第31話 男は何人いてもバカである

 その後も俺と夏村は部活の話をして、時間を潰した。

 そして十一時半集合ギリギリで駅に向かった。

 すでに駅には見知った顔の集団があった。


「なっ……!」

 

最初に俺たちに気づいたのは大槻だった。驚いた顔がこっちを指さしていた。

 そしてそれを見た大槻の横にいた樫田が笑顔でこっちを見た。

 俺と夏村が近づくと、樫田が言う。


「おはよう、意外な組み合わせだな」


「別に、たまたま本屋であっただけ」


「そっか」


 それだけ言うと夏村は女子のかたまっている方に行った。


「わー! 夏村先輩おはようございます! 服オシャレですね!」


「ありがとう、田島もいいセンス」


「ありがとうございます!」


 横でそんな楽しそうな話を聞きながら、俺は苦笑いを浮かべていた。

 なぜなら、大槻が鬼の形相でこっちを見ているからである。


「男の嫉妬は醜いよー」


「そうだぞ。あっちもたまたまって言ってだろ」


「べ、別に嫉妬してねーし! いいなとか思ってないし!」


 山路と樫田が大槻を茶化し、何とか場を和ませようとする。

 まぁ、夏村のことが好きな大槻からしてみればあまりいい気持にならないのはわかるんだが。どうしろっていうんじゃい。


「おお、杉野。久しぶりだな」


 その声に、一瞬俺は耳を疑った。

 そして声のするほうを見て、驚いた。


「津田先輩……!」


 三年生最後の一人、津田浩二先輩がそこにはいた。

 なんでいるんだ?


「なんでいるんだって顔止めろ、俺だって一応演劇部員なんだから」


 津田先輩は、イケメンと呼ばれる部類に入る顔、甘い声、高身長が特徴のなんとも役者向きの人材である。

 けれどあまり部活には顔を出さず、女遊びに盛っている最低野郎でもある。

 ちなみに演技はすごい。


「じゃあ、なんでいるんですか?」


「そりゃあ、新入部員の女の子がなかなか可愛いってコウから聞いたから!」


「分かりやすく最低ですね」


 てか、木崎先輩とそういう話するんだ……。


「まぁ、そう言うな! さっきちらっと話したが、田島と池本だっけ? どっちとも悪くないじゃん! とくに田島って子は結構俺の好みだわ」


 そう言って肩を組んでくる津田先輩。

 まったくこの人は……。


「止めてくださいよ。部活で恋愛の揉め事なんて勘弁ですよ」


「おお、分かってんじゃん」


「……こら、コウジ。あまり後輩をいじめるな」


 いつの間にかそばにいた木崎先輩が津田先輩の腕を掴み、俺から離す。


「おいおいコウ、いじめてなんかないじゃん。俺は恋愛の心理を教えようとしてな」


「……そんなもん教えんでいい」


「いやいや、案外大事だぜこれが」


 笑いながら、木崎先輩の腕を払う津田先輩。


「予言したっていい。きっと恋愛で揉めるだろうな」


 津田先輩は眼を鋭くして俺の方を向きながら言った。

 なんで俺に?

 その疑問と同時に、大槻が夏村のことが好きなことが脳裏をよぎった。

 津田先輩は性格は最低だが物事の洞察力、考察力はピカイチだった。それはもう、まるで名探偵みたいに。

 今の発言も意味があったのだろうか……。


「……そうかい、それよりそろそろ時間だ」


 そう言って木崎先輩は女子たちが話しているほうを向いた。

 どうやら木崎先輩は気にしていないみたいだ。

 俺の考えすぎか?


