第88話 ビックリする吸血鬼さん

 昇格試験を終えて無事Aランクになってから二日が経過した。

 二日間の間、特に何か特別な事はなくフェリや戦闘組に死なない程度に本気で魔力切れ+手足が動かなくなるまで模擬戦をさせたり。

 書庫で、私やフェリ、戦闘組の鍛練に向いてそうなダンジョンを資料を読んで探したり。

 生産組に回したクラスメイト達に国庫から生産に役立つスキルオーブを見繕って取得してもらい国庫の素材や私が、ダンジョンでブッ殺した魔物の素材を渡して色々作ってもらいスキルLvを上げてもらったり。

 多少忙しくはあったが何事もない平穏な二日間を過ごしていた。


 そんな日を過ごした翌日の昼前。

 私は、城内をとある場所を目指して一人で歩いていた。


「あそこか」


 視線の先には扉の前に立つ騎士の姿。

 どうやら、あの部屋が私の目的地で間違いなさそうだ。

 場所の説明は事前にされていたが、何となくしか理解していなかったので目印の騎士が居てくれて内心助かった。


「アカリ様、お待ちしておりました。皆様中でお待ちです。どうぞ中へ」

「うん、ありがとね」


 騎士に促され部屋の中へと入る。

 中へ入ると同時に感じる殺意にも似た憤怒の視線の数々。


 いやはや、嫌われてますなぁ~。

 ま、どうでもいいんだけどね。


 私は、そんな視線をサクッと無視して空いてる席の一つに座り頬杖をついて部屋にまだ来ていない残り一人を待つ。


 さっさと来ないかねぇ。


 その後、暇潰しに魔力制御と感知系スキルの鍛練をしながら待つ事十分少々だろうか。


「すまない。少々遅れてしまった」

「いえ陛下。多忙の身なのですから気にしないで下さい」


 最後の一人である国王が、ようやく部屋へとやって来た。


「そうか。では、長引かせるのもなんだ。さっそく始めよう。アカリ殿、先日の勇者達への事について説明を頼む」

「了解」


 国王に指示され私は、返事を返し椅子から立ち上がる。


 さてと、面倒だけどやりますか。


 私は、非常に面倒だが話を始める。


「それじゃあ、先日の…………


 了承しようとしない老害糞爺共への説明を。


 ※※※※※


 てな訳で上手く戦えない人員が居ても意味がない。無駄死にするだけ。そんな理由ですね。減った戦力も先日の昇格試験の冒険者を王命で指揮下に置く予定です。以上で説明を終えます。なにか、質問はありますか?」


