そんな都合のいい依頼ある?

 受付の人の説明だと冒険者ギルドは


 迷宮の監視、管理。

 魔物の討伐。危険な魔物の討伐依頼を達成する。

 指名手配者の捕縛か討伐。

 の3つが主な役割らしい。


 というか俺が冒険者ギルドにきて冒険者登録をしに来たのも基本的に迷宮は冒険者ギルドが管理をしているから冒険者になった方が都合がいいと思ったからだ。受付の人が最初らへんで言っていたとおり迷宮に入るときは迷宮の傍にあるギルドの施設にいる冒険者ギルドの人間に迷宮挑戦の申請をしないといけないのだ。冒険者になれば申請から受理までの時間が短くなるって確か何かの本で読んだ覚えがあった。冒険者になっておいて損はない。


「もちろん冒険者もその対象になりますよ。むしろ冒険者の評判を下げないために逆に厳しいくらいです。もし、一般の方に正当な理由なく暴行を加えたりしたら即罰金と冒険者の階位を下げることになりますよ」


 ん? 厳しいっていうからすぐに登録解除とかそんなのにするのか思ったら階位が下がるだけで済むのか?


「登録抹消とかすぐにしそうなのに階位を下げるだけで済むんですね?」

「すぐに登録抹消をして冒険者じゃなくなった、なんてことになったらやけになって悪行に手を染め始める方が出てくることがあるので。問答無用で討伐が必要な大犯罪、というものでもない限りかなりの額の罰金の上しばらくは依頼毎にギルドに不穏な称号がついていないか確認のため能力強制開示。依頼人にも同様の行為を義務付けるようになります。その上で次に似たようなことが起きたらギルドから討伐部隊を派遣しますよ、という事を示唆するとか」


 まあ、よほどおかしい奴じゃない限りはそんなこと言われたら次は気を付けるよな。


「あと正当な理由なく、って正当な理由とかある場合あるんですか?」

「冒険者に暴力を振るわれた金を払えって言い出す方が偶にきますね。金目当てでわざとぶつかっておいて暴力を振るわれたと叫ぶ方が偶に。冒険者の方に良い印象を持っていない方もいらっしゃるので同調して騒ぎ立てる方もいらっしゃることもありました。なので怪しいな、と思ったときは審問神ヴァーディ様にお金を払ってそれが真実か判断していただきます。まあ最低金貨1枚もいるんですけど。冒険者の方の自己負担ですけど渋々ですが大体払っていただけますね。なんで難癖付けられたのは俺なのに金負担させられてるんだって……まあそうなんですけど信用に換えられないと泣く泣く払われされることが大半です」


 酷い……


「でも本当に稀にこの判定は偽りだ。金を払ったのは冒険者だから冒険者に有利な判定をしてるんだ、なんて主張する方もいますよ」



「すぐ灰になって亡くなりました。神様にお前は嘘をついているなんて文句を付けたら怒りますよね」


 神様って怖いんだな……


「私一回その場面に立ち会いましたけど『無償にすると些細なことで判定を頼んでくるから金を払わせるのであって人族の通貨に魅力など感じているものか。金ごときで贔屓する理由がどこにある』っておっしゃってましたよ。ちなみにここまで言われたのに同調していた冒険者嫌いの方は『そんなことは無い。冒険者に有利な判定を出しているんだ。罪もない一般人を問答無用で殺した時点でお前の言葉なんて信用できるわけがないだろう』と言い出しました」



「亡くなられましたよ。『審問神としての役目を果たす以上に重要なことなどあるものか。お前たちの言葉が事実かどうかを判定する。それ以外の役割を果たすつもりはない。すぐに殺したのはお前たちの個々の命にそれほど価値を見出していないからだ。判定に贔屓はしないことを誓おう。代わりにお前達が私の判定に無用に意義を唱えれば誰であろうと等しく命を奪う。それだけ記憶しておけばいい』 なんておっしゃって還られました。凄く怖くてヴァーディ様の前で嘘はつくのは絶対にやめよう、と思いました」


 人の命すごく軽いんだな……いやそんな感じの神様は多いが。人族自身は大事にしていても一人一人の命はどうでもいいみたいな感じの神様は多い。なんなら世界は大事だが人族自体もどうでもいいみたいな神様もいるが。



「まあそんな感じで悪いことをしたら最悪討伐部隊向けられて殺されることもありますから冒険者として恥じない行動をとりましょうね、という事です。そんな決まりがありますがそれでも冒険者登録をされますか? 登録条件は銀貨1枚の支払いと能力の開示及びその情報を資料として残すことに同意することです。どちらも必ず守っていただくことになりますのでご了承ください」


