私を尻ドラム部に入れてください!

ふじちゅん

第1話 女子のお尻を触れる部活を

 見上げれば、散り終えようとしている桜の花が云々……と詩的な表現を考えようとしてすぐにやめた。


 俺は桜並木のある通学路という風情のある景色を無視して、前方斜め下ばかり見ていた。


 鳴沢(なるさわ)高校へと向かう通学路、俺は目の前を歩く見知らぬ女子生徒のお尻を凝視する。


 厚手のスカートに覆われているそれをいくら眺めようと、うっすらとしたシルエットすら確認できない。


 それでも何かの拍子にそのスカートがめくれたり、俺に透視能力が目覚めたりしないかと期待しながら見ていた。


 残念ながら、今のところそんな場面に出くわすこともなければ、俺に透視能力が目覚めることもなかった。


 周囲に怪しまれないように時折視線を逸らす。

 ふと横を見ると、隣を歩く紫藤陽子(しどうようこ)と目が合った。


 幼稚園、小学校、中学校と一緒だった上に同じ高校を選ぶとは、こいつとはなんとも腐れ縁なことか。まぁ、二人とも家から近いからという理由でこの鳴沢高校を選んだだけなのだが……入学早々一緒に登校とは、新生活感が薄れてしまうではないか。


 手入れに時間をかけているであろうブラウンのロングヘアは昔から長かった。ブレザーの上からでも目立つ豊満なバストはここ数年で急成長を遂げ……いや、現在進行形か? ふわふわした雰囲気が特徴的だが、天然ってわけでもなく、わりとしっかりとした性格である。


 そんな彼女がじっとりとした目で俺を睨むものだから、俺も彼女を睨み返した。


「なんだよ」

「前の人のお尻見てた……?」

「見てない」


 俺の嘘に陽子は深くため息を吐いた。


「そういうの、周りからはすぐに分かるよ?」

「ご忠告どうも」


 もう、と小さく不満を漏らした陽子は歩みを速め、俺の前を歩き始めた。これでは前にいた女子のお尻が見えないじゃないか。それを見計らっての行動か? でもそれじゃあまるで、私のお尻を見てくださいと言ってるようなものではないか!


 ……しかし、俺は陽子のお尻を見ても何も感じなかった。幼少の頃から一緒にいたせいか、彼女を性的な目で見ることは出来なかった。


 おそらくこれは、家族に対する価値観に似ている。小学生くらいまで一緒にお風呂入ってたし。

 顔は可愛いのに、恋愛対象外な上に性的な目で見れないなんて甚だ残念だ。


 振り返った陽子が、俺が口をへの字に曲げているのに気付いてしょんぼりしていた。しょんぼりしたいのはこっちである。登校時の楽しみを奪う陽子に仕方なく俺は話題を振ることにした。


「陽子はなにか部活に入るのか?」

「うーん……手芸部があれば入りたかったんだけど、廃部になったって聞いたから……どうしようかなぁ。宙(そら)くんは?」


 テキトーな話題だったけれど、陽子の調子を戻すには充分だったらしい。

 訊き返された俺は、入学前から考えていたことを口にする。


「女子のお尻を触れる部活ってあるかな?」

「ないよ……」

「だよな……」


 こういうことを言えるのも、やはり陽子を女子として意識していないからだろうか。

 いっそのこと、陽子が男だったら一緒にこんな話で盛り上がれるのに……なんて考えてみたけど、それはちょっと違う気がした。


 陽子は陽子のままでいいから、こんな話で盛り上がれる男友達を作ろう。そうしよう。

 ふと、俺は天啓を受けた……というか、ただ閃いただけ。無いなら作ればいいじゃない。


「……作るか」

「なにを?」

「女子のお尻を触れる部活を」

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