 私は、面倒な説明を終えて話を聞いていた爺共に質問がないかたずねる。

 このまま納得してくれたら非常に楽なのだが、そんな事は残念な事にあり得ない。


「そんな説明しなくともとっくに聞いとるわ!勝手に我が国の貴重な戦力を生産なんぞに回しおって!どう責任を取るつもりだ!!」

「そうだ!!前回の無礼に目をつむってやっておけば、再び勝手な事をしおって!!」

「平民の!男を喜ばすか子を成す事しか役立てん女の分際で好き勝手しおって。貴族を舐めているのか!!」


 はぁい、出ました出ました罵詈雑言。

 自分達が正しいと信じて疑わない。

 いや、自分達貴族の考えこそが正解とでも思ってるのだろう爺共の言葉を一々律儀に聞いてやるのも面倒。

 なので、黙らせる為に私は柏手一発。


『パシイィィーーーーーンッ!!』

「「「「ッ!?」」」」

「文句は聞いてません。私は、質問を聞いてるんですよ。無いなら、納得したと判断して説明は終了。このまま、勇者達の育成を続けますよ。どうなんですか?」


 事実私は、質問を聞いてるのであってクレーム対応をしているのではない。

 なので、冷たく微笑み間違いを指摘し優しさでもう一度問い掛けてやった。

 しかし、害しか及ぼさない故に老害。


「黙っておれば調子に乗りおって!」

「小娘が、所詮貴様は我々に使われる手駒。我等が上で貴様は下。分を弁えろ痴れ者が」

「今すぐ貴様を切り捨てて他の者へ変えても良いのだぞ!!」

「それが嫌なら、大人しく我々の言う事に従っていろ!!」


 私の優しさ等、この腐りかけの生ゴミには無意味。

 この部屋でまともな者は、護衛として部屋の中に居る騎士二名と魅了している国王とゲロ?ゲリ?何とか侯爵って奴だけ。

 マジで本当に面倒でしかない。


 もう良いや。

 終わらせよ。


「ハァ~あのですね、勘違いはあなた達ですよ?」

「何を馬鹿な事を言っている」

「我々が勘違い等している訳ないだろ!」


 私は、突っ掛かってくる生ゴミを無視。

 話を続けていく。


「そもそもの話、本来ならあなた達の了承自体要らないんですよ?だって、既に陛下の了承を得てるんですから。それを、わざわざ納得させてあげる為に説明の場を設けてあげたんですよ?」


