿でダラダラして確保の連絡を待っていれば良い。


「ほらほら、折角だしなんか旨いもんでも食べに行こか」

「お前が提案したんだから、お前の奢りだろうな?」

「へいへい、わかったわかった。特別に奢ってあげるからはよう行こうか」


 話しも決まったので昼ご飯がてら近場の店を調べようとスマホで検索し、良さそうな店を決めて昼ご飯を食べに向かうのだった。

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