第52話 謝罪する吸血鬼さん

 ※遅れてごめんなさい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ウィルスとWギルマスと話した翌日の朝。


「ハァ~……何か休んだって気がしないや」


 アカリは、領主邸を出て街の中を歩いていた。


 ん?

 何で話があった日じゃなくて翌日に出てきてるんだよだって?

 それを、私の口から話せだなんて君達に人情は無いのか!

 あ、スミマセンごめんなさい許して。

 お願いだから、ハイライトオフ状態で私を囲ってカゴメカゴメしながら近付いて来ないで!?

 滅茶苦茶怖いから!!

 ~~と、1人脳内茶番劇のおふざけは、この辺で終わり。

 何があったのか、少し振り返ろう。


 翌日の朝に領主邸から出てきた本当の理由は、単純にあれからまた色々とあったから。

 そして、何があったのかというとあの後に何故か私を含めて防衛戦に関して反省と改善点を話す事になったのだ。

 それで、話した内容だが……

 今回の防衛戦の出遅れに対して改善点を何故か私にも聞いてきたので「強い奴ら真っ先に現場に向かわせたら?」と答えたり。

 冒険者、兵士の全体的な実力を向上させるには?と何故か私にも聞かれたので「ダンジョンにでも、1ヶ月潜らせたら?」と答えたり。

 多数の敵との効率的な戦術を何故か私にも聞かれたので「知るか」と答えたり。

 素人の私にわかる訳ないのに何故か、私にも毎回聞いてきたのだ。


 本当に何で私にまで聞いてきたんだろうね。

 私を万能な存在と勘違いしてやいないかこやつら。


 それで、話しも大体終わり気付けば日も暮れて空が赤くなり始めていたので私は帰ろうと思い席を立とうとした。

 しかし、私が行動するのが遅く奴の言葉が出てくる方が僅かながら早かった。


「時間も遅い。家で夕食を食べて行くと良い」


 奴は、ウィルスは、そう言いやがったのだ。

 勿論私は、直ぐに断った。

 貴族との食事なんて堅苦しいテーブルマナー。

 所謂作法があるので嫌に決まっている。

 しかし、Wギルマスにひき止められウィルスにお礼として豪華な料理を提供すると言われ仕方なく夕食を共にする事になった。

 決して、豪華な料理に目が眩んだ訳ではない。


 ただ、一言言うとすれば、料理はとても美味しかったです。

 あれが、俗に言う頬っぺたが蕩け落ちる様な美味しさって言うのかなぁ。

 また、あの何かのお肉のソテー?食べてみたいなぁ。

 ん?

 作法は、大丈夫だったのかって?

 ハハハ……私を誰と心得る。

 前世で、日がなゲーム、漫画、ラノベ、アニメを満喫していたオタク様だぞ。

 料理漫画やアニメで作法が気になって一通りマスターしたに決まっているだろ!


 そういう感じで、料理も食べ終え今度こそおさらばしようと席を立とうとし……


「外はもう暗いし。泊まっていったらどうかしら?」


 又もや、今度はウィルスの奥さんに行動するより早く先手を打たれてしまった。

 当然私は、直ぐ様断った。

 誰が好き好んで、貴族の屋敷に泊まろうだなんて思う。

 だから、宿に泊まるから大丈夫と丁重に断った。

 しかし………


「あんな事があったばかりだ。流石に、宿は開いてないと思うが」

「はい。魔物の被害で何処も営業してないかと。仮に営業していても家が壊された住民の方々で埋まってると思いますよ」


 ウィルス+商業ギルマスの言葉に撃沈し私は、渋々泊まる事にした。

 だが、1つ文句があるとすれば。


「アカリさん。また、明日ギルドでね」

「アカリさん。また、機会があれば会いましょう」


 Wギルマスの2人は、仕事がまだあるからと帰った事だ。

 仕事なら仕方ないとは理解してるが、この時ばかりは私1人置いて帰った2人を心底恨んだ。


「それでは、アカリ様。お風呂の準備が出来ております。ご案内しますのでついて来て下さい」

「あ、はい」


 領主邸に泊まる事になった私は側に待機していたメイドさんにお風呂へと案内されたのだった。

 正直戦闘の疲れやらなんやらで、お風呂に入れるのはありがたかったのでメイドさんの案内に素直について行く。


 そして


「…………疲れた」


 疲れが取れる所か更に疲れが溜まった。


 何があったのかって?

