14.《ギルドマスター・ヴェル》
「……す、すまねぇ。治癒してもらった挙句、帰り道まで護衛してもらって」
「気にすんな。それより毒は大丈夫か? いくら毒を抜いたとはいえ、少し混じってる。数日は安静にしておけ」
「……本当にすまねぇ」
助けた彼らにヒュドラの素材を持って帰るのを手伝ってもらった。お礼はそれでいいと言うと納得してくれなったが、お陰で楽に帰ってこれた。
「あっ帰ってきたにゃ。ギルドマスター! ニグリスさん達が帰って来たにゃー!」
冒険者ギルドの受付に呼ばれて、新しいギルドマスターがやってくる。
逞しい体つきで見間違えたが、長い銀色の髪を見て女だと認識した。
……俺より少し大きいくらいだが、ガタイが良いな。
「……ふーん。あんたがニグリスか?」
「……顔知ってるのか?」
「いや、勘に決まってんだろ」
勘かよ。
新しいギルドマスター、どれほどか見させてもらおうかな。
……鑑定してみる。
鑑定
ヴェル 31歳 状態:安堵 【種族】人
魔力 中
剣士 S / S
魔法 S / S
器用 S / S
忠誠 0
【西の賢者】
────。
……は?
鑑定の誤作動かと思って、数度確認する。
表示は変わらない。
……西の賢者?
いや、それ以外のステータスもなかなかぶっ壊れてるな。
なんだ、コイツ。
「おいおい、勝手に覗くなよ」
「……なんで分かる」
「ずっと観られてたら気付くだろうがよ」
俺の鑑定を見抜いた?
いや、鑑定スキル持ちだとは分かっているだろうが、見ていたことに気付かれたのは初めてだぞ。
ジャンヌですら気付かなかったのに。
「ヒュドラの討伐はできたのか?」
「あぁ、問題なく倒した」
……俺を物差しで測るような眼をしている。
品定めで依頼したってのか。
何のためにだ。
「で、その隣に居るのが昨日Bランクパーティーに昇格したパーティーか」
「は、はいっ! 俺ら、頑張ってます!」
「おう。とりあえず、今日Cランクに降格な」
「えっ!? な、なんでっすか!」
ヴェルは顔を歪めて威圧感を増す。
随分とあっさり決めるんだな。
前のギルドマスターだったら上げることはしても、下げることは絶対にしなかったぞ。
自分は責任を取らないし、取る必要がない。死んだらソイツの自己責任! 死人に口なし! と言っていた。
ギルドマスターとして有り得ない発言だとは思ったが、冒険者たちは気にしていなかった。
やっぱり異常だったよな、あれ。
「てめえら、ベヒーモス討伐の依頼を受けるなって言われたのに無理やり受けただろ」
「だ、だってあれは俺らでも倒せると思って……っ!」
「Bランクに上げた理由を分かってねえな? 最初からやり直してこい!」
「……そ、そんな……っ」
俺の服を引っ張って、ガイが涙ながらに懇願してくる。
さっきまで俺たちのこと馬鹿にしてた人間じゃないな。プライドどこ行った。
「ニグリスさん~! 頼む、助けてくれっ!」
「無理。俺はギルドマスターじゃないから」
「そ、それもそうか……っ! てか、俺たちニグリスさんに助けてもらってばっかじゃねえか……っ! またすまねえ!」
ガイが土下座して謝罪してくる。
少し暑苦しいな。
感情豊かで嫌いではないのだが、見られまくっている。
ヴェルは彼らを帰宅させ、俺たちをギルド長室へ案内してくれる。
その道中、アリサが先ほどの出来事を聞いた。
「ねぇ、なんでさっきの降格させたの?」
「あぁ? あー……ありゃダメだからだ」
「ダメって、別に戦って負けた訳じゃないんだし、やらせてみてもいいじゃん」
「冒険者ってのはな、死んだら終わりなんだよ。調査して、準備して、死なないための努力をしてこそなんだ。なのに、見たことも戦ったこともない相手にいきなり挑むような馬鹿にBランクは任せられねえ」
俺は思わず感嘆の声を漏らしそうになった。
コイツ、分かってるな。
前のギルドマスターはただ強ければいい、優秀ならいい、功績を作ったのならいいと昇格させていた。
