12.明日へ


 薬草依頼の報告を終えて、一息つく。


 報酬の分け前をアリサに渡すため、空いている席に向かった。席に座ると俺とアリサが居るせいか、近くに座っていた冒険者は離れていく。

 差別意識が強いと周りに人すら居なくなるのか。


「えっこんなにもらっていいの?」

「こんなって依頼の報酬自体は安いし、五分だぞ?」

「……ニーノ人は、報酬なんてほぼもらえないから」

「それはギルド規約違反だろ。言わなかったのか?」


 冒険者ギルドでは、規律を守るために幾つかのルールがある。依頼失敗や報酬の分け前などの揉め事は厳重な処罰が与えられる。

 俺の場合は……あっそういうことか。


「冒険者ギルドが取り合ってくれなかったんだな」

「ええ。私はニーノ人だから、それが当たり前って言われたのよ」

「……俺も似たようなことされたな。報酬の取り分が少ないと冒険者ギルドに抗議したけど、無能なんだから当然と言われた」


 共感できてしまう。

 冒険者ギルドが作った法律なんて、結局機能なんかしちゃいない。

 どこも腐ってるな。


「……私は、親もいないし渡り鳥みたいに転々としてたからまだいいの。でもニグリスはどうなの? 前のパーティーはどんな感じだった?」

「荷物持ちをさせられたな」

「ニグリスが? も、もしかして銀の翼ってニグリスより強いの?」

「いや、全員ともステータスは平均より低いし、弱い」


 俺がひたすら治癒魔法を掛けていたから、彼らはSランクまで上り詰めることが出来た。ステータスは低いし、話も聞かない。

 ステータスはあくまでその人物の限界であり、技術や思考は努力で何とかできるんだ。


「前のパーティーの話聞きたいって言ってたな。少し、暗いけどいいか?」


 息を呑んで、二人は姿勢を正した。

 思い出しながら語るか。


「俺は元々、辺境の村の生まれなんだ。だからニーノ人への差別意識が低い」

「そうだったのね」

「まぁ、モンスターの襲撃に遭って滅んだけどな」


 さり気なく言うと、二人は驚く。

 過ぎたことだし、取り留めて気にしてなかった。


「もしかして両親とかは……?」

「物心付いた頃から居ないぞ。村では奴隷扱いだったからな」

 

 これと言ってお世話になった人は居なかった。

 小屋とかに押し込められて、干し肉と水だけの生活もあったくらいだ。


 思い返せば奴隷じゃね? とは思うけど、生かしてもらっていただけマシだな。


「ニグリス様のお気持ちも知らず、お聞きしたいなど無神経でした」

「気にしなくていい」


 実際俺も気にしてない。

 村が滅んだお陰で自由になれた。治癒魔法に出会えた。


「それから、俺は銀の翼がいる孤児院に連れて行かれて、そこで鑑定スキル持ちであることが判明した」


 生まれた頃から無意識に使ってはいたが、これが鑑定スキルであるとは知らなかった。話すにしても、村の人に話しても信じてもらえないとも分かっていたからな。


「鑑定スキルを買われてパーティーに誘われた。スキル持ちが居るってだけでパーティーには箔が付く。アイツらには鑑定スキルしか見えてなかったんだろうさ」


 ただスキル持ちが欲しかっただけだ。

 俺が欲しかった訳じゃない、スキル持ちの人間がいるという事が欲しかったんだろう。

 だから俺を容赦なくコキ使い、スキルの有用性を無視した。


「軽く言ってるけど、酷い扱いね……」

「ニグリス様は無能の扱いを受けて、それが嫌で抜けたのですよね?」

「いや? 『SSランクになれると思ったか寄生虫』って追い出されたぞ」

「「は?」」

 

 ハモるなよ。何か間違えたこと言ったのかってビックリしただろ。

 

「えっ? 雑用と荷物持ち、それと治癒魔法も常時掛けてたんでしょ……?」

「そうだけど」


 ついでに無能無能と連呼されまくっていたが。

 おかげ様で暴言や煽りに対して耐性を持ってしまった。


「なんて言うか……銀の翼って馬鹿過ぎでしょ! なんかムカムカしてきた」


 せっかく口に出さず黙っていたのに、言っちゃったよ。


「怒ってるのか?」

「……ニグリスが初めてだったのよ。ニーノ人とか関係なく、私の才能を見出してくれて仲間にしたいって言ってくれた人は。だから、銀の翼が許せないって言うか」

「ありがとな」

「なっ! べ、別に違うし! 可哀想だと思っただけで……」


 アリサだって辛い人生を歩んできただろうに。他人の話で落ち込んでいる姿が、アリサの本質に思えた。

 あまり良い思い出はなかったな。何処へ行っても俺は奴隷のような扱いだし、治癒魔法がなければ死んでいたかもしれない。


「アリサと同じで報酬はほとんど貰えなかったから貯金はなし。そんな中で頑張って買った近接用の杖も奪われた。でも良かったと思ってる」


 愚痴を言ってしまう辺り、やっぱり気にしている。

 でも俺の話を重要そうに聞いてくれる二人に安心した。

 

「未練も思い出も全部捨てれたからな」

「……今度街中で遭ったらぶっ飛ばしましょ!」

「ぶ、ぶっ飛ばすは流石にまずいんじゃないか?」

「それくらいしないと割に合わない。あたしはそう思うわよ」


 意外と過激派なんだなぁ、と思いつつ、暗い面持ちをしたフェルスが気になった。

 こんな話されても、なんて答えればいいか分からないか。


「……私はニグリス様に何が出来るのでしょうか」

「ただの愚痴だよ。こうして話を聞いてくれて、信頼できることが俺にとっては何よりも救いなんだ」


 頭を撫でてやると、少し照れた様子で呟いた。


「ニグリス様はお優しすぎます……」

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