第89話 ため息を吐く吸血鬼さん

 やあ、美少女チート吸血鬼のアカリさんだよ。

 あ、はい、調子乗ってすみませんごめんなさい冗談です。


 おふざけは置いといて、現在私が何処で何をしているのかだけど、分かりやすく話すとすれば……


「戦姫様!戦姫様!他にはどんなお話があるのですか!!」


 城内のとある部屋にて、一国のお姫様に姫様呼びされてお話をせがまれてますね。

 まぁ、姫様は姫様でも戦の姫。

 戦姫様呼び。

 しかも、お姫様に話している話の内容は……


「え~と、色々話しておいて今更だけど、戦闘の話ばっかりだけど面白いの?」


 相手が、同じ冒険者や戦闘好きなら話してもおかしくないが相手は一国の姫。

 正直、幾分表現を控えて話しているとは言えこんな血生臭い話を聞いても面白いのかと思い私の隣に座って話を聞いている姫様に問い掛けた。


「はい、私にとっては、どの話も新鮮でとても面白いです!是非、他のお話も聞かせて下さい!」


 しかし、返ってきたのはキラキラと好奇心に満ちた姫様の瞳と声であった。


「そ、そっか」


 私は、『ハハハ』と苦笑いしながら本当にこれ以上話しても大丈夫なのかと思って近くに控えているメイドさんに目を向けた。

 もし、姫様にこれ以上話してはいけないと判断されメイドさんが禁止と声掛けやジェスチャーで返してきたなら止める。


「ッ!」


 しかし、私の目に映ったのは『問題無し!』とでも言ってる様な表情でグッ!とサムズアップを返してきたメイドさんの姿であった。


 いや、マジか。


 私は、許可が出たのなら仕方ないと話のネタを記憶の中から選ぶ。

 選んだのは、黒血鬼になる前の巨大ゴリラVS巨大毒トカゲの戦闘に乱入した話。

 この話なら、そこまでグロい内容も多くないので話しやすい。


「これも、ダンジョンでの話だけど…………


 私は、早速隣でワクワクと期待の眼差しを向けてきているお姫様に聞かせてあげるのだった。


 さてさて、私がこんな事をしている経緯を少し時間を遡って確認するとしようか。


 ※※※※※


 時は遡り姫様がコケそうになったのを助けた時まで戻る。


 私は、今も抱いたままの姫様をひとまず下ろそうと思った。

 しかし、怪我の有無を確認出来てなかった事を直ぐに思い出してして確認しようと姫様に声を掛ける。


「えっと、姫様」

「あわわわワワワ!」


 しかし、何故か顔を赤くしていまだ身体を震わせ動揺?を続けている。

 本当に何で初対面の筈の姫様が、こんなになっているのか分からない。

 そんな事を内心思ってると、メイドさんが私が抱き抱えている姫様に寄ると私の声の倍の声量で姫様に呼び掛けた。


「姫様!姫様!」

「ッ!?」

「あわわ、ぁえ?あッ!はい!」


 唐突の大声に私は、少々驚いてしまう。

 しかし、メイドさんの大声のおかげもあって流石に聞こえた様でようやく姫様が反応を返してくれた。

 私は、反応が返ってきたのでさっさと確認する。


「姫様すみません。バランスを崩しそうになってましたが、怪我等はありませんか?」


 怪我。

