第38話 クラスメイト side(2)
ステータスの確認をした天之達クラスメイト一行は、翌日から騎士団長のクロード、副騎士団長のバゼットの指導の元、特訓を開始する事になった。
そして、本格的に特訓を始めて一週間、現在本日の特訓を終えた天之達クラスメイト一行は…………
「だ、駄目だ。う、動け、ない」
「指先1つ、動かねぇ」
「誰か、足が、た、立てない」
「全身が、全身が痛いよぉ~~」
「ハ、ハハハ……皆、大丈夫?」
特訓の過酷さにより一人残らず……いや、訂正。
若干一名の例外を除いて死んでいた。
「佐藤様は、キツくないのですか?」
あまりにも、平気な様子の亮介にクロードは、少し引きつった顔で聞いた。
「別に、キツくないですよ?」
今回行ったトレーニングは、毎年新しく入団する新兵に施すトレーニングと同様のもの。
なんなら、初日に思った以上に動ける事から少し負荷を強めたモノを行っていた。
しかし、亮介は息1つ乱す事なく平然としておりクロードは、内心酷く驚いていた。
「そ、そうですか。本日は、これで終わりましょう」
「了解です。皆、終わりみたいだから戻るよ」
「「「「「わかった。けど動けない」」」」」
「今日も、運搬ですね」
「もう、慣れましたね」
「何時も通り私が、女子の方々を運びますね」
「お願いしますね」
その後、クロード、バゼット、亮介によって天之達クラスメイト一行は泊まっている建物まで運ばれるのだった。
尚、ここ数日の間毎日運ばれている為、道中すれ違う人々に初めは驚かれたものの今では、見慣れたのか驚かれる事はなくなっていた。
※※※※※
その日の夜、天之達は寮〈建物の名前が特になかったのでそう呼んでいる〉のホールに集まってグッタリしていた。
「あぁ、疲れた。なあ、明日は何をするんだっけ」
「確か、明日は魔法やら魔物とかについての勉強だってバゼットさんが言ってたよ」
男子の1人が呟いた言葉に近くの椅子で溶けていた女子が疲労で働かない頭で答えた。
「マジか。ようやく特訓せずにすむ」
「マジでそれ。まさか、人生の中で勉強に喜ぶ日が来るとか思わなかった」
「まぁ、地球での勉強とは違うから多少楽しみではあるな」
どうやら、明日は特訓は一度止めてこの世界について勉強するみたいだ。
男子の1人が言った様に普段なら勉強をするのは嫌ではある。
しかし、ここ1週間の訓練の日々の辛さを思い出しているのかホールにいる亮介を除いた全員の顔はようやく苦行から解放されると安堵の表情をしていた。
「それにしてもさ」
「ん?どうした?」
各々が、明日の勉強に対して思い思い考えていると1人の男子が話し出した。
「戦闘向きのスキルを持っているならともかく、非戦闘スキルだった僕らまで特訓する必要あるのかな?」
「そうだねぇ。私の様に生産系のスキルの人間は必要ない様に思うのだが、そこら辺はどう思う勇者君?」
彼の言葉に同じく戦闘に向かないスキルを持つ女子も同感なのかそう言って俺に答えを求めてきた。
その言葉が聞こえた他の非戦闘スキルの者達も俺がなんと答えるのか気になったのか此方を見てくる。
非戦闘スキルだったのは何も2人だけではない。
ステータス鑑定をした際の戦闘スキルと非戦闘スキル者の数は半々位に別れていた。
「おいこら、勇者言うな!まぁ、確かにそう思うのもしょうがないな。俺も、お前らの立場なら確実にそう思うし。だけど、非戦闘と言ってもずっと建物内に居続けるとは限らないだろ?だから、最低限何かあった時、逃げる為の体力やら筋力は身に付けた方が良いと思う。何かあった時に死なない為に。生きて帰る為にも」
俺は、2人に、いや、非戦闘スキルであった者全員にその様に話した。
何かあってからでは遅い。
そんな事がない為にも天之は、頑張ってくれという思いを込めて話した。
「死なない為、生きて帰る為か。なら、頑張るしかないかな。私もまだ、死にたい訳じゃないからねぇ。勇者君の言う通り頑張るよ」
「確かに、襲われるなんてあったら体力も筋力も無い僕なんか直ぐに捕まるのがオチだよね。勇者の天之君の言う通りだよ」
2人は、俺の言葉を聞いて納得した様で今後も特訓を頑張る事にしたみたいだ。
2人以外の非戦闘スキルのクラスメイト達も同様に納得した表情をしているので多分大丈夫だろう。
だが、1つだけ言う事が。
「おい!だから、勇者言うな!」
マジで勇者言うな。
戦う事は決めたが、勇者と言われるのは今だにむず痒く感じるから嫌なんだよ。
それから、しばらくして雑談はここにいない神白さんの事が中心になった。
