第51話 起きるべきか、寝るべきか
長距離用牛車を堪能したフルール大陸一行は、与えられた宿の部屋で寝転んでいた。不思議なほど眠く、体が怠い。体調不良の理由が分からぬまま、全員が惰眠を貪った。単に旅の疲れが溜まっただけと考えたのだ。
ルイに同行した友人は、第二王子の側近候補として幼い頃から共に学んできた。ラクール伯爵家の三男ドナルドは武力に秀でている。モンシニ子爵家の次男ニコラは、読書と魔法に夢中だった。どちらも優秀で、将来有望だ。そのため、他大陸への留学が許された。
彼ら自身も己を磨く必要があり、王位に挑戦する気がない第二王子の側近で終わるには惜しい人材だ。実際のところ、ルイは兄アンリを支える臣下になりたかった。王になるより、王を支える立場が自分には合っている。何より、正妃である母の意見も同じだった。
人格者でいつも穏やかな第一王子が王となり、どこかの小さな領地を貰い「公爵」か「辺境伯」になる。それが一番だと思う。王位簒奪を目論む気はゼロで、可能なら今からでも貴族家の養子に入りたかった。兄アンリに子が出来るまで、王籍離脱は出来ないが。
王族として、不自由ない生活をさせてもらった恩は忘れていない。兄の子が出来て、予備扱いの価値がなくなるまで義務を果たす気はあった。一時期は貴族達のあまりの態度に、出奔を考えたほどだ。考えが落ち着いたのは、父が兄を不器用に愛でていると知ったから。
父上と呼んでほしくて、用もないのに呼び出した話を聞いて笑ってしまった。兄もまた不器用なところがあり、そっくりな親子だ。血筋云々を横に避けたら、僕よりよほど似ていた。
ルイはのんびりと寝返りを打ち、また欠伸をする。どれだけ寝ても眠い。こんな経験は久しぶりで、徹夜を初めてした日を思い出した。
街中に現れた魔物の話に、退治してやろうと意気込んで出かける。さほど強い魔物ではなかったが、てこずって朝まで掛かった。小さくすばしっこいだけでなく、鳴き声が人の悲鳴に似ていたのだ。あの時は倒しても気が滅入った。まるで人を殺したような後味の悪さを経験する。
次々と何匹も魔物と対峙し、戦ってきた。民の平穏を守ることは、王族の務めだ。表立って誰かに褒められることがなくとも、安心した人々の声にルイは喜びを覚えた。
ごろりとまた反対を向く。二度寝したい気分だが、そろそろ腹も減ってきた。起きるべきか、寝るべきか。贅沢な悩みで唸ったところへ、誰かの腹の音が重なる。ぷっと吹き出し、仕方ないと身を起こした。
どうやらドナルドの腹の音だったらしい。彼も渋々といった様子で身を起こしていた。起きる様子のないニコラに近づき、彼を大きく揺らす。呻いて抵抗した後、のそのそと目元を擦りながら目を開いた。
「食事にするぞ」
「そうだな」
「もうこんな時間ですか」
ルイの号令に、二人がそれぞれに答える。この宿は食事を部屋に運んでくれるサービスはないため、階下の食堂へ出向く必要があった。いそいそと着替え、木造の階段を降りると……驚くほど多くの人で賑わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます