ちっぽけな技術者は今日も宇宙を漂う
黒神 金龍
序章 Infinity Universe Online
プロローグ
霞む視界の中、緊急警報ランプによって部屋全体が赤く何度も点滅し、機械的な音声によって繰り返し退避が促されている。
「ガフッ……。…………ハハッ、この俺がタダで死んでやるとでも思ってたのか?」
壁に凭れ掛かり、床に血溜まりの池を作っている俺の身体は斬撃やレーザーやらで既に穴だらけのボロボロだ。
側で涙目になり必死になって止血しようとしている女性は俺の「もういい」の一言で治療を止め、美しい顔を相手を呪い殺せそうな程に歪めている。
そんな俺から距離を空けて立っている男が三人。全員が美男と呼ばれる程に整った顔立ちをしており、
だが、現在は焦燥感に満ちた表情で早口に怒鳴り合っていた。
「おい、どうすんだよコレ!」
「僕に怒鳴られても困ります」
「ふむ。ここまで来てトドメを刺せないのは遺憾だが、早々に退避するしかあるまい」
「そうですね、死んでは意味がありません。それに、ラストアタックが機能するでしょうし自滅されても特に問題はないでしょう」
「クソが!謀りやがったな!?」
燃えるような赤髪の男が大剣を片手で回しながら口汚く罵っているが、はて?
「身に覚えが、ないなぁ……?」
「マスター。もう喋らないで下さい。身体はとっくに限界を超えています」
相手の癇に障るようニヤニヤと煽ってやったが、彼女の言う通りで、言葉は絞り出しただけに過ぎず意識を繋ぎ溜めているだけで全身全霊だ。
「ほら、怒り心頭に発してないでさっさと逃げますよ」
黄色が目立つ髪をしたさっぱり風の眼鏡がレーザー銃を仕舞い赤髪の背中を押して通路の方へと引き返して行く。
「貴殿との久しぶりの戦闘、実に有意義であった。我ら三人を相手にここまで耐える実力に敬意を表する」
最後に両手に抱えた大楯を床に着ける事なく綺麗なお辞儀をして去る深緑色の髪をした巨漢。
扉が自動で閉まり、部屋には一組の男女が居るのみ。アナウンスが告げる音のみが部屋に静かに響いていた。
…………の、だが……。
「まったく、マスターは無茶しすぎです!反省してくだッッさい!!」
女性が振り被った手をマスターと呼ばれた男の心臓に叩きつけた。
「痛ッッッッてぇ!!ゴホッ…ゲホッ…こっちは瀕死の重傷者なんだぞ、もっと丁重に扱えや!」
男は先程までの暗く苦痛に歪んだ表情は何処へやら。結構ピンピンしていた。
「治療ナノマシンと回復薬諸々を打ち込みました。危険域は脱するはずですが、早急な治療が必要なのは変わりませんからね」
よくよく見ると彼女の手の中心からは注射器の針のようなものが僅かに斗出していた。
「あ゛あ゛ぁ〜〜。効くぅぅ〜」
即効性ではあるものの、急に喋り出せるほどの急激な回復力を持たない事を知っている彼女は素晴らしいジト目だ。
「マスター。計画は順調に進み、現在は大詰めに入っていますが問題なく実行出来そうです」
「そうか、それは重畳。アイツらにこの痛みのウン千万倍の悔しさを叩きつけてやるぜ……ヘヘへ」
「強がりは終わりましたか?では行きましょう」
彼女は立ち上がり、こちらに手を差し伸べてくる。痩せ我慢を隠す為に俯き続けていた顔を上げると輝く銀髪を揺らす執事服を着こなす美女が微笑んでいた。
「へいへい。愚痴は終わったよっ、とっとっと」
女性に肩を借りるという無様な姿を晒しながら玉座の間へと歯を食いしばって移動した。それに対して彼女は終始見惚れるような笑顔だったが。
玉座の間にて血だらけの服から愛用している白衣と、黒の生地に灰色の装甲と蛍光色のラインが目立つ超性能スーツに身を包み、空中に投影される無数のウィンドウに目を走らせて状況を確認していく。
「あー……。一部予想から外れはしたが概ね予定通りになったか」
「はい。下部クランによる補給艦への攻撃と資源の奪取による損害程度です」
「まあ、微々たるものだろうと必ず復讐してやるけどな!俺ら以外全て塵と化せ!」
「マスター……」
あれほど煩く響いていた警報が止まり、逆に知性を感じさせる女性の声が玉座の間にのみ告げる。
『自爆シーケンス開始まで残り五分』
「さあ!いよいよ全てを巻き込む超特大の花火ってヤツを見せてやれるぜ!!」
「毎度毎度よくこんな作戦考えますね。誤解のなきよう伝えますが、皮肉ですからね。しかし、今回の内容には腹が立っていた所ですので私も許可しましょう」
「お前が俺に純粋な怒りの表情を見せるって中々に新鮮だな。何?流石に大規模戦やり過ぎた?」
「この規模を未だに大規模で例えれるマスターにびっくりですよ。実質一対五万じゃないですか!
上位者三人のクランとの戦争だと言うから許容したのであって、下部クランや支援クラン含めた無茶苦茶な戦争だと誰が思うんですか!」
実行部隊三万クランと支援部隊二万クランの合わせて五万のクランが今回の相手だな。このサーバーにあるクランの実に半数、よくこれだけ集まったと感心もしたものだ。
「ま!最終日のこの時間まで耐えられたから結果オーライ」
彼女は溜息が出尽くしたのか、頭痛が痛いみたいな表情で黙り込んでしまった。
そうしている間にもカウントは進んでおり……。
『自爆シーケンスまで残り二分』
その音声が聞こえると同時に玉座の間へと続く扉が開き、ぞろぞろと集団で動く人影が姿を現した。先頭に立って指揮を取っていた人物以外は玉座へと繋がるカーペットの両端へと並んで行く。
全員が素早く並び終え、跪いた時点で先頭にいた艶やかな銀髪和風メイド服の人物が話し掛けてくる。
「ますた〜。仕事終わったよ〜」
「おう、お疲れ〜。で?どうだったよ」
「うん。敵は全員基地から出てったからここに居るボクらで最後だよぉ〜」
「アイツらの録画は?」
「撮った!もッちろん、そこは抜かりないよぉ〜!」
「流石だ!!やっぱ分かってるぅ〜」
「るぅ〜!」
声高に玉座前の階段を万歳状態で駆け上がって来た彼は玉座側の空いてる方に納まった。
『自爆シーケンスまで残り十秒』
「最後まではしゃぎ過ぎです!もっとしっかりしなさい!!」
「「……は〜い」」
何とも締まらない雰囲気の中、このサーバーの宇宙全体を巻き込んで基地は大爆発した。
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