第13話 吸血鬼さん危機一髪

 森へとやって来たアカリは、自分が受けた依頼の内容を見返していた。

 手に持っている依頼書の写しには依頼名がウルフ討伐と書かれており、アカリはそのまま写しを読み進めていく。


「達成条件は、最低5体を討伐する事ね。討伐数に応じて依頼達成のお金が増える感じみたいだし、とりあえず10体位は討伐しようかな?」


 アカリが、受けた依頼はウルフ討伐。

 何でも、最近森の中で数体で行動するウルフが何度も目撃されており群を作られて被害がでる前に討伐して数を減らす事が目的らしい。


 数を減らすね。

 地球で言うところの間引きみたいな感じなのかな?

 まぁ、ウルフが増えすぎたら森の生態系が崩れるだろうしこういう依頼も大事なんだろうね。


 実際、この森には魔物ではない普通の生き物も存在している。

 全てがとは言わないが、私が森で実際に見た感じ普通の生き物は魔物よりも弱く見えた。

 そして、そんな生き物達は増えたウルフにとっては格好の餌でありあっという間に森からその姿を消す事になる。

 そうならない為にも、このように依頼としてギルドが出して上手く魔物や普通の生き物のバランスを調整しているのだろう。


「群が出来る前にって事はそれなりに数が居るんだろうし空から探そっかな?」


 アカリは、そう言うと周りを見て人が居ないのを確認すると遭難した際にした時と同じ様に風を纏い空中へと浮き上がる。


「よし、上手く浮けた。このまま上空まで一気にいこうかな」


 空を飛んだ私は、そのまま上昇して森の上空を飛び周りながらウルフを探す。


「う~~ん……やっぱり街から近いだけあってウルフどころか生き物が全然見当たらないや。もう少し奥に行った方がいいかな?…………あ!!」


 アカリが、森の奥へと行こうと方向転換していたその時、視界の先に見知った少女が居るのに気付く。


「アリサ、こんな所にいたんだ」


 そう、アリサを見つける事が出来た。


 門を通る時に、街に来た時と同じ門番さんだったのでアリサが森に行ったのか聞いて森の何処かに居るのは知っていた。


「良かった。今回は、街の近くで見つけれたみたいだね」


 どうやら、今回はちゃんと薬草を見つける事が出来たのか比較的街の近くの森で採取してたのでこの前みたく魔物に襲われる事はないと思う。


「あ、そうだ銀貨返さないと」


 私は、目的の1つであるアリサへの借金を返済するべくアリサの側へと降下していく。

 すると、風の音で気付いたのかアリサがこちらを向いて私に気付く。


「アカリさん!ギルドの用事終わったんですね」

「うん、昨日の模擬戦の話と私をDランクにする話だったよ」


 私が、ギルドでの話の内容を話すとアリサは驚いたのか大きな声を上げて驚く。


「え!!Dランクに上がったんですか!?まだ、依頼1つも受けてないのに!?でも、アカリさんの実力なら上がっても不思議じゃないのかな?」

「どうなんだろうね?私もそこら辺はわかんないや。ところでアリサ……お金が無事貰えたから昨日の銀貨を返したいんだけど良いかな?」


 私は、驚いているアリサへと収納から銀貨を取り出して渡そうとするが…………


「受け取れませんよ!?それは、私が命を助けて貰ったお礼としてやった事なんですから!!」


 やはりと言うか、受け取って貰えない。


 やっぱり駄目か~~。

 う~~~~ん…………よし!!こうしよう!!