 その単語が私の口から出た瞬間、私の隣に立っていたメイドさんが一瞬で形相を変えると姫様に焦る様に声を掛けた。


「姫様まさか怪我を!?一体何処を!!」


 焦りと心配に満ちたメイドさんの声。

 そんなメイドさんの姿に私に抱かれたままの姫様は、困惑しながらもメイドさんを安心させる様答えた。


「だ、大丈夫ですよ?何処も怪我等していませんから安心して下さい」

「よ、良かった」


 メイドさんは、姫様の言葉を聞いて安心したのかその場にしゃがみ込んでしまった。

 そして、私も彼女の言葉を聞いてホッと安堵した。

 少なくとも、私の見た通り直ぐに痛みを感じる様な体外的な怪我は無かった様である。

 しかし、これで安心とは言えないので再度の確認を取る事にした。


「姫様、かなり強引に倒れる前に助け起こしましたのですが、怪我以外で痛む所等はありますか?」

「だ、大丈夫です!えっと、…………痛む所は無いです」

「そうですか。それは良かったです。あ、いつまでも抱いたままは不敬ですね。今下ろします」


 私は、痛み等も無い事に一安心。

 いつまでも抱いたままも悪いので姫様をそっと地面に下ろした。


「ぁ」

「ん?どうかしました?」


 姫様を地面に下ろす際に何故か残念そうな声で小さく呟いたのが聞こえた。

 その事が気になったので、地面に下ろした姫様に聞いてみた。


「あ、いえ、何でもありません」

「そうですか」


 本人が何でもないと言う。

 確実に嘘だろうが、無理に聞く事でもない。

 なので、気にしなくて良いかと思ってると後ろから駆け足で近付いてくる足音が複数聞こえてきた。

 足音の聞こえる方向には訓練場しかない。

 なので、自ずと足音の主は限定させる。


「「アカリさん!」」

「アカリ様!どうかされましたか!!」


 振り返って後ろを見てみれば、案の定勇者と超人、フェリの三人。

 そして、訓練場に居る騎士や戦闘組の皆も何事かと訓練を一時止めてこちらの様子を眺めていた。

 いきなり私が初速全開で駆け出したのだ。

 皆何かあったのかと驚愕して手を止めるのも仕方ないだろう。

 まぁ、実際の所は何故か訓練を隠れて見ていた姫様が目が合った途端逃げようとしてコケそうになった所を助けただけ。

 別に何か大きな問題があった訳ではない。

 訓練に戻ってもらおうと三人の声に答えようとした。

 その時、勇者と超人が私の隣に立つ姫様の姿を見て驚愕した。


「「な!?姫様!!?」」

「え!?姫様!!?」


 そして、二人の言葉にフェリも目の前の人物がこの国の姫だと気付いて驚愕する。

 そんな三人から姫様を遮る様に私は立つと三人に事の経緯を軽く話す。


「そういう事だったんですね。。突然消えたのでビックリしましたよ」

「そういう事。というか、二人は知ってたんだ」


 私は、フェリが知らないのは当然として勇者と超人二人が知ってる事に驚いた。


「俺達は王城に居た時間も長いからな」

「訓練や座学の様子を見に来て頂いた事が数回あったしね。それこそ、召喚されて初めての謁見の際に目にしたし。まぁ、その時は国王様メインで話してたから姫様は話されなかったけど」