「はーい! じゃあみんな揃ったことだし、一回注目ー!」


 轟先輩が元気よく、みんなの視線を集めた。


「手短に言います! 食事に行って、その後カラオケに行きます! イエーイ! さあ、私についてきてください!」


 そう言って先陣を切る轟先輩に続き、みんなが歩いていく。

 木崎先輩と津田先輩は、歩かずその場に残っていた。


「行かないんですか?」


「俺たちは、しんがり任されてんだ」


「……ほら先行って、一年生たちと仲良く」


 どうやら先頭は轟先輩で、一番後ろは二人がやるらしい。

 なるほど、ちゃんと考えられていたのか。

 俺は二人に一礼して、先に行っている樫田たちのグループに入る。


「あ、杉野先輩おはようございます!」


「おお、金子おはよう」


 後輩唯一の男子、金子が挨拶をしてきた。

 やっぱ、どことなく体育会系の感じするんだよなぁ。

 そんなことを考えていると、前にいた大槻が俺の横に来て言う。


「……杉野、本当にたまたまだったんだよな?」


「だからそう言ってんだろ?」


 どうやらまだ疑っていたみたいで、俺は身の潔白を証明するために堂々と答えた。

 意外と大槻っと嫉妬深いんだな。

 しかし、納得してないのか大槻の顔は晴れていなかった。 


「もういいだろ大槻。本人たちがたまたまっていうんだから、そうなんだよ」


「いや、分かってはいるんだが……」


「?」


 樫田が大槻を諭す。

 そして金子が何の話か分からないって顔で聞いていた。

 それを見かねたのか、山路が教える。


「今ねー。大槻の好きな人の話しているんだよー」


「ちょ……!? 山路何言ってんだよ!」


「別にいいでしょー、いずれは分かるんだしー」


「へぇー! そうなんすか!」


 金子が少し興奮したように言った。

 恋愛の話は人を選ばずに、誰もが好きなのだろう。


「あ、そういえばさっき杉野先輩って夏村先輩と……!」


「馬鹿、お前! 口に出すなって!」


 大槻が金子の口を押さえる。


「こらこら大槻、それじゃあ金子が息できないだろ」


 樫田が二人の間に入り、止める。


「すいませんっす。名前は言わないようにします」


「ああ、そうしてもらえると助かる……」


「でもいいっすね! 青春って感じっすね! 応援します!」


 金子が笑顔でそういうと、大槻も笑顔になる。


「おお! ありがとう! お前良いやつだな!」


 そう言って金子と肩を組む大槻。

 俺と樫田と山路はそれを見て、笑う。


「調子のいいやつだな、大槻は」


「ほんとだねー」

「だな」


「なんだよ! いいだろ別に!」


「で、告白とかするんすか!?」


「……まぁ、追々な」


 照れくさそうにしながら大槻が小声で言う。


「頑張って下さいっす!」


 金子が両手で拳を作り、エールを送った。


「おう、あんがとな」


 大槻は笑顔で金子にお礼を言った。


「他の皆さんは付き合っている人とか好き人とかいないんですか?」


「そうだそうだ、俺の話ばっかで、お前たちもなんか話せよ!」


 金子の興味は俺たちにも向いた。

 大槻も俺ら三人の恋愛事情を知りたいようだ。

 けれど残念なことに、この話はすぐ終わる。


「いないな」


「いないんだよねー」


「まぁ、こんな調子でしてもすぐ終わるだろうが、そういう話は席について座ってやった方が楽しいだろ。ってことでまた今度な」


 俺と山路は即答し、樫田はまた今度といって返答をしなかった。


「えー、いつも恋バナしてんの俺じゃん、またには違う人のを聞かせろよ、なぁ」


「先輩たちの恋バナ聞きたいっす!」


 大槻は金子という味方ができたからか、いつもと違い諦めなかった。

 本当にいないんだよな。

 けど、大槻はきっとそれじゃあ納得しないだろう。

 ……あ、そうだ。


「じゃあ、聞くか?」


「おお、杉野。何かあるのか!?」


 大槻が食いついてきた。

 ああ、あるとも。特大の恋バナが。


「木崎先輩! 津田先輩! ちょっといいですかー?」


「やめろ! てめぇ!」


 俺が先輩たちを呼ぶと、大槻は全力で止めに入った。

 うわ! 口にお手を当てようとするな!


「計りやがったな!」


「うるせー! 恋バナには変わりないだろ」


「誰がリア充とヤリ○ンの話聞きたいんだよ!」


 ああ、大槻のやじ馬精神でもダメか。


「おいコウ、俺たち後輩に舐められてね?」


「……いいじゃないか。君がプレイボーイなのは本当」


「え、なんでちょっと嬉しそうなん? リア充は誉め言葉じゃないぞ」


「……え?」


「え」


 俺と大槻の横で木崎先輩と津田先輩が騒ぐ。


「ほら四人とも、山路と金子が飽きて先行ってますよ」


「「「「え」」」」


 樫田に言われて先を見ると、山路と金子が俺たちをおいて歩いていた。


「へぇー、金子君もモン狩るやるんだー」


「はい、けっこうやりますよ!」


 何やら二人で盛り上がっていた。


「ほら止まらないで歩く、俺がしんがりやりますから」


「いや俺たちがやるから大丈夫」


「……樫田、平気」


「分かりました。ほら、山路たちに追いつくぞ、杉野、大槻」


 木崎先輩と津田先輩を背に俺たちは小走りで先に行く。

 ほどなくして、お店に着くのであった。


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