 あくまでも、コイツらは国の重鎮。

 国の頂点は国王なのだ。

 その国王自体は、既に謁見の日にクラスメイト一同の訓練に関する指示の権利を私に渡している。

 私は、戦闘組の勇者の一部を生産組の勇者グループへと異動させただけ。

 渡された権限を行使しただけなので、文句を言われる筋合いはないのだ。


「アンタら風に言えば、陛下が上でアンタらが下。その上の者が許可してるんだから大人しく従ってもらえます?」


 お前らが言った理論なのだ。

 文句はないだろ。


「くっ!」

「それは、しかし……陛下!」


 老害達は、言い返すすべが無くなったのか国王に助けを求める。

 だが、国王に助けを求めても無駄。

 とっくに魅了して私の支配下にいるのだから。


「私は問題ないと許可している。ダニエルにも先日説明して了承を得ているぞ」

「私も問題ないかと。陛下の許可を得ている彼女が考えた上での判断なのですから良いでしょう」


 国王、そしてゲロ?侯爵の魅了組の二人の自分達と反対の答え。


「ぐぅッ!」

「何故ッ」

「そんな」


 老害糞爺共は、トップと身分の高い侯爵の二人が了承しては下手に文句が言えないのか黙るしかなく悔しそうに黙り込んだ。

 しかし、せめてもの抵抗か私を睨み付けてくるが過去敵対した魔物達と比べて威圧感ゼロで全然怖くない。

 柳に風と受け流して私は、話を締める事にした。


「それじゃあ、もう説明も無駄ですし終わりで良いですね。皆さん」


 私は、そう言いながらフードを脱いでニコリと微笑み……


「「「「「「ッ!?」」」」」」


 魅了を発動。

 部屋の全員を魅了した。


 ちょちょいっと。

 よしOK。


 騎士を除いた魅了した老害共のステータスの状態部分を偽装魔法で隠蔽。


「それじゃあ、これで解散しましょっか。今後は、いつも通り仕事しながらで良いので貴族の皆さんは、最大限私達を支援して下さいね?」

「「「「はい」」」」


 皆私の言葉に返事をすると私の指示通り席を立って部屋を一人、一人と出ていく。

 それを全て見送り私は、騎士の二人と共に部屋を出ると騎士二人の魅了を解除した。


「ん?」

「??」


 解除した瞬間、騎士二人は何か違和感があるのか?を浮かべてその場に立ち止まった。


「どうかしました?」


 立ち止まったのは、確実に魅了を解除したのが原因のはず。

 元より魅了して操り人形にするつもりだった老害共と違って騎士の二人は元々魅了するつもりはなかった。

 前回の国王みたいに一人だけ魅了するならともかく、今回は複数魅了の為に、スキルLvがまだ低く上手く制御出来ず部屋の者達をまとめての魅了。

 その為に、騎士の二人も巻き込んで魅了してしまったのだ。

 二人には、少し申し訳ない事をしてしまった。

 しかし、魅了についてはまだ鑑定の詳細以外性能を把握仕切れていない。

 今回は、事故?とは言え一度魅了した者の魅了を解除する機会が出来たので情報を得る為に話を聞く。


「あ、いや、何か力が抜けた?みたいな感じがして」

「何というか、眠気が覚めた?のに近い感覚が急にして」

「部屋の中ではどうだったんですか?」

「う~ん。どうでしょう」

「本当に急になのでちょっと分からないですね。部屋の中では普通だったかと」


 なるほど、解除の瞬間のみ違和感あり。

 魅了中の記憶は存在すると。

 良し。

 貴重な情報ゲット。


「そうですか。仕事疲れなのかもしれませんね。無理しないで下さいね」

「ありがとうございます」

「今日は、早めに休む事にしますね」

「はい。それでは」


 そう言って私は、騎士二人と別れてお腹も空いてきたので昼食を食べるべく食堂に向かうのだった。


 ※※※※※


「おら!ラノベ主人公もっと剣と魔法で同時に攻撃しろ!!超人お前は今の数倍以上バグれ!超人なんだから出来るだろ!!てか、お前らもっとお互いに本気で攻撃仕掛けろ!そんなんじゃ鍛練にならないぞ!」

「ラノベ主人公言うな!これ以上今は同時に攻撃出来ないんだよ!!」

「超人言うな!てか、バグって何だよ!!これ以上本気で攻撃って当たったら大怪我するよね!!?」


 昼食を終え訓練場に来た私は、一組一組にアドバイスしていき現在は勇者と超人の二人を見ている。

 そして、その模擬戦が二人の実力に比べてあまりにも低レベルだったものだから活をいれていた。


「問題ない!人間気合いがあれば大体の事はどうにかなる!それに、大怪我しても城には、回復魔法使いがいる。それに、向こうで模擬戦してるフェリも回復魔法が使えるから最悪対処可能!!安心して本気で戦闘しな!!」

「「安心出来るか!!」」


 むむむ……二人の強さなら本当にもう少し激しい戦闘は出来そうなのだが。

 やはり、私と違って自前の強力な回復力と再生が無いので不安や心配があるのだろう。

 それなら、最悪怪我させても問題無い相手となら思う存分戦闘出来るはず。

 となれば、相手可能なのは一人だけ。


「なら、私が本気で相手してあげよっか!」

「「絶対嫌だよ!!」」

「何でだよ!!」


 何故だ!

 私なら練習相手に最適だろ!?

 何で即答で断られるんだよ!


 私は、受け入れられず理由をラノベ主人公とバグに問い質した。

 すると、二人は話ながらも続けていた戦闘を止めて私の質問に答えてくれた。


「アカリさんさ、この前の昇格試験凄かったよな」

「えへへ、そりゃどうも」


 突然褒められたが私は、褒められたのが嬉しいので素直に喜ぶ。


「ちなみに、最後の試合のスカルって人。そういや、どれ位怪我してたんだっけ?」

「ん?えっと」


 突然スカルの怪我の詳細を尋ねられた。

 確か、昇格試験から帰ってきた際に皆に聞かれて教えたらドン引きされたはずなのだが。


「怪我は左腕と顎の肉が潰れる。両顎関節の骨と左腕の骨が粉砕骨折、十数の欠歯、全身青アザに出血、熱湯による全身の大火傷、首と右足首を強く捻挫、両肩甲骨とあばら8本骨折、全身打撲だったかな?」