「あぁ~それで」


 納得である。

 いや、納得以前に少し考えれば王城で短期間とはいえ過ごしているクラスメイト達が姫様と顔を合わせた事がある位直ぐに考え付く事であった。


「とりあえず、特に問題が起きた訳じゃないから。私も後で戻るから三人は訓練を再開しといてくれる?他の皆にもそう伝えといて」

「分かりました」

「「了解」」


 三人は、そう言うと素直に指示に従って訓練に戻ってくれた。

 それを見送ると私は後ろに振り返る。


「申し訳ありません。視界を遮る様に立ってしまって。何故か寝間着?の様な服装だったので」


 フェリ等の女性だけならまだしも男の前に寝間着姿の少女を晒すのも良くないと思っての行動だったが、相手はこの国の姫様。

 国王の事は、死んだ元凶なので恨んでいるが国王の娘である姫様は特に関係なさそうなので別に恨んでない。

 普通に王族の姫様として敬うつもりだ。

 なので、いきなり視界を遮る様な行為は不敬だったろうかと謝った。


「せ、戦姫様、謝らないで下さい。私がこんな服装で来たのが悪いのです。寧ろ、私を思っての行動感謝します」

「そうです。逆に姫様のこの様な姿を晒さない様に対応して頂いて感謝します。なので、あまりお気になさらないで下さい」

「そう言ってもらえると助かります」


 私の行動に対して特にお咎め無し。

 逆に感謝されてしまった。

 私は、ホッと安心すると一つどうしても気になる疑問があったので姫様に聞いてみた。


「あの~所でですね。結局の所どうして姫様が一人でこんな所に?しかも、寝間着姿で」


 護衛の一人、二人つけて様子を見に来たのならまだ分かる。

 超人の話的に今までも何度かは訓練や座学の際に見に来ていた様なのだから。

 しかし、今回は今までと異なり護衛無しの一人。

 それも、何故か寝間着姿でだ。

 マジで理由が気になって仕方ない。

 そんな訳で理由を聞くと姫様でなくメイドさんが口を開いた。


「申し訳ありませんアカリ様。出来れば、お話はここではなくてお部屋でよろしいでしょうか?」

「あ、そうですね。それで問題ないです」


 先程寝間着を晒さない為に行動したのに、このまま人目につく場所で話をしては意味が無くなる。

 なので、メイドさんの言葉に反論せず同意した。


「それでは、案内しますのでついて来て下さい 」

「了解しました。あ、その前に姫様ちょっとすみません」


 私は、そう言うと収納からある物を取り出すと姫様の肩に掛ける。


「へ?これは、コート?」


 それは、私の着ている物と同じコート。

 毎回戦闘でボロボロになるので予備を大量に購入して収納内に保管されている内の一着だ。

 それを、寝間着姿の姫様の肩へと掛けてあげた。


「このまま歩いてると誰かに会って見られるかもしれませんからね。私の安物のコートと同じ物ですみません」


 ちょっと格好付け過ぎたかも。

 私みたいな同性じゃなくて勇者の天之みたいなイケメンなら様になって姫様も喜んだかもしれないけど。

 まぁ、仕方ないか。


 等と思ったのだが。


「せ、戦姫様とお、同じッ!?あ、あわわはわわわワワワッ!!?!??」

「え?」


 何故か、顔を赤くして再びあわあわしだしてしまった。


「ハァ~~ですよね。姫様すみません」


 私は、意味が分からず困惑しているがメイドさんは何か知ってる様でため息を吐くと姫様をお姫様抱っこした。

 これが本当のお姫様抱っこか。


「それでは、お部屋に向かいましょう」

「あ、はい」


 そうして、姫様をお姫様抱っこして歩き出したメイドさんの後をついて行く。

 幸い道中に人と出会う事は無く移動する事数分。

 目的の部屋までたどり着いた。


「服の着替えをしますので、少々お待ち下さい」

「あ、はい」


 それから、待つ事しばし。

 そろそろかなぁと部屋の前で壁を背にして待っていると扉を開けてメイドさんが出てきた。


「お待たせしました。どうぞ、お入り下さい」

「失礼します」


 促されて部屋の中へと入る。

 すると、目の前にとても綺麗な美少女が居た。

 いわずもがな、寝間着からドレスに着替え軽くお化粧もした姫様だ。


「戦姫様、改めて訓練場ではありがとうございました。そして、名乗るのが遅れました。アストレア王国王女。エリアナ=アストレアです」


 時間が空いた事で冷静に戻ったのだろう。

 冷静になった姫様もといエリアナ王女様は、そう自己紹介して前世の漫画やアニメで良く見たカーテシー。

 正しくは、跪礼だったか?