「王様には、魔王討伐を受ける話をした時に話して探すのを手伝ってくれるとは言ったけど見付かるかな?」
「どうなんだろう」
神白さんの事は、国王に直ぐに話した。
その際、国王は俺達に魔王討伐を任せた責任もあってか直ぐに捜索を開始してくれた。
「転移したのが国内なら良いけど、国外だと厳しいかもね」
「神白さんが無事なら、俺達が勇者として活動してる事を知れば再会する為にあいに来るとは思うが」
どの道何も情報が無い現状では、国王に任せるしかない。
今俺達に出来る事は、力を付けて少しでも早く活動出来る様になる事だ。
そうすれば、勇者として様々な場所に行ける様になって俺達でも神白さんを探せる様になる。
「今は、とにかくやれる事をやるのが一番の近道だろうな」
「お、良い事言うね。流石勇者様」
「うるさいぞ超人」
「喧嘩すんなよお前ら」
その後は、夜も遅い事から解散し俺達は部屋に戻ると泥のように眠るのだった。
※※※※※
同日の夜。
国王であるガゼウスは、執務室である者と話していた。
「ボルマーよ。それは、間違いないのか」
「はい。間違いありません」
目の前に立つ男、宮廷魔法使い団長であるボルマーは、ガゼウスに告げた。
「どうしてもなのか」
「はい。今のままでは、勇者様達を元の世界に帰す事は不可能です」
勇者達を元の世界に帰す事が出来ないと。
「国王様は、勇者様方を召喚した日に話しました事は憶えておられますか」
「あぁ、元々、召喚される筈だった場所とは違う城内の教会に召喚された事。そして、召喚用魔法陣と記録用魔道具が壊れた事だろう」
ガゼウスは、1週間前にボルマーに話された事を思い出して話した。
「そうです。しかし、破損したものは修復すれば良いので別に問題ありません。問題があったのは修復した魔道具です」
「勇者達を帰せないのに何が関係あるんだ」
ガゼウスは、何故魔道具が帰せない事と関係あるのかと疑問に思い問いただす。
「魔道具には、勇者様達が召喚される際の情報を記録していたんです。より詳しく言うなら、勇者様達の居た世界の座標を記録するために。しかし、確認してみたら壊れた影響で記録が何1つ残っていませんでした。この座標は、用意していた帰還用魔法陣に必ず必要なモノだったんです。これが無ければ、帰還用魔法陣は使えません。勇者様達は帰せないんです」
「な、何故、どうして、こんな事に」
「話しづらい事なのですが」
ボルマーは、どうしてこんな事になったのかその原因を話し出した。
ボルマーが、原因を探った所魔法陣の勇者を探しだし座標特定する効果の陣が特に破損が酷かった事に気付きこれが全ての原因だと気付いた。
「召喚前に国王様の要望で勇者だけでなく強力な戦士も多く召喚したいと言われ魔法陣を改造した事により魔法陣にかかる負荷が当初の予想を越えていた事が原因で破損。そして、暴走した魔力が魔道具にも影響して壊れた。これが、今回の原因の真相です。勇者様達が本来とは別の場所に召喚されたのも勇者様方が話された学友の方が居なかったのもこれが原因で起こった事かと思われます」
「そんな、全ては、私が欲張った事が原因だったと言うのか」
ガゼウスは、全て自分が欲張った事が原因だったと知り酷く後悔する。
出来る事なら、その時の自分を殴ってでもやり直したい。
「いえ、国王様、私共も、もっと慎重に行っていれば事前にわかっていた筈なんです。自身をそんなに責めないで下さい」
「ボルマー、すまない。」
「勇者様達には、どう伝えましょう」
「そうだな、明日勇者達へと伝えよう。すまないがボルマーよ。手伝ってくれるか」
「了解しました」
それからボルマーは、執務室を後にしガゼウスは1人部屋で頭を抱えた。
頭に浮かぶのは、自身の娘と変わらぬ歳の勇者達の姿。
そんな彼らを、只でさえ自分達の都合で違う世界へと召喚したあげく今度は、自身の愚かな行いのせいで帰せないときた。
しかも、彼らの学友が1人そのせいで居ないという。
「私は、愚かだ」
ガゼウスが、私利私欲の為なら簡単に人を騙し切り捨てられる様な性格なら迷う事等なかっただろう。
しかし、この通りガゼウスは天之達に対する罪悪感に苛まれていた。
「彼らに、何と伝えれば良いというのだ」
ガゼウスの言葉に答えてくれる者はおらずただ、無情に時は進んでいくのだった。
※※※※※
次の日、天之達は地球に帰れない事を伝えられた。
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