 ギルドカードの更新の後にギルマスのオッサンと話す機会があってその際に教えられたのだ。

 かなりの重傷なので、回復薬と回復魔法の二つで必死に治療したらしく何とか治せそうらしい。

 まぁ、正直どうでも良いが一応貴重な戦力なので無事ならそれで良い。


「それで、アイツの怪我がどうかしたの?」


 私は、怪我の詳細を教えて二人を見る。

 すると、二人からやっと理由を教えてもらえた。


「本気ってあのスカルって奴と同じ位って事だろ!!死ぬわ!!」

「僕らまだ、あのスカルって人程の強さないからね!?アカリさんが本気なんて相手出来ないから!殴られたら即死しかねないんだよ!!」


 なるほど、本気でって言ったから否定をしていたようだ。

 本気って言葉は、ただの表現であって流石に二人相手に出しはしない。

 なので、私は二人を安心させる為に言葉の訂正をする。


「ごめんごめん。本気って言っても本当に本気何て出さないって」

「何だ。それなら良かった」

「うん。それが本当なら安心出来るよ」


 二人は、私の訂正にホッと安堵のため息を吐いて安心した。

 正直、勇者はともかく超人なら本気の私の攻撃も捌けそうな気がするが、本人が無理と言ってるので多分無理なのだろう。


「それで二人共、私が相手で良いの?」

「手加減してくれるならお願いするよ」

「うん。僕もお願い」

「了解。それじゃあ、天之からね。開始の合図を出したらスタートね。…………開始!」


 そうして、私は天之との模擬戦を開始した。


 ※※※※※


「も~~無理」

「同じく」


 目の前には、ボロボロになって地面に倒れる勇者と超人の二人。

 模擬戦を開始してから、軽い休憩を挟んではいたがほぼぶっ通しで連戦。

 途中から数えてないが、数十回位は戦闘をしているはずなので疲れて動けないのも仕方ないだろう。

 ちなみに、模擬戦の結果は私の全戦全勝だ。


「ほれ、フェリに頼んで回復魔法掛けてもらってきな」

「あ、あぁ……いってくる」

「身体が、重い」


 二人は、そう言って本当に重りでも背負ってるかの様な足取りで、フェリの居る所に向かってズルズルと歩いていった。


 さてと、待ってる間何してますか。

 って、うん?


 私は、ふと視界の端に何かが映った気がしてそちらに顔を向ける。

 すると、何故か訓練場から程近い外を通る渡り廊下。

 その渡り廊下の柱からこちらを覗いてくる少女が見えた。

 見た目的に歳は私達と同じ位だろうか。

 綺麗な長髪の金髪、タレ目の美しい碧眼、肌も白くまさに美少女。

 なのだが、何故かその姿はパジャマ?みたいな服装をしており若干違和感を感じる。

 しかも、覗いている姿がまさにコソコソと隠れて覗いている事もありより一層違和感が半端なかった。


 え、何あの美少女。

 何でパジャマ?姿な上に隠れて覗き見してんの?

 え、マジで何で?


 私は、見えたモノが予想外過ぎたあまり頭の中が困惑で埋め尽くされてしまう。

 しかし、頭を振って何とか困惑を振り払い謎の美少女をもう一度見て見ようと目を向ける。


『ッ!?』

「あ」


 すると、今度はその美少女と目が合い驚いたのか美少女は慌てて柱の後ろから立ち去ろうとする。

 しかし、余程慌てていたのか多分何かに躓いたのか、パジャマ?の裾辺りを踏んだのかしたのだろう。

 その美少女は、走り去るのではなくコケそうになっていた。


「ちょッ!?」


 瞬間、私も大慌てで駆け出す。

 距離は、およそ二十メートル位か?

 私なら、本気を出せばこの距離を瞬時に詰められるはずだ。

 地面を踏みしめ一瞬で駆け寄る。


「セーフ!!」

「ひゃあッ!!?」


 倒れる寸前の美少女の身体を衝撃が伝わらない様に慎重に抱き上げそのまま直ぐには止まれず通路を通り抜けスピードを落とす。

 何とか止まって抱えている美少女を見れば、パッと見は怪我している様には見えないし抱き上げた際の衝撃も伝わった様子もなさそう。

 しかし、それは私から見たら。

 私が見て気付いてないだけで、何か怪我している可能性もあるので本人に確かめる。


「大丈夫?怪我とかし、て」


 私は、抱えている美少女に声を掛けようとした。

 しかし、顔を下に向けて美少女を見た瞬間声が引っ込んだ。

 何故か、それは…………


「はわわわワワワッ!?!?は、はく、はくぎん、のせ、せんきさま!!?あわわわワワワ!!??」


 何でか知らないが、私の二つ名を言って目茶苦茶美少女が動揺しまくっていたからだ。


 いや、うん、本当に何で?


 私は、頭の中が再び困惑で埋め尽くされる。

 だが、直後誰かが走ってくる足音が聞こえてきて足音の方へと視線を向けた。

 視線の先には、こちらに向かって来る一人のメイドさんの姿。

 その姿は、かなり慌てており息を切らしながら走っている。

 私は、そんなメイドさんの姿に抱えている美少女と何か関係あるのだろうかと疑問を抱くとメイドさんから発せられた言葉に驚愕した。


「姫様!良かった。ここに居られたのですね!」


 ひめさま?

 ヒメサマ。

 姫様?


「姫様?……………ッ!?はあッ!?姫様!!?」

「あわはわわわワワワ!!??」


 いまだ、私の腕の中で抱えられあわあわと動揺している覗き見をしていた謎の美少女。

 その正体は、何とこの国の姫様であった。

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