「だったらさ、今度私の奢りで何処かにご飯食べに行かない?」


 私は、直接返すのは諦めて銀貨分をアリサに食事という形で返す事にした。


「え、それは」

「アリサは、私とご飯に行くのは嫌……かな?」

「う……わ、わかりました。で、ですけど全て奢りってのは流石に」

「私も何だかんだアリサに助けて貰ってるんだよ?だから、ご飯位は私に奢らして。……駄目かな?」

「わ、わかりました」


 アリサの優しさにつけ込む様なやり方で少し申し訳なく思うが私もアリサには感謝してるので今回ばかりはこれで良しとする。


「それじゃあ、アリサ私も依頼があるからこれで行くね?魔物に会わない様に気を付けてね」

「はい、今度はちゃんと気を付けます。アカリさんも頑張って下さいね」

「うん。それじゃあまた後で」


 そうして、アリサと別れた私は、依頼を片付けるべく森の奥に向けて再出発した。


 ※※※※※


「さてと、奥まで来たけどウルフは何処にいるかな。…………いた!!」


 森の奥までやって来たアカリは、早速3体で固まり歩いているウルフを見付けた。


「流石に飛びながらは攻撃出来ないし近くに降りよう」


 魔法の制御補助があっても今のアカリでは、飛行と攻撃の同時行使は出来ないので地面に降りる事にする。


 空から降りた事でウルフは私に気付き獲物が来たと思ったのか「ワオ~~ン!!」と鳴いて私に近づいてくる。


「残念獲物じゃないよ。……ロックスピア!!」


 先手必勝と私は、土魔法で鋭い棘状の岩を作り出し近づいてくるウルフへと放つ。


「ギャウ"ッ!!」

「ガウ"ッ!!」

「ギャウ"ン"ッ!!」

「よし!!まず3体」


 ウルフは私を獲物と思い油断していたのか私が放ったロックスピアはウルフへ当たり一発で倒す事が出来た。


「やっぱり、ウルフ位の魔物なら魔法一発で倒せるっぽいね。このまま目標の残り7体も見付けて倒してしまおっと。…………?」


 討伐したウルフを収納へと仕舞ったアカリは、次のウルフを探そうと思った時に何か複数のこちらに走ってくる足音が聞こえるのに気付く。


「何この足音……!?…もしかして」


 アカリは、近づいてくる足音に嫌な予感が沸き上がり背中を嫌な汗が伝う。

 そして、その足音の正体を視界に捉えてアカリは思わず乾いた笑いが口から漏れてしまった。


「ハハハ……マジか。これは運が悪いね」


 そこには、多くのウルフがアカリの直ぐ近くまで集まって来ていた。

 恐らく、先のウルフの鳴き声に集まって来たのだと思われる。

 索敵を使い数を確認すると15体もいるとわかりウルフの群が既に作られていたとわかった。


「そう言えば、この依頼ウルフ討伐の割に報酬が良さそうなのに誰も受けようとしなかったのか出されてから日数が経ってたっけ」


 その結果が、今の群と言う訳だ。


「ハハハ……ウルフなら魔法で一発で仕留めれるとはいえ、この数を1人で倒すのは無理があるって」


 ウルフ程度の強さの魔物なら魔法で倒せると先の戦闘で確認出来ている。

 しかし、それでも15体の相手を1人で相手するのはアカリでも無理があると言える。


「とは言え、流石にこれは討伐しとかないとその内さらに増えたりして被害が出そうだよなぁ。それに、これだけの数を倒せば経験値的にも美味しいだろうし。……よし!!ちょっと頑張りますか!!」


 そう言ってアカリは、15体のウルフを1人で倒すと決めたのだった。


 ※※※※※


 私は、早速攻撃開始とウルフ達に向けて魔法を放つ。


「油断大敵!!エアスラッシュ!!」


 スキルLvが上がった事で前よりも強くなった風魔法。

 そのお陰でMP消費はエアカッターよりも多いが範囲も威力も上がった魔法を使える様になっていた。


「ギャウ"ッ!!」

「ガウ"ゥ"ッ!!」

「ギャン"ッ!!」

「ワ"ウ"ゥ"!!」


 よし!!まず4体撃破!!

 ……ってヤバい!!