 ……ハハハ。

 ただ、待機していたメイドさんが何故か一緒に風呂に入る事になって髪や身体を洗われる事になったり。

 何故か、風呂場に突撃してきたウィルスの奥さんに抱き着かれながら頭撫でられたり頬擦りされたり。

 いつの間にか、用意されてたやけにフリルだらけの可愛らしいパジャマを着せられたりしただけだ。

 うん。マジで疲れた。

 てか、何で初対面の奥さんに私あんなに好かれてんの?


「ハァ~~こんな可愛い女の子とお風呂に入れて幸せだわ。家は、娘がいないから娘と一緒にお風呂ってのが憧れだったのよね」

「さいですか」


 あぁ~~そんな感じで。

 やけに好かれてる理由はわかったけど、出来たら私で欲を満たす事はしないでほしかったよ。


「ねぇ、アカリさん。折角だし私と一緒に今日は寝ない?」

「もう、勘弁して」

「では、私とどうでしょう」

「マジで勘弁して」


 何か、メイドさんまで参戦してきたので私はそそくさとその場から退散し別のメイドさんに私に用意された部屋へと案内してもらい部屋に入るとベッドにダイブして寝た。


 ※※※※※


「起きたら、何故か奥さんとメイドさんが同じベッドに居たときはビックリしたよ。仮にも貴族とそのメイドが何で一般人の小娘と同じベッドで寝るんだよ」


 あの時は、マジで顔がポカーンってなった。

 ただ、その後は何事もとは言えないがスムーズに進んだ。

 寝癖をいつの間にか直され顔と歯を磨き、これまたいつの間にか洗濯されてた服に着替え終えたら用意してもらった朝食を食べた。

 そして、ウィルスと軽く話し報酬のお金の金貨100枚入った袋を受け取った後、領主邸を後にしたのだった。


 心底嫌って訳では無いけど、流石に疲れたや。

 まぁ、今後ウィルス以外の貴族と直接会う事は無いだろうしここまで気疲れする事もないか。

 というか、まさか報酬があんな貰える何て思わなかったよ。


 私は、そんな事を思いながら歩いていたら今目指していた場所にたどり着いた。


「着いたか」


 私が、目指していた場所。

 それは、防衛戦前に立ち寄ったあの武器屋。


「お金は、置いといたとはいえメモに後で来るって書いたんだし行かないとね」


 私は、怒られるだろうなぁと内心ビビりながらもドアを開けて店へと入った。


「す、すみませ~ん」


 店に入ると、店内の武器の手入れをしていた中年位の男性が私に気付いて話し掛けてきた。


「ん?おう。いらっしゃい。こんな、しけた武器屋に嬢ちゃんみたいな女の子が何の用だ?」

「あの、この店の店主さんですか?」

「そうだが」


 どうやら、目の前の男性が店主だったようだ。

 良かったといって良いのかわからないが、私は早速用件を話す事にする。


「すみませんでした~!!」

「は!?」


 いきなり謝ってきた私に対して男性は、驚いた声をあげているが構わず続ける。


「誰も居ないのにお金を置いて勝手に武器を持っていき本当にすみませんでした!」

「あ!あの置き手紙のアカリって奴、嬢ちゃんだったのか!」

「はい、そうです」


 私の言葉から、男性はようやく納得がいったのか手を組んで私を見てきた。


「正直言ってまぁ、金はきちんと払ってくれてるし置き手紙の通り来て謝ってくれたから大して怒っちゃいねえ」

「あ、ありが「ただ、1つ教えてくれ。嬢ちゃんみたいな華奢な少女が何で武器が必要なんだ?それも、金貨三枚分も」


 男性の言う事も仕方ない。

 私は、華奢でどう見ても武器を振り回して戦う様な見た目ではないのだから。


「魔物と戦う為に必要だったので」

「ハァ!?嘘つくんじゃねえよ」

「本当ですよ。ほら」


 そう言って私は、収納から大鎚を取り出し周りに気を付けて片手で一振りすると肩に乗せた。


「ウッソだろ。マジか。てか、今何処から出した?」

「ブイ」


 男性が驚いてるのを見て私は、ピースサインしながら軽くドヤ顔する。


 どうやら、信じてくれたっぽいね。

 あと、やっぱり収納は気付いてないけどビックリしてる。


「だが、持っていったのはそれだけじゃないだろ。他の武器はどうしたんだ」

