第11話 吸血鬼さん孤児院へ行く

「お姉ちゃん見て!お花のかんむり!」

「お、上手に出来たね。偉い偉い」

「えへへ♪」

「アカリお姉ちゃん!高い高いして~!」

「うん。良いよ。それ!高い高い~~!!」

「わ~~い!!」

「あ~~!!ズルい~!アカリお姉ちゃん私も私も!!」

「アカリ姉ちゃん俺達とも遊ぼうぜ~~!!」

「そうだよ、騎士ごっこしようよ」

「ちょ、皆順番、順番にね?」


 私ことアカリは、街のとある場所で子供達に囲まれて遊んでいた。


「あはは……大人気ですねアカリさん」

「うん……まぁ、何故かやけに懐かれてるけど嫌われるよりは良いのかな?」


 私が、こんな事をしている訳は一時間位前まで遡る。


 ※※※※※


「あ……そう言えばアカリさん」

「うん?どうしたのアリサ」


 私の隣を歩いていたアリサが話しかけてきたので、どうしたのかと思い返事をする。


「アカリさんって今日は何処で寝泊まりするんですか?ギルドの買い取りに魔物を預けましたけどまだ、お金を貰った訳じゃないので宿とかに泊まれないですよね?」

「………………あ」


 私は、アリサの言葉に対してロクな言葉1つ返せなかった。


 ギルドでの騒ぎのせいですっかり忘れてしまっていたが、私の現在の所持金は0どころか街に入る為にアリサに銀貨1枚の借金をしている。


 本当はギルドの買い取り所で私の倒した魔物を買い取って貰えたら良かったのだが、混んでいたのと私の渡した魔物が解体していない状態のモノだった為に買い取り額から解体料差し引きで解体も頼んだ為にお金が手に入るのが明日になったのだ。


 その為、宿に泊まれる筈もなく私はこのままだと2日連続で街の中なのに野宿するはめに。


 私は、ギルドに急いで戻って依頼で宿代を稼ぐ事が浮かんだが、今の私は最低のFランクなので街の清掃みたいなボランティアしか受けれず宿代を稼げずに日が沈むのがオチだと直ぐに諦める。


 要するに、お金がない。

 つまり、詰んだと言うことだ。


「どうしよう……このままだとまた、野宿する事になりそう」


 私は、どうしようもない現状にドヨ~ンと沈んでいると隣を歩いているアリサが救いの手をさしのべてきた。


「あの、アカリさんが良ければですが私が今住んでる所に泊まられます?」

「え?……い…良いの?」

「あ、ですけど!!大丈夫だと思いますけど泊まって良いか確認しないといけないですし、ボロい建物であまり寝心地良くないですけど」

「ありがとう~~!!お陰で野宿せずに済みそうだよ~~!!」

「ふぇ!?あ、アカリさん!?」


 アカリは、喜びのあまりアリサに抱きついていた。


 アリサは、ボロい建物などと言ったがそんなの野宿に比べたら些細な事でしかない。


 私は、救いの女神はここにいた!!とアワアワしているアリサをそのまましばしの間抱きしめ続けた。

 その際、『ちょ!?女神は私ですよ!!』とどこかから聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう。