「ガアァァ!!」

「グオァァ!!」

「くっそ!!」


 倒したと同時に2体のウルフが襲いかかってきており、咄嗟に横へと飛び込む様に避ける。


「!?血剣ブラッドソード!!ハァッ!!」


 避けたと同時に血液支配で剣を生み出し再び襲いかかって来ていた2体を迎撃する。

 血液支配はスキルLv1の為切れ味がそこまでない様で斬り裂くつもりが斬れず逆に鈍器の様なベキョ!!っという鈍い音を響かせて殴り倒してしまった。

 しかし、結果的には助かったのでこれで良しとして残りの9体を見据える。


 簡単には倒せないと理解したのかな?

 囲む様にして様子を伺ってるね。

 だけど、これなら何とかいけるかも?


 しかし、アカリの内心を嘲笑うかのように次の瞬間ウルフ達は同時にアカリへと襲いかかって来た。


「!?ちょっ!!それはダメだって!!」


 アカリは、咄嗟に魔法で迎撃しようとするが何発か外してしまい結果2体しか倒す事が出来なかった。

 しかし、そのお陰で避けるルートが出来て転がる様に避ける事で何とか避ける。


 あ……あっぶね~~!!!

 マジでヤバかった!!

 今のは本気で死ぬかと思ったよ。

 まぁ、再生スキルとこの身体の生命力で本当に死ぬ事はないと思うけど。

 とは言え、それでも死ぬ程痛い事は変わらないだろうから避けれて良かったよ。


「グルルゥゥゥ」

「ガアァゥゥ」

「ガルル~~!!」

「ハハハ……滅茶キレてる」


 ウルフはウルフで自分達の餌である私がなかなか仕留められず苛ついてるのか唸り声を上げて私を睨み付けていた。


 キレたいのはこっちだよ全く。

 ハァ~~こんな目にあうならアリサと一緒に薬草採取してれば良かったなぁ。


「ハァ~~今さら後悔しても遅いか。まぁ、幸い残り7体なんだし気合いで乗り切るか」


 人間気合いがあれば何でも出来るってどこぞのプロレスラーもそう言ってたはずだし。

 あれ?元気があればだっけ?

 う~~ん……どっちだろ?

 まぁ、別にいっか。

 どっちも似たようなもんだしね。


「グルアァァ!!」

「ガルアァ!!」

「グルルラァァ!!」


 そんな事を考えてた間に私を囲んでいる内の3体が襲いかかって来たのに気付き私は、あえてジャンプする事でウルフの真上に飛び上がり避ける。


 そうしたら、どうなるか。


「「「ギャウン!?」」」


 正面衝突して顔の痛みにその場に崩れる事になる。

 群の連携として普通ならあり得ないが私を仕留めれない事に苛ついてる今のウルフ達に連携を考える程の理性は残ってなかったようだ。


 そして、アカリの前でそんな隙を見せたらどうなるか。


「はい、隙あり。エアカッター」


 当然殺られるに決まっている。


「ガウゥゥゥ」

「キャウン」

「グルル」

「グルウゥ」


 ウルフ達も残りが4体になりようやく目の前のアカリが獲物などではなく自分達を狩る者だと理解する。


 しかし、それに気付くのは遅すぎた。


「ハァ~~何とかここまで凌げたよ。本っ当にこの吸血鬼の身体とスキルをくれた女神様には感謝しなきゃね。よし!!ラスト4体!!」


「グアァァ!!」

「ガルゥアァァ!!」

「グルルアァァ!!」

「ガアァァァ!!」


「これで最後!!エアカッター!!ロックスピア!!」


「グル"ァ"ァ」

「ガル"ァ"ァ」

「グル"ゥ"ゥ"」

「ガア"ァ"ァ」


「お……終わった~~~~!!」


 ウルフ達の最後の抵抗もアカリの魔法に敗れこうして、予想外に始まったウルフ15体対アカリ1人の戦闘はアカリの勝利で幕を閉じるのだった。

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