「ありますけど、大半が戦闘でぶっ壊れました」


 私が、持っていった武器は大鎚、剣、大剣の3種。

 内壊れたのは大鎚、剣、大剣の3種類全てだ。

 大鎚は、2つ持っていき内1つがスケルトンジャイアントの3体目を倒すと同時に柄と打撃面の部分がひび割れてぶち壊れた。

 剣は、増援が来るまでの間に3本、ザクト戦で2本、その後の戦闘で4本の合計9本がへし折れた。

 大剣は、大鎚同様2本の内1本が戦闘の最後の辺りで刀身の真ん中からへし折れた。

 それを、簡単に説明したら。


「」


 情報を整理しきれないのか男性はフリーズして固まってしまった。

 しかし、1、2分もすれば再起動して動き出し私に話し掛けてきた。


「まぁ、壊れた武器達も戦いの中で壊れたんなら本望だろ。壊れた武器達は嬢ちゃんを守るのに役に立ったか?」

「はい。もし無かったら今頃私は死んでたはずです」

「そうか、ありがとよ。武器を勝手に持ってたのは良いから残りの武器達を大切に使ってやってくれ」

「はい。ありがとうございました」


 そうして、無事許してもらえた私は店を出て次の目的地である冒険者ギルドに向かうのだった。


 ※※※※※


 ギルドにたどり着いた私は、ギルドの人口密度に驚いていた。


「いや、人多」


 どうやら、昨日クレアさんが帰った後に報酬の準備も終わらせたのか防衛戦の報酬の受け渡しをしているみたい。

 そのせいで、ギルド内の冒険者の数が異常に多いようだ。


「とりあえず、並ぶか」


 私は、しょうがないかと長蛇の列の最後尾に並んで順番を待つ事にした。

 そして、待つ事恐らく30分近く。


「お待たせしました。ご用件をお願いします」


 ようやく、受付窓口にたどり着けた。


「ギルドマスターのクレアさんに今日来る様に言われたんですけど」

「すみません。確認の為にお名前とギルドカードをお願いします」

「アカリです」


 私は、言われた通りギルドカードを受付嬢に手渡して名前を名乗った。


「貴方がアカリ様でしたか!すみません。少々お待ち下さい」

「え、あ。行っちゃった」


 受付嬢の女性は、私の名前を聞いて確認した途端に席を立つと建物の奥へと走り去っていった。

 そして、待つこと2、3分。

 何故か、クレアさんが共にやって来た。


「アカリさん。昨日ぶりね」

「そうですねぇ。おかげさまで、1人で貴族の相手させられて疲れましたよ」

「えっと、ごめんなさいね?そ、それより報酬よ。貴方渡してあげて」


 クレアさんは、私からの恨みを込めたジトーとした視線に耐えかねたのか話しを報酬に逸らした。


「はい。アカリ様。こちら、防衛戦の報酬となります」

「えっと、これ全部?」


 そこには、ウィルスから貰った分程ではないもののとんでもない額ありそうな報酬の山があった。

 少なくとも、軽く見えた他の冒険者の報酬の数倍はありそうに思われる。


「そうよ。街を救ったんですもの。これ位当然よ」

「えっと、ありがとうございます?」


 私は、とりあえず仕舞おうと思い報酬を一緒に置かれていた袋に移そうと思ったその時…………


「おい!待ちやがれ!!」

「もうヤダ」


 後ろから、男性冒険者が怒号をあげながらこちらに向かって歩いてきた。


「何ですか?」


 私は、もう疲れたと内心泣きながら振り返り男に聞いた。


「どう言う事だ!何で、お前みたいな弱そうな女がこんなに報酬貰ってんだよ!おかしいだろ!!」

「あぁ~~」


 男のキレてる理由に納得がいき私は、後ろのクレアさんに視線でどうにかしてくれと訴える。

 それに気付いたのか、クレアさんは1つ頷いて男に説明してくれた。


「彼女が、この額の報酬を受け取るのは当然です。何せ、彼女が此度の防衛戦で最も活躍したんですから」

「ハァ?そんな嘘を信じれる訳ないだろ。俺や他の奴らは、前線で命を張って戦ったんだぞ!!それ以上の活躍をこの女がしたってのか!!」


 男は、クレアさんの話しを信じられないのか怒声がさらに酷くなり周りにいた他の冒険者、ギルド職員も気になるのか私達に視線が集まってきた。