 その後、顔を真っ赤にしたアリサが半泣きで「は…はにゃして~~」と言ってきたので流石に抱きしめるのをやめた。


「もう……酷いですアカリさん」

「ご、ごめんね?嬉しくてつい……もうしないから許して」

「別にそんな怒ってないですよ。それじゃあアカリさん行きましょう」

「あ、うん。それじゃあ案内よろしくね」

「はい」


 そうして、私はアリサと共にアリサの住んでいるという建物に向かうのだった。


 ※※※※※


 その建物は、街の外れに建っていた。


 建物は他同様に石材と木材を使って造られていたが経年劣化で所々歪んだりひび割れ等起こしてしてアリサの言う通りボロかった。


「アリサ……もしかしてこの建物って」

「はい、孤児院です」

「………………」


 街の外れまで行くので何かあると思っていたが、まさか孤児院に来ると思わず私は驚きで黙ってしまった。


「やっぱり嫌…ですよね。こんなボロボロな孤児院に泊まるなんて」


 すると、隣のアリサからそんな哀しみを含んだ声が聞こえ慌てて否定する。


「あ、イヤ違うよ!?単純に着いた場所が孤児院だったから驚いただけだから!?別に私孤児院で寝泊まりするのが嫌だとか無いからね」

「ほ…本当ですか?」

「うん。本当本当」

「よ……良かった~」


 本当に嫌がってないとわかった様でアリサが哀しい顔から笑顔に戻った事に私は安堵した。


 その時、ガチャっという扉が開く音が孤児院の方から聞こえそちらを向くと1人のおばあさんが立っていた。


「あ!院長先生!」

「あ……アリサ!?」

「ただいま院長せわぷっ!?」


 おばあさん……院長先生は、アリサを見つけた瞬間泣きながら走ってきてアリサを抱きしめた。


「良かった……本当に無事で良かった」

「ごめんなさい…………ただいま院長先生」

「……はい。お帰りなさいアリサ」


 ~~~~~~


「ところでアリサ、こちらの方は誰なのですか?」

「えっと……こちらは……」


 しばらくして、落ち着いた院長先生が隣で見守っていた私が誰なのか気になった様でアリサに聞いた。

 それに対して、アリサがどの様に答えるべきか困っているのか私をチラッと見てきたので助け舟を出すことにする。


「院長先生こんにちは。私はアカリと言います。あのですね…………」


 私は、アリサと森で出会った事をオークの事を隠しながら話して説明した。

 門番さん同様にわざわざ不安にさせる事を話す必要ないしね。

 というか、もしかしなくても門番さんが言ってた先生ってこの人の事かな。


「そんな事が……アカリさん、アリサの事を守って頂きありがとうございます」

「院長先生……それで実は、アカリさんお金が今なくて宿に泊まれないんです。だから、今日孤児院に泊まらせてあげたくて」

「もちろん構いませんよ。アカリさんこんなボロい孤児院ですがおくつろぎ下さい」

「そんな、こちらこそいきなりスミマセン」


 院長先生は、私を快く受け入れてくれたお陰で私は、無事今夜の寝床を確保する事に成功した。

 その後、院長先生が孤児院の案内をしてくれた。

 その際に、院長先生の名前を教えてもらった。

 院長先生の名前は、シャロンだそうで私はシャロンさんと呼ばせてもらっている。

 そして、この孤児院にはもう1人若い女性の先生が居るそうで名前をマリンさんと言うらしくこれから挨拶するためにマリンさんの元に向かってる所だ。


「この部屋でマリンさんと子供達が遊んでます。ちょっとまって下さいね。マリンさ~~ん!ちょっと宜しいですか!」


 中を伺うと確かに中に20代位の女性と子供達が仲良く遊んでおり、院長先生の声が聞こえた様で子供達と共にこちらまで歩いてきた。


「院長先生どうかしたんで……!?アリサちゃん!!良かった無事だったのね。所でそちらの女の子は」

「マリンさんこちらは、アカリさんと言います。実は…………」


 その後、院長先生が私とアリサの森での事をマリンさんに説明されお互い軽く自己紹介をした。


「そうだったのね。アカリさんアリサちゃんを助けてくれてありがとうございます。アリサちゃんこれから気を付けるのよ。それで、アリサちゃん帰ってきて早々で悪いんだけどこの子達の事を見て貰って良いかな?そろそろ夕食を作らないといけなくて」

「あ、良いですよ。任せて下さい」

「それじゃあ私も手伝うよアリサ」

「アカリさんまでスミマセン。それじゃあアリサちゃんお願いね」

「それでは、私も事務仕事の続きに戻ります。何かあれば事務室に来てください」


 そう言ってマリンさんとシャロンさんは、それぞれの仕事に戻っていった。


 そして、残された私達はと言うと…………


「アリサお姉ちゃんお帰り~~!!」

「このお姉ちゃん誰~~!!」

「お姉ちゃん綺麗~~可愛い~~!!」

「アリサ姉ちゃんお帰り。外で遊ぼうよ!!」

「ねえ、アリサお姉ちゃんそっちの綺麗なお姉さん誰?」


 …………一瞬で囲まれていた。


 その後、子供達に私の事を説明したあとに孤児院の庭で皆で遊ぶことになった。

 その際、何故か異様に私は子供達に懐かれ冒頭の様な状態になるのだった。


 ※※※※※


 現在夜……アカリは孤児院の庭の椅子に座り一休みしていた。


「フゥ~疲れた~~」


 あれから本当に大変だった。

 あの後、マリンさんが夕食で呼ぶまで子供達と遊び続け夕食後ようやく終わったと安心したのもつかの間女の子達に囲まれそのままお風呂に強制的に連行され一緒に入る事になった。

 正直、お風呂は気持ち良かったけどかなり精神的に疲れてしまった。


 まぁ、だけど


「ふふ……みんな素直で良い子達だったなぁ~~果物出してあげた時とか皆目がキラキラして喜んでたし。また出してあげよっと……ん?」


 子供達の無邪気な笑顔を思い出していると、誰かが近づいて来るのに気付き振り返る。

 そこにはいたのはシャロンさんだった。


「あれ?シャロンさん。どうしたんですか?」

「いえ、アカリさんが庭に出るのが見えたので少しお話でもしようかと」

「そうですか」


 それから、本当に他愛もない雑談をしばらく続けていたその時………


「アカリさん、本当は森で何かあったんですよね」

「え?」


 私は、突然の事に上手く言葉が返せずシャロンさんを見たまま固まってしまう。


「私は、アリサが物心つく前から見てきました。なので、あの子が今日何となく嘘をついてるのもわかってました」

「えっと」

「無理なら構いません。ですが、良ければ何があったのか聞かせて貰えませんか?」


 私は、正直話しても良いものかと悩んだがシャロンさんからすれば家族同然のアリサに何があったのか心配になるのも当たり前かと思い話す事にした。


「わかりました。話しますね。ですけど、聞いた後にアリサを怒ったりしないで下さいね?」

「はい。わかりました」


 そして、私はアリサがオークに襲われて逃げていた事、私が偶然それを発見して助けた事を話した。


「その後は、既に話した通りにたまに出てきた魔物を私が倒して二人で街まで来たって感じです」

「そうだったんですね。アカリさん……本当にアリサを助けてくれてありがとうございました」

「いえ、お礼ならアリサからも言って貰ったので気にしないで下さい」

「そんな、命を助けて頂いておいて……」

「そ……それに、お礼を言うなら私の方で」

「へ?」

「実は、私アリサに……………借金してまして」

「………………へ?」


 私は、アリサに借金をした経緯を恥ずかしながらも何とか話した。


「そう言う訳でして、アリサは気にするなって言ったんですけど明日ちゃんと返しますので……スミマセン」

「あ、別に謝らなくて良いですよ。寧ろ命を助けて頂いた側からすれば安いものですから」

「そ、そうですか」

「はい。さて、そろそろ私は失礼しますね。おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」


 私は、シャロンさんを見送り自分もそろそろ寝ようと思い立ち上がる。


「さてと、明日はギルドにも行かなきゃだし私もそろそろ寝よっかな?」


 まぁ、吸血鬼が夜に寝るのもどうかとは思うけど。


 私は、内心そんな事を思いながら既にアリサや他の子供達が眠る孤児院へと戻るのだった。

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