第40話 君が望むなら協力するよ

 起きたらいきなり「ごめんなさい、それとお願いがあるの」と言われた。僕の気持ちを少し考えてほしいな。白いふさふさの尻尾を揺らし、神狐は契約者の巫女を見つめた。


 まっすぐで誰かを貶めることなんて考えない、どこまでもお人好し。それでいて悪戯は大好きときた。目を離すと失われそうで、危なっかしくて。なんだか眩しい。仕方ないよね、この子と契約すると決めたのは僕自身なんだから。


『何があったの』


「狗神様を助けたいのよ。白蛇神様も協力してくれるって……」


『もう確定事項になってるじゃないか』


 起きて早々、また丸まって休みたくなる。この子の暴走癖は昔からで、失敗して面倒な役を申し付けられたくせに。まだ懲りていないなんて驚きだった。反省したのはどこへ消えたんだろうね。ココは尻尾を叩きつけて、祭壇で唸る。


「ほんっとうにゴメンなさい。夢で狗神様に会ったの」


 驚いて目を見開くココへ、これまでのいきさつを説明した。禍狗を追い払うため力を振り絞ったココを連れて、全力で大陸間を飛んだ。その先で知った事実は、禍狗は堕ちた存在ではないこと。瘴気で穢れたけれど、助かること。だったら助けたい。


 眩しいほどの純粋さで「助けたい」と口にされ、ココはがくりと祭壇に懐いた。僕が回復する間に、どれだけ動き回ったのか。大人しく回復に努めていればいいのに、どうして白蛇神と交渉なんてしているんだい。


 行動力逞しい主人に、契約獣であるココは呆れるばかり。好き勝手されても嫌いになれないんだよね。だから仕方ないよ。うん、アイリーンが望むなら他の神も手を貸してくれるはず。僕の責任じゃないからね。


 祭壇の奥から繋がる神々へしっかり言い聞かせ、ぽんと飛び降りた。当たり前のように伸びた腕に着地し、頬をすり寄せる。


『リンが本心から望むなら、僕は協力するよ』


「ありがとう! さすがは私のココだわ」


 私だけの神様と微笑んだ、幼い頃の姿が過った。全く変わらない。成長して年頃になっても、老いて動けなくなっても、きっとアイリーンの本質は同じだろう。頬をすり寄せる温もりに目を閉じて、ココは思いを馳せる。


 あの狗神も昔は僕と同じだった。神格に相応しい巫女と契約し、途中で奪われて怒りで我を失う。あの危険性は、どの神も持っている。狗神の現在は、僕の未来かもしれないから。力を貸して助けるのはアイリーンのためであり、僕の為だ。


『さて、どうやって狗神をこっちへ連れてくる?』


「え? 私が向こうへ行って倒すところからじゃない?」


 お互いに噛み合わない会話に、きょとんとして見つめ合う。いつの間に現れたのか、白蛇神がするりとアイリーンの腕に絡みついた。


『お主ら、ほんに契約しておるのか? まったく通じておらぬではないか』


『白蛇は黙ってて! リンの力はフルール大陸では削がれちゃう。こっちへ連れてこないと勝てないよ』


「でも狗神は東開大陸から逃げたんだもの。連れてくる方法がないわ」


 突然、白蛇が笑いだした。牙を見せて大笑いしたあと、顔をしかめる二人に向き直る。


『よかろうよ、あの狗神を呼び寄せる方法を教えてやろう』


 そんな方法を知ってるなら、もっと早く言ってよ。じとっと睨む二人は、今度こそ同じ思いだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る