 とにかく、お手本の様な礼をして自己紹介をしてくれた。

 それに続く様に既に姫様側は知ってるだろうが、私も自己紹介をして返す。


「新米Aランク冒険者のアカリです。数日前から勇者達の訓練を見ています」


 流石にフードを被ったままでは失礼なのでフードを取ってペコリと一礼。

 貴族の女性同士なら多分カーテシーで返すのだろう。

 だが私は、前世ごくごく一般的なオタクJKの平民。

 オタク知識で王族、貴族の事を多少は知っていても正確な礼節等知る訳がない。

 なので、最低限相手を敬っていると示す為に一礼して返した。

 私は、これで大丈夫だろうかと思いながら顔を上げる。


「ほわ~~~戦姫様。綺麗~~」

「話には聞いてましたが、本当にお綺麗ですね」

「アハハ、どうも」


 あまり顔を凝視されるのは勘弁願いたいので、私はフードを被って顔を隠す。

 とは言っても若干隠れるだけなので顔全てが隠れる訳ではないが。


「あぁ~~!?」

「私も、もう少し見たかったのですが」

「えっと、何かスミマセン。それより、訓練場に居た理由を」


 私は、このままだと部屋に来た元々の目的から逸れて行きそうなので自分から話を切り出した。


「それに関しては、私自身から話します。ベル、お茶とお茶菓子を用意してくれるかしら?」

「はい。直ぐに用意を致します」


 メイドさん。

 もといベルさんは、そう言うと一礼して部屋から出ていった。

 この部屋にお茶の道具もお菓子の類いも一見見当たらないので取りに向かったのだろう。

 それを見送った私と姫様は、部屋に設置されているソファーに座ると話を始めた。


「それでは、待ってる間に話を始めましょう。私が、訓練場に居た理由ですが、あ、あの、その、えっと」

「ん??」


 何故か、理由を話そうとした途端、顔を若干赤らめて言い淀む姫様。

 それを、?を浮かべながらも姫様が話し出すのを静かに見守って待っていると言い出す決意?が出来たのか理由を話し出した。


「せ、戦姫様を一目見たくて」

「んんん????」

「一目見るだけのつもりだったのですが、つい見続けてしまって。それで、戦姫様と目が合ってつい驚いてしまって立ち去ろうとしたら足がもつれてしまいまして」

「?????」


 内容は何とか頭に入ってはいる。

 しかし、初手の私を一目見たいという意味が理解しきれず情報の整理が上手く行えずにいた。

 そんな中、道具を取りに出ていたベルさんが部屋へと戻って来た。


「戻りました」

「あ、ベルお帰りなさい」

「お帰りなさいベルさん。わざわざ、ありがとうございます」

「いえ、お気になさらないで下さい。今すぐ、準備をしますので。お話をされていたのでしたら続けて下さい」


 そう言うとベルさんは、慣れた手つきでお茶の準備を始めた。

 それを横目に私は、姫様に先程の理由について尋ねる。


「あの、私を一目見たいってどういう?」

「それは、その~……あ、憧れと言いますか」

「ん????」


 余計に意味が分からなくなってきた。

 初対面の姫様に何故か憧れられる。

 しかし、よくよく思い出せば姫様は、私の『白銀の戦姫』の二つ名を知っていた。

 という事は、私が知らずとも姫様は私の事を知っている。

 つまる所、私の噂か何かで何故か憧れられているという事なのだろうか?

 そう内心で考えている、といつの間にかお茶の準備を終えていたベルさんが話に入ってきた。


「姫様、それだけだと言葉が足りませんよ?どうぞ、紅茶です。熱いので気を付けて下さい。それと、こちらお茶菓子用のクッキーです」

「ありがとうベル」

「ありがとうございます」


 目の前に置かれた良い匂いのする紅茶と美味しそうなクッキー。

 それを、一言お礼を言って早速頂く。


「あ、美味しい。……クッキーも、サクサクしてて程よい甘さで美味しいです」

「本当。ベルの淹れてくれる紅茶は、いつも美味しいわ」

「ありがとうございます」


 私は、それから一口、二口と紅茶を飲んで先程ベルさんが言っていた事について尋ねた。


「あの、さっきの言葉足らずとは?」

「その事ですか?姫様、話してもよろしいですか?」

「ええ、話しても構いません」


 何か姫様に関わる事なのか、ベルさんは姫様に話す許可を求める。

 それに対して、問題無い様で姫様の許可を得たベルさんは私に話してくれた。


「姫様は、今はこうして普通に見えますが元々は、身体が弱い方なんです」

「え?」


 私は、本当なのかと思って本人の顔を見る。


「はい。事実です。今日は問題ないですが元々身体が弱く酷い時には風邪や熱でろくに動けないのも珍しくありません」


 そう言った姫様は儚げに微笑んだ。

 私は、その微笑みに何と言葉を返せば良いのか分からずにいると、姫様の言葉に続いてベルさんが話を続けた。


「姫様は、その為小さい頃から城内でしか生活してきませんでした。なので、外の世界の話を聞くのが好きでお世話係の私が良く街での話や他領や他国での出来事を話すと喜ばれたものです」