それに対し、ヴェルはしっかりと人物を見てダメだと判断したら遠慮はしない。
「で、治癒師ニグリス。あんたにヒュドラの討伐を依頼したのには二つの意味がある」
「なんだ」
ギルドマスターの部屋へ到着し、俺たちはソファーに腰を落ちつかせる。
フェルスは警戒した面持ちで、アリサは周りを見渡しながら足をブラブラと動かしていた。
「一つ、あんたを昇格させるための口実作り」
「昇格?」
「あぁ、正直あたしが謝ることじゃねえんだが、前のギルドマスターが相当酷いことをしていたのは知ってる。今までの功績と今回の功績でランクを上げようって話だ」
「リーシャの件で怒ってるんじゃなかったのか?」
「ありゃ確かに優秀だ。出来れば戻って来て欲しいが、冒険者ギルドが失った信頼を取り戻すまでは無理だろって判断した」
「……ちなみにだが、前のギルドマスターはどうした?」
「殺したよ。あたしがな」
殺した、その単語にフェルスとアリサの顔つきが変わる。
まぁいつかそうなるんじゃないかとは思ってた。
「やり過ぎたんだよアイツは。冒険者ギルドってのは一枚岩じゃない。あたしみたいな奴も居るって覚えておきな」
「さっきので知ったから良い」
「そりゃどうも。あたしを知ってもらうにはタイミングが良かったか? アイツらに褒賞でも与えるか」
ヴェルは豪快に笑う。
……姿や喋り方で考えなしの戦闘狂なイメージがあったのだが、実際はかなり頭で考えるタイプか。
それに人を殺したとはいえ、一定の倫理観はある。エラッドと繋がっているとは考えにくいが信用するにはまだ早い。
「二つ目はなんだ?」
「あぁ、言っちまえば────あんたが陰の支配者なんだろ?」
声音が低くなる。
なるほど、それを確かめるにはヒュドラは丁度いいな。
俺以外にヒュドラと戦える治癒師はいない。フェルスとアリサも一人で余裕ではあるが、その中心が俺だと見抜いたのか。
いい慧眼だな。
「……あまりその呼び名は好きじゃないんだ」
「分かったよニグリス。これでいいだろ?」
冒険者ギルド。この王国にある三大勢力に俺は命を狙われている。それはジャンヌから教えてもらったことだ。
となれば、ヴェルも俺の命を狙っているのか?
「あぁ。で、あんたも俺を殺すって言うのか?」
「いや、別にあたしは三大勢力の意向に従う気なんざもっぱらねえよ」
「じゃあ……」
「そう焦んな。まず話しておきたいことがたくさんある」
俺に一枚の紙を手渡す。
比較的高級そうで、宮廷などで使われていそうな紙だ。
そこには聖教会の紋章とアルテラの処刑の旨が記されていた。
「何よこれ! 身勝手すぎるんじゃないの?」
「そうだ。正式に聖教会はアルテラの処刑を命じた」
「……なんで俺に話す?」
「だって、あんたの所にいるんだろ? アルテラは」
……どういうことだ。
アルテラのことは誰にも話していないし、フローレンスも口止めさせている。
絶対に漏れるはずがない。
貧民街の住民が裏切ったとも考えにくいが。
「警戒すんなよ。これでもあたしは頭が良くて、雑に見えて繊細なんだよ」
「本当に意外ね~」
「失礼な嬢ちゃんだな……」
苦笑いを浮かべながら、俺たちに違う物を見せて来た。
「本題はこっちだ。あんたら、これを見たことがあるか?」
「……魔法陣じゃないっ!!」
六芒星の魔法陣が描かれた紙を見せびらかしてくる。
俺たちの反応が面白かったのか、ヴェルは軽く微笑む。
……なぜ、知っている。
いや、知っていてもおかしくはないと思う。
それでも俺たちに聞くって言う事は、アゼルが魔法陣を使っていたことを知っていて関係者であると気づいたからか。
「実力は確かにあると感じた。だから、あんたらに正式に協力を頼みたい」
「協力?」
「あぁ……大貴族エラッドをぶち殺す話さ」
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