「貴方も防衛戦に参加したのなら聞いたのでは?1人で城門を守りきり、魔王と共に現れた吸血鬼を撃退した謎のフードの少女の話しを」

「あぁ、聞いたな。まさか、この女がその正体何て言うんじゃないだろうな!!」

「そうですよ。ここに居る少女こそ、そのフードの少女本人です」


 クレアさんが、そう言った瞬間目の前の男、周りの幾人かの冒険者、ギルド職員が驚愕の声をあげて私の事をジロジロと見てきた。

 驚いてないのは、私を実際に見た者達だろう。


「嘘だ!嘘つくんじゃねえ!こんな、弱そうな女がそんな事出来る訳ねえだろ!!」

「ギルドマスターの私が、そんなしょうもない嘘を言うわけないでしょ」


 その後も、2人の言い合いは続き聞いてていい加減イライラしてきた私は2人の話しに割って入った。


「あの」

「あ"ぁ"」

「アカリさん?」

「もう、疲れてきたのでこの男ぶっ飛ばして無理矢理認めさせるでも良いですか?まだ、後ろも並んでて迷惑ですし」


 私は、疲れやら苛つきやらでさっさと終わらせたい為に強引な手段を取る事にした。


「てめえ、舐めやがって。俺に勝てるつもりか」

「うるさい。少しは、周りの迷惑を考えろよ。あんたが、ごちゃごちゃ騒ぐから後ろの人達が困ってんだよ。それで、やるの?やらないの?」

「ふざけやがって。やってやるよ。俺を舐めた事後悔させてやる」

「クレアさん。訓練所の案内お願い出来ますか?」


 訓練所の場所がわからないのでクレアさんにお願いするとクレアさんは、ため息をつきながら案内をしてくれた。

 そして、訓練所についた私と男は直ぐに模擬戦を始める事にした。


「審判は、私がします。注意ですが、くれぐれも相手を殺す様な攻撃はしないで下さいね」

「はい」

「おう」


 周りには、何故か私と男の戦闘を見るべく他の冒険者やギルド職員の姿が多く見える。

 そんな観客を流し見しながら、審判を務めてくれたクレアさんの言葉に頷き開始の合図を待つ。


「それでは、開始!」

「オラ!!」


 開始と同時に男は、こちらに接近し剣を振り下ろしてきた。

 それも、まるで避けて下さいとでもいうかの様な大降りの振り下ろし。

 大方、話しを信じずに私を弱いと思っての攻撃だろう。


「な!?」


 なので、軽く横にずれて避け間合いを詰める。

 そして……


「フッ!」

「ガァ"!?」


 男が離れる前に少し強めに数発打撃をがら空きの脇腹に撃ち込んだ。

 そして、男はその打撃の痛みに苦悶の表情を浮かべながら蹲り動けなくなった。


「はい終わり。クレアさん」

「あ、模擬戦終了!アカリさんの勝ち!」


 僅か数秒での戦闘の決着に驚愕した誰もが声を出せないのだった。


 ※※※※※


 模擬戦を終えた私は、その後何故かクレアさんの執務室に連れてこられていた。


「あの、何で私ここに?」

「いや、あのままだったらアカリさん囲まれてたかもしれないし」

「あぁ」


 身に覚えがありすぎる為、クレアさんの言葉に直ぐに納得してしまった。


「話しが変わるのだけど、アカリさん。貴方これからどうするの?」

「どうするとは?」


 言葉の意味が理解しきれず聞き返してしまった。


「しばらくカラクで活動するのか、他の街に移動するのかよ。カラクは、今こんなだし拠点の無い冒険者は活動しにくいと思うわ。アカリさんは、拠点が無いのでしょ?だから、アカリさんはどうするかなって」

「あぁ、私はオーレストに帰ろうかと思ってます。元々カラクには、護衛依頼を受けてやって来ただけでしたので」


 本当にただ護衛依頼受けただけだったのにこんな事に巻き込まれる何て思いもしなかった。


「そうだったの。とんだ災難だったわね。私達としては、おかげで助かった感じだけど」

「まぁ、確かに災難でしたけど、私も皆さんを助けられて良かったです」

「私個人として、オーレストに帰っても活躍を期待してるわ」

「はい、クレアさんの期待を裏切らない様に頑張りますね」


 その後、しばらくクレアさんと雑談した私は、執務室を後にした。

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