 昔の事を懐かしんでいるのか、ベルさんは紅茶を一口飲むと遠いどこかを見る様な目をして空中を眺める。

 しかし、数秒もすると元に戻り話を続けた。


「そして、最近王国中である噂が流れました。とある少女が魔物の軍勢から街を守った。当然、姫様の耳にもその噂は届きとても興味を抱かれました」

「身体の弱い私と違う。身体が強く魔物の脅威から街を人々を救った冒険者の少女。歳も近い戦姫様の事を知ったその時から、私は戦姫様に憧れたのです!どんな方なのかもっと知りたい!それで、ベルに頼んで色々と戦姫様の情報を集めてもらったりもしました!そんなある日、戦姫様が城内に招かれて暮らしていると聞いて会いたかったのですが、今日のお昼までの数日間熱で寝込んでたもので」

「な、なるほど」


 それで、昼起きると体調が回復!

 早速私に会いに行こうと勢いそのままパジャマのまま部屋を出て私を探して訓練場に辿り着いたと。

 なるほどなるほど。

 行動力凄いな。

 身体が弱いんだから、もう少し安静にしないといけないのでは?

 そう思ったものの今の所身体に問題は無さそうなので大丈夫ではあるのだろう。

 等と一人納得していると姫様が、キラキラした瞳で私に詰め寄って来た。


「あ、あのですね。よろしければ、私に戦姫様の冒険の話を聞かせてもらえないでしょうか!」

「私の冒険の話?」

「はい!駄目でしょうか!」

「まぁ、良いけど。えっと、それじゃあ私が歳下の少女を助ける為にオーク二体と戦闘した話だけど…………


 そうして、私はこれまで経験した冒険の話をしていくのだった。


 ※※※※※


 そんなこんなで、幾つか話をしていき冒頭に繋がる訳である。


「話せるのはこれ位かなぁ。ごめんね?何分私も、冒険者になって日が短いから話せる内容も少なくて」

「いえ!とても有意義な時間でした。こちらこそ、ありがとうございます!」


 喜んでもらえたのなら何より。

 正確には分からないが、時間もかなり過ぎて既にこの部屋に来てから一時間はゆうに経過してるはず。

 なので、そろそろ戻らせてもらおうと席を立とうとした。


「それじゃあ、私はそろそろ戻らせてもらうね」

「はい。ありがとうございましッ!あ、あの、お話のお礼に是非占わせてもらって良いですか!」

「占い?」


 私は、どゆこと?と思っているとベルさんが詳しく教えてくれた。


「姫様は、身体を使う戦闘こそ出来ませんが占術のスキルを持っていまして対象を占う事が出来るんです。私も時折占って頂きますが、とても当たるんですよ」

「未来や大陸規模を占うのは無理ですが、ちょっとした探し物や対象の先の運勢等を占う事が出来るんです!」


 うん。

 ドヤ顔可愛いな。

 じゃなくて、思ったより結構凄そうなスキルだね。

 使い様によっては、かなり有能なスキルだよ。

 せっかくだし、占ってもらお。


「それじゃあ、お願いしようかな」

「そ、それでは、戦姫様の先の運勢を占いますね。少し手を触ります」


 姫様は、そう言って私の右手を壊れ物でも扱う様に優しく両手で握ると目を閉じて集中しだした。

 それから、一分程だろうか。

 静かに目を開いた姫様は、一度深く息を吐くと私に微笑んできた。


「終わりました。結果をお教えしますね」

「はい」


 さてさて、一体どんな結果だったのか。

 私は、少し内心ワクワクしながら話される結果に耳を傾けた。


「結果ですが、大きな困難あり。油断すると危険と出ました」

「Oh~~」


 これは、絶対に面倒事が起きる。

 確信を持って断言出来る。

 これが、魔王関連なのか別のモノか分からないが注意が必要そうだ。

 私が、そう思っていると更に姫様の口から結果が話された。


「そして、大きな勘違いあり。自身をよく知る存在に確かめよ。そう出ました。以上です」

「ん????どゆこと??」

「申し訳ありません。詳しい内容までは。どういう事何でしょう?」


 私も姫様も最後の占い結果にお互い頭に?が浮かぶ。

 しかし、考えても何を勘違いなのか分からなかった。


「それじゃあ、姫様楽しかったです。ベルさんも紅茶美味しかったです。ありがとうございました」

