第46話 あまりにも呆気ない幕引き

 幕引きは呆気ないものだった。

 花火が終わり、無事に解散前の集会となった。


 誰も夏村や樫田、そして大槻について触れなかった。

 それは分かっていたなのか、誰も触れないから言い出しにくいだけなのか、定かではない。


 ひょっとしたら俺たち二年生が避けているのを感じ取っていたのかもしれない。

 人間そういうことは自然とわかるものだ。


「では、今日の歓迎会はこれで解散です! 三年生が駅まで一年生送るから二年生は花火の片づけと落とし物とかないか確認してくれるかな?」


「分かりました」


 轟先輩の指示に、椎名が代表して答える。


「では、解散!」


 歓迎会は終了した。

 各々が帰り支度や後片付けをするなら、池本が俺に近づいてきた。


「あの、先輩」


「ん? どうした池本」


「相談に答えて頂いてありがとうございました。本当に助かりました」


「いいよ、そんなかしこまらなくても。あれはあくまで俺の意見だから、自分でしっかりと考えてみて」


「はい、ありがとうございます」


 そう言って、池本は公園の入口にいる田島の方へ歩いて行った。

 緊張の糸が緩んだのか、ため息をつく。


「ため息つくと幸せ逃げるよ―、杉野ん」


「うぉ! 轟先輩脅かさないでくださいよ……」


「酷いなぁ、今のは普通に近づいたのにー」


「え、ああすみません」


 いつもの高めのテンションではなかった。

 少し落ち着いた様子の轟先輩につい謝ってしまった。


「後輩の相談に乗ってあげたんだね杉野んは」


「聞いていたんですか。そんな大層なもんじゃないですよ」


「でも、彼女はそう大層なものだったかもよ?」


「なら、いいんですけどね」


「ふふ、杉野ん。君は相談したいことはないかい?」


「…………」


 その優しい言葉に、全てを吐いてしまいたくなった。

 それを留まれたのは、俺が先輩になったからだろうか。


 すみません。これはたぶん俺たちの問題だから。

 心の中でそう言ってから質問に答える。


「大丈夫ですよ。轟先輩こそ歓迎会お疲れ様でした」


「…………そっか」


 何かを噛み締めるように、静かにそう呟いた。

 そして次の瞬間、天真爛漫ないつもの笑顔になった。


「よろしい! ならばゴールデンウィーク後にいつものようにみんなで部活に来るように!」


 謎の決めポーズをして、轟先輩は大きな声で言った。

 ちょ、夜だから! 声が大きいって!


「ではでは、おつかれー」


 それだけ言うと轟先輩は公園を後にした。

 いつの間にか先輩も一年生たちもいなくなっていた。

 残ったのは椎名と増倉、山路と俺の四人だった。


「お疲れ様だねー」


「そうね、まずはお疲れ様ね」


「それはそうだけど! 杉野! 何があったか話してよ!」


 山路と椎名は片づけをしながらそう言ったが、増倉は俺に近づいてきて説明を求めた。

 顔と顔が触れるかと思うぐらいの近さだった。


「分かった、分かった説明するから!」


「もう! 佐恵も樫田も大槻も勝手なんだから!」


 二歩三歩と後ろに下がる俺。

 怒りを我慢していたのだろう、増倉が憤慨していた。

 まぁ、気持ちは分からなくなかった。


「栞、おそらくは想像している通りだと思うわよ」


「いいのかい杉野―、二人に言ってー」


 椎名は増倉に、山路は俺に言ってきた。

 何やら話し出す椎名と増倉を横に、俺は山路と話す。


「正直、それが関わっている確証はないんだ」


「そうなの?」


「いや、まぁほぼほほそれで間違えないんだけど、その場にいたわけじゃないし、合流した時には大槻はいなかったんだよ」


「あー、そういう感じかー。とりあえず樫田に一度連絡するー?」


「確かにその方がいいか」


「じゃあ、僕が連絡するから杉野は二人に説明お願いー」


「おう」


 俺は山路と話を済ますと二人の方を向いた。

 椎名と増倉はこちらの言葉を待っていた。

 花火を買いに行ったときに何があったか、俺の分かる範囲で話した。

 ところどころで、二人は百面相のように表情を変えていた。


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