2.子どもを救う
次の日。
俺は近場の宿から出て、冒険者ギルドへと向かっていた。
銀の翼は最低なパーティーだった。三年間も気付けなかった自分が情けなくて悔しくなる。
あれは仲間じゃない。
いや、もう考えるのは止そう。まずはこれからどうするべきか、だな。
全財産は金貨1枚と銀貨5枚、銅貨は50枚だ。
一日の食事と宿で銀貨1枚ほどだから、数日は過ごせる。
本来であれば何十年も暮らせて行けるほど稼いだはずなんだがな……。
出来ればお金は欲しい。産まれた頃から貧乏だったから、せめてお金持ちにはなりたいという欲はある。
でも。
「パーティーなんか組んでもらえないんだよなぁ」
実は、銀の翼はこうなることを見越して俺の悪い噂ばかりを流していた。ニグリスは無能だ。役立たずのゴミクズだ。寄生虫だ。
Sランクパーティーの根拠のない罵詈雑言は、人を遠ざけるには十分だった。
ソロで冒険者をやってもいいが、俺が欲しいのは信用できる仲間だ。銀の翼のような偽物じゃない。
家族のような……信頼できる仲間が欲しい。
冒険者ギルドは王都の中心部にある。
その道中、市井から少し道に逸れた裏路地で、怒声が聞こえた。
「チッ……奴隷の首輪が発動しちまってる。こりゃダメだ、死ぬな」
「旦那ぁ、俺は悪くねえよ。少し目を離したらこのガキが逃げ出してよぉ!」
「うっせぇ! てめえがちゃんと見てねえから逃げ出したんだろうが!」
奴隷商人とその使用人と思わしき人物の奥で、微弱に痙攣させて倒れている少女が居た。首元に奴隷の首輪がされていて、強い衝撃を受けたようだ。
関わらなくてもいいのに、俺は話しかけていた。
「何やっているんだ」
「うおっ。なんだよ、部外者はどっか行けよ」
「その子、死にかけてるだろ」
「どうせ助からねえさ。奴隷は主人から逃げ出すと首輪の魔法で死ぬんだよ」
……このまま放置なんかできるか。
自分よりも小さい子を見捨てるなんて出来ない。
「……その子、いくらだ?」
「はぁ? 兄ちゃんもしかして買うつもりか!?」
「金は払う」
「き、金貨1枚でいい……変わった奴だなぁ。あっ死体好きって奴か? 俺達にとっちゃラッキーだな」
麻袋から取り出すと、奴隷商人はへへっと笑い奪っていく。
一気に財産は減ってしまったが、俺にとっては安い買い物だった。
男たちが去った後、死にかけの少女の手を触った。
……なるほどな。
奴隷の首輪というのは、どうやら心臓に強い衝撃を与える物らしい。
「……死にたく、ない……」
「死にやしないさ」
俺は相手に触れずとも治癒魔法を使うことができるが、触ることでさらに効果の高い治癒魔法を掛けることができた。
そのついでに鑑定スキルまで使ってしまう癖があるがな。
先ほどこの少女を見つけた時、俺は鑑定していた。
「む……り……死ぬ……私……」
手を伸ばす。
「治癒(ヒール)」
少女の金髪が大きく靡き、長い耳が窺えた。
「死にたくないよぉ……」
「だったら起きろ」
「えっ? 治ってる……?」
俺の声に驚いたのか、目を開いてキョトンとしてしまう。
少女は目を擦って現実なのか確かめて居た。
俺の得意魔法は攻撃でも防御でもない。治癒魔法だ。
元々治癒魔法が好きで、人を癒したかった。みんなのためになりますように、と。その努力を認められることはなかったがな。
それでも、人を癒すために治癒魔法は使う。
「俺の治癒魔法だ。重点的に悪い箇所を治癒すれば元通りだ」
「す……凄い……っ!」
これくらいはできないと、あのパーティーではまともに活躍することはできなかった。
さて、本題に入る前に俺はこの少女の鑑定をしてしまった。
俺の鑑定スキルは、その人物の潜在能力を見ることが出来る物だ。
このスキルがあったから、前のパーティーに所属できていた。
鑑定
【種族】エルフ
フェルス 12歳♀ 状態:安堵
適性
魔力 小
剣士 D / SS
魔法 D / A
器用 D / A
忠誠 10
【呪い】
エルフの呪いにより魔力を封じられているため、本来の姿、能力はない。
魔力はその人物の持っている総量。
剣士は剣の才能や武勇の才能。
魔法は魔法を使う才能。
器用は手先の器用さやセンスの才能。
適性ランクはSS.S.A.B.C.Dあり、最高がSSで最低がDだ。
SS、化け物
S、かなり優秀
A、優秀
B、平凡
C、微妙
D、才能がない
忠誠は何かに従属していることを表していて、これが低いと信頼がないし、人であれば裏切る可能性があるだろう。
その下に表示される物はその人物が、今抱えている大きな問題を表示することがある。
彼女の突出しているのは剣士SSだ。こんなの、初めて見たぞ。今はDだけど、成長すればとんでもない逸材だ。
それと呪いってなんだ……話を聞きたいな。
「名前は?」
一応知っているが聞いておくべきだろう。勝手に鑑定したからな。
「フェルス……あなたは?」
「ニグリスだ。フェルス、他に怪我はあるか?」
「な、ないです」
こんな湿気た場所で長話は酷だろう。それにそろそろお昼時だ。聞きたいことも多い。
栄養不足は食べて元気になってもらうしかない。治癒魔法はそこまで便利じゃない。
「じゃあ、飯を食いに行こう」
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