14.一方、その頃2〜追放パーティー視点〜
ニグリスを追放した宿屋にて、Sランクパーティーである銀の翼は深酒に浸っていた。
酔っぱらった人相でアゼルは高らかに笑う。
「明日は女帝の討伐だぁ! 心して掛かれよお前らぁ!」
抱いていた不安は時間と共に薄れたようで、メンバー達はアゼルと共に騒ぐ。
魔法使いのミーアがふと疑問を投げかけた。
「にしても、なぜ貧民街? あんなゴミ溜めに価値があるように思えない」
「俺様が知るかよ。殺せっつわれたから殺すんだ。深く考えんじゃねえ」
「大貴族の依頼よ? 私達は裏を探っても問題はない気がするの」
「はぁ? 馬鹿かよ。それで機嫌損ねたら責任取れんのか?」
そう言われると誰も口を挟めなくなる。
しかし、一度考えたら止まらないミーアはさらに言う。
「もしかして、貧民街に図書館があるっていう噂は本当なんじゃ」
「図書館だぁ? 本なんか燃やせよ。読んでも腹の足しにすらならねえ」
「そ、そうかもだけど……貧民街にあるのは魔法に関する禁書や歴史の本らしいし。それが大貴族の狙いだとしたら……」
「ただの噂話に考えすぎだぜミーア。どうしたお前」
「……何となく胸騒ぎが凄いのよ。あのゴミクズを追放してから、まるで本能が死を察しているみたいな」
ミーアの直感を、彼らは一蹴した。
馬鹿らしい。Sランクパーティーである俺達が死ぬはずがない。
「お、お前。あのゴミクズのこと好きだったんじゃねえの!」
「はぁ? ふざけないでよ、一緒の空気ですら反吐が出るっていうのに」
「ブハハハッ! 想像したら笑えて来た」
「ふざけないで! 気色悪い」
怒っている様子がさらに面白く、アゼルはミーアを揶揄う。
明日は貧民街へ向かう。
あそこはゴミの掃き溜め。俺たちに敵う奴らは居ないと思っていた。
全員殺すと脅せば、自分の命欲しさに女帝を差し出すだろ、と。
だが、結果は大きく裏切られることとなる。
*
貧民街へ足を踏み入れた矢先、アゼルは剣を抜き盗賊を斬り付けた。
「お前らの女帝を殺しに来たぞ!」
暗殺、計略、情報収集。それらすべてを捨て、彼らは正面から挑んでいた。
威勢よく、我こそ正義だと言わんばかりのアゼル達の行動に盗賊達はいち早く対応する。
本来ではありえない敵の対応速度に、パーティーメンバーは訝し気な表情を浮かべながら正面から戦う。
「痛ってぇ! クソっ!」
「貧民街の奴らがなんでこんな動けるの!?」
「どうなってんだ!」
アゼル達は知らなかった。
ニグリスによって適材適所に振り分けられた盗賊は、ニグリスが来る以前のそれとは一線を画しているということを。
パーティーの主戦力であるアゼルの足が射られ、動きが止まる。
「に、逃げるしかないわ」
「ふざけんな! 俺達が負けるなんてありえねえだろ! け、怪我だって俺が気を抜いただけで……」
「やっぱり変だったの! ニグリスが抜けてから数年ぶりに怪我をして、本当は治癒魔法が使えてたんじゃ」
「うるせぇ! そんな訳ねえ、アイツは無能だ。俺達が従えてやらないと何もできないゴミクズだ!」
自分たちの間違いの可能性に勘付き始めていたミーアだったが、アゼルはそれを一蹴する。
逃げるか戦うか。どちらを選ぶにせよ、パーティーの連携は崩壊していた。そして敵地の中、仲間割れを起こしたパーティーに待っている結末は決まっている。
「……囲まれた」
逃げ場を失い、彼らは盗賊に捕まる。
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