「いえ、喜んでもらえて幸いです」

「戦姫様、またお話出来ますか?」

「出来ますよ。私は、まだこの城にしばらく居ますので。それと、戦姫様じゃなくてアカリで良いですよ」


 正直別に呼び方は、余程変なモノでなければ何でも良い。

 だが、どうせなら戦姫様って二つ名の呼び名でなく普通にアカリって名前で呼んで欲しい。

 そんな思いで姫様にアカリ呼びを提案したのだが。


「え、良いのですか!?憧れの戦姫様を名前呼びで!!」

「あ、はい。良いですけど」


 私は、予想以上の食い付きぶりに軽く引きながら肯定して返した。

 てか、王女なのだから呼び方の許可等取らなくても良いのでは?と思ったが指摘するのは不粋だろうか?


「あ、アカリ様」

「はい。アカリさんですよ~~」

「アカリ様、エヘヘ、エヘヘヘ……憧れの方とお会いしてお話出来ただけでなく名前呼び出来る何て。何て幸せな日何でしょう!!もしかして、今日が私の命日!!?」


 何故だろうか。

 名前を呼んでもらっただけなのに、姫様が再び変になった。

 私は、そんな顔を赤らめてにやけてる姫様を何とも言えない表情で眺めてると隣にベルさんが寄って来た。


「申し訳ありませんアカリ様」

「ベルさん?」


 何故か、頭を下げられたので疑問を感じてるとベルさんが突然語りだした。


「姫様は、特に幼少期に身体が弱かった事もあり社交界の場にも殆んど出た事がないのです。なので、同い歳の友人と呼べる存在もゼロ。兄弟も兄は居ましたが、何年も前に既に結婚されて城を出ている為に話し相手も普段はお世話係の私位。勇者様方と話す時も、護衛が側に控えているので、簡単な短い会話のみ。なので、歳の近いアカリ様と友人の様に談笑した上に名前呼びまで出来た事に酷く喜んでおられるのです。しかも、それが憧れの人である為に少々正気を失ってるのかと」

「は、はぁ、なるほど?」


 一応納得は出来た。

 つまる所、拗らせてるって事なのだろう。

 これまでの、突然あわあわと震えだしたのも拗らせていた事が原因。

 こんなまるで推しに認知されて正気を失ったオタクみたいな行動、発言をする程に拗らせるとは。

 本当に姫様は、友人に恵まれなかったのだろう。


「恐らくしばらくは、正気に戻らないはずです。どうぞ、お気になさらずお戻り下さい」

「えっと、はい。それでは」


 私は、ベルさんに言われて何とも締まらないまま部屋を出たのだった。


 ※※※※※


 私は、城内の廊下を歩きながら姫様に占ってもらった結果について考えていた。

 大きな困難と大きな勘違い。

 別に困難は、毎回の事なので気合いと根性で相手をブッ殺せば終わりなので良い。

 問題なのは、もう一つの占い結果。


 大きな勘違いかぁ。

 一体何なんだろう。

 それに、自身をよく知る存在に確かめよねぇ。


 大きな勘違い。

 文字通り私が、何かを勘違いしている。

 それか、私以外のその他が勘違いをしている。

 だから、自身をよく知る存在に確かめて確認する必要がある。

 多分そういう事なのだと思う。

 しかし、私の周囲の人物。

 フェリやクラスメイト一同とは話すが特に認識のズレは無さそうに感じる。

 ただ、一から十まで全て確認した訳ではないので全て確認したら何かしら認識のズレはあるかもしれない。

 これに関しては、近々皆を集めて確認してみるとしよう。

 もしこれで、勘違いが発見出来なかった場合。

 私もその他全員も認識出来ていない何かしらの勘違いが存在する事になる。

 そうなると、マジで面倒なので勘弁願いたい。


「ハァ~~まさか、こんな所で悩みの種が増える何て」


 ただ、美少女と楽しくお話するだけと思いきや何故か意図せず問題が増える。

 ただでさえ、明日には更に面倒事が増えるというのにこんな時にヤバそうな問題が増えた。

 どうしたもんかと、アカリは頭を押さえ深いため息を吐くのだった。


「ハァ~~癒しが欲しい」

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