第47話 状況は憶測でしかなく

「つまり、大槻が佐恵に告白してフラれてどっか行ったと」


「そして佐恵は泣いて、何かあったと察した樫田が走ったと」


 俺の説明を椎名と増倉は簡潔にまとめた。

 いや、まぁ、状況証拠としてはそうかもだけど、もっと人情的な部分とか。


「正直、なぜこのタイミングでってのはあるわね」


「というか、成功する算段はあったのかな」


「ないでしょうね。そんなものがあるならこのタイミングは選ばないわ」


「そうだね。遅かれ早かれってところはあったけど今かねー」


「ええ、そうね。タイミングが最悪なところも大槻らしいわね」


 あれ? これっていわゆる女子の悪口ってやつか? なんか怖いんだけど。

 てか、大槻の片想いってみんな知ってたん?


「杉野も大変だったね。その状況なら仕方ないって感じだけど」


「そうね。結果的に歓迎会も無事だったし、良かったのではないかしら」


「ああ、ありがとう」


「? なんか元気ないね」


「まぁ、こんなことの後で疲れているわよね」


 二人から見ると俺は元気がないようだ。

 確かに今日の疲れもあるだろう。けどそれだけではない。


「なんつーか、二人が思ったより普通にしているから、驚いて」


「…………」


「…………」


 ん? なんか変なこと言ったか?

 二人が黙ったんだが。


「お待たせ―、樫田と連絡取れた…………どうしたの?」


 山路が電話を終え近づくと、何この空気? みたいな顔で聞いてきた。

 俺が聞きたい。


「何でもないよー。労って損したかな」


「そうね。こういうところは変わらないのよね」


「杉野―」


 なぜか、二人は呆れた様子だった。

 山路はそれを聞いて俺のせいだと思ったのだろう。

 分かっていない俺を見るに見かねてか、椎名が言い放った。


「杉野。私たちも驚いているし混乱しているわ。でもそれで騒いでも何も変わらないわ。それに轟先輩が言っていたでしょ、ゴールデンウィーク後にみんなで部活に来るようにって」


「あ」


「先輩たちはきっと分かっていて、私たちに一任したのよ」


 俺は自分の考えの至らなさを恥じた。

 そうだよな。驚いて立ち止まっている暇はないよな。

 みんな必死に現状の改善を考えている。


「そうだな。すまん」


「いいのよ。杉野が後悔する理由も分かるわ」


「そうそう、後輩からの相談だったら断れないよね」


 二人とも笑顔でそう言った。

 少し疲れが取れたような感じを覚えた。


「でも、問題はこれからの動きよね」


「佐恵が心配ね」


「それだねー。たぶん、そろそろ…………あ、来たみたいだねー」


 山路が見ていた公園の入り口の方に目をやる。

 そこには樫田がいた。

 近づいてくる彼は少し疲れているようにも見えた。


「……お疲れ様、かな? 悪いな肝心な時に勝手な行動して」


「お疲れ様。いや、あれがなかったら俺はもっと酷い行動してたよ」


「そうだねー。異変があったことすぐに分かったよ」


 樫田はまず謝ったが、俺と山路は感謝を言った。

 俺はあのとき冷静さを取り戻せたし、みんなも樫田のおかげで異変に気付いたのだ。謝ることはない。


「佐恵は帰したのかしら?」


「大丈夫だった?」


 椎名と増倉は、夏村について樫田に聞いた。

 友として心配なのだろう。


「ああ、一人で帰れるってことだったから…………俺の見立てだけど良くない状態だ。大槻と何があったか全部は聞いてないけど、精神的に参った様子だった」


 場の雰囲気が重くなる。

 大槻と夏村、それぞれの心情を推し測ることしかできない。


 なぜ大槻はどこかへ行ったのか。

 なぜ夏村は泣いてしまったのか。

 少なくとも、俺は知らない。


「これからどうしよっかねー」


「そうね、大槻の方は誰か連絡したの?」


「一応、メッセージは残したんだけどな」


「返信はない、と。かなりまずい状況ね」


 みんなが今後について話し始めた。

 俺はひとまず、黙ってそれを聞いた。

 現実を少し遠くに感じながら、気分が沈んでいく。


 俺はまだ、この想いの正体を知らなかった。 

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