6.呪いの少女と治癒師


 しばらくして少女が目覚めた。


「ん……あれ……」

「気が付いたか?」

「っ────!!」


 少女は起き上がって、俺たちから距離を置いた。

 その眼は恐怖に染まっていて、怯えたように身を寄せる。


 ……この反応、無理もないか。

 目覚めて知らない人たちが居たら怖いからな。


 出来る限り警戒されないよう、優しく問いかける。

 

「……怪我を治した。少し食事をすれば歩けるだろう」

「……っ」

「ねぇ、ちょっとは何か言いなさいよ」

「やめんか」


 首根っこを掴んで引き剥がす。

 アリサはやはり空気が読めないな。

 

 ほら、また怖がった。

 

「アリサはちょっと頭が緩いだけで、根は良い奴なんだ」

「そうですね、“ちょっと”緩いだけですね」

「ねぇ……みんなしてあたしのこと馬鹿にしてる?」


 不貞腐れて頬を膨らませる。

 少しでも警戒心を解かないと何も話が聞けないだろ。


 勝手に鑑定しようかとも思ったんだが、名前を知るとつい呼んでしまいそうで怖かった。


「……アルテラ」

「君の名前か?」

 

 こくんっと頷く。

 ……この子、青髪か。


 珍しい髪色をしているな。


「俺はニグリスだ。治癒師をやっていてアルテラを治した。家は何処だ? 送ってくぞ」

「……分からない。家族も、知らない……」


 分からない……?

 堅守のドラゴンの行動を見ても、森で彷徨っていて助けたっぽい感じだった。

 そもそも、なんでモンスターのいる森をこんな少女が一人で彷徨っていたんだ。


 名前は憶えているから、一部の記憶が欠落しているって所か。フローレンスに調べてもらえばすぐに分かりそうだろうか。


「あっ……変わった手袋をしているんですね」

「聖十字紋章じゃない。珍しいの付けてるわねぇ~」

「聖十字紋章? なんだそれ」

「聖教会の保有する封印紋章よ。例えば、スキルとか魔法とかを無効化する超レアアイテム! って感じ」


 俺とフェルスは黙ってしまう。

 アリサは軽く説明しているけど、それは考えればある答えに行き着くんだ。

 

 この少女は何かを持っている。


「……すまんアルテラ。勝手に覗くぞ」


 今や大貴族エラッドのせいで、仲間を守るために危険因子は取り除きたいと思っていた。

 この少女がそうであるとは言わないが、不安要素はない方がいい。



 鑑定

【種族】人

 アルテラ 12歳♀ 状態:警戒


魔力 ……

剣士 ERROR / ERROR

魔法 ERR─R / ER──R

器用 ERR───

忠────


 【原初の崩壊】

 手に触れた物を全て破────塵にする。



 突如、頭が割れるような痛みが走る。

 勢い余り、俺はその場に座り込んだ。

 

 目を……潰されたような痛みだ。


「────ニグリス様っ!!」

「ニグリス!!」


 なんだ。

 何が起こった。


「だ、大丈夫だ……」


 よく見えなかった。

 スキルはしっかりと見えたが、他が全滅だ。


「もう一回鑑定を」


 ……鑑定……おい、鑑定スキルがなんでしないんだ。


 フェルスを見ても、アリサを見ても何も表示されない。

 

 【原初の崩壊】。

 このスキル、もしかして……俺の鑑定スキルをのか?


 あの手袋でスキルは封印してたんじゃないのかよ。いや、鑑定スキルは相手の内側へ入り込む。この手袋はあくまで、表面上に出ているスキルを封じているだけで内側にあるスキルは抑え込めていないんだ。


 スキルを壊すとか、そんなことが出来るのか?


 もし手袋がなければ、この子は無尽蔵に物を崩壊させてしまうのだとしたらどうなる。

 そんなの、呪いのスキルだ。


 ……そうか。


「……アルテラ、もしかして、お前が王都で噂の呪いの子か?」


 アルテラは暗い面持ちで、小さく頷いた。

 

 

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