 金が、ない。



「能力の開示は良いのですがその、お金は後払いでというのは?」

「日雇いの仕事なりで稼いでください。免除はできません」

「事情があって早期に雪神の祠とかいう迷宮に挑戦しないといけないのですが」

「事情?」


「迷宮神イドナントの神託です」

「は?」




 とりあえず事情を聞こうと言われたのでまあこれを見せたら納得しやすいだろうと能力を開示して簡単に事情を話しておいた。カラベルム家のことは面倒なので伏せておいたが。


「なるほど能力を見せていただきました。死亡回数1000回とかおかしな文字や恐ろしい耐性技能が見えますけど、これだけは答えていただきますか?」

「はい」

「迷宮主未討伐踏破者って何ですか? 迷宮踏破は必ず迷宮主を討伐しなければいけないはずですが? 冒険者ギルドの受付として迷宮関係の資料はある程度確認しましたが必ず迷宮主は討伐しないと踏破したことにはならない、と書いてあったはずなのですが」


 確かにそうだ。いくら道中の敵をやり過ごして戦わずに来たとしても最後の迷宮主だけは必ず倒さないと踏破したことにはならない。それはかつて本で読んだ迷宮についての説明で俺も見たことがある。とはいえ実際踏破したからな。理由がわからないから説明できないのが困る。


「殺されて殺されて何度か殺されて抱き着きに成功して自分の攻撃魔術に巻き込ませてというのを半日か一日か繰り返していたんですけど何か急に魔眼王が敗北を認めしたとか目の前に文字が表示されて踏破したことになっていました。良く分からないですがイドナント様によると何度も死んだのに全然諦めないから嫌になって根を上げたんだろうみたいなことを言われました。正直詳しい理由は聞かれても良く分からないです。でも倒してはいないのでそれで未討伐扱いになったのではないでしょうか?」

「それで、踏破したことに」

「なりました。良く分からないですがまあ神託通り踏破したことにはなったのでいいかと。イドナント様も別にいいみたいな感じでしたし大丈夫なんでしょう」

「詳しい事情を聞かないといけないような気はするのですが神託に時間制限があるんですよね? 確か7日」

「はい。前の迷宮の時が初めての迷宮挑戦でまだ迷宮挑戦に全く慣れていないので余裕をもって挑戦したいんです。なので出来れば早く冒険者登録ができればなと。冒険者になれば迷宮挑戦の許可が下りるのが早い、というので。これから迷宮神の信徒として何度も迷宮に挑むことになると思うので」

「なるほど」



 許可が下りた。というより迷宮神イドナントの信徒は割と許可が下りやすいらしい。迷宮にこもってばかりで人族のごたごたに首を突っ込むことが少ないからだとかイドナントの不興を買いたくないからだ、とかいくつか理由はあるらしいが正直登録さえできればどうでもいいので気にしないことにした。


「それで、何か依頼を探している」

「金がないので。イドナント様の最初の神託で迷宮を踏破したときに貰った報酬はこの外せなくなった腕輪と技能だけで金になるものは何ももらえなかったので。そもそも魔物一体も倒さないまま良く分からないうちに踏破してしまったので」


 本当なら魔物を討伐して魔物が落とした魔石や他の何かを金に換えていくんだろうが敵を倒さなかったしな。


「迷宮神の信徒の方は確か魔物を倒しても何も落とさなかったんでしたっけ。迷宮で強くなる代償に何も魔物から貰えないんでしたよね」


 え?


「代わりに非常に強い方が多いという話ですよ。迷宮で能力が非常に成長しやすいという加護があるかららしいですね」

「そ、そうですか」

「だから他の冒険者の方はそれを嫌ってイドナント様の信徒とはあまりパーティを組みたがらないのでたいてい一人で迷宮に潜ることになるという話です」

「それは良いのですが……え、何も落とさない?」

「ええ、代わりに魔物を倒しておけば倒した魔物の力の一部を吸収することで食事がいらない体質になっているとか。食料を持っていく必要がないって結構便利な加護ですよね。最悪食費に金をかける必要がないという事ですし」


 でも何も落とさないという事は収入もないという事だろ? 手に入れる機会と言えば迷宮踏破報酬……まさかとは思うが迷宮を必ず踏破させるためにわざと道中では何も収入がない状態にしたのだろうか。

 そう考えたら微妙だが、まあ迷宮を踏破すればいい、というするべきことが明確なのは助かる。カラベルム家の名に恥じない能力を持てとか言われるよりはマシだ。


「まあ、とりあえず迷宮挑戦の準備のためにまずは装備や道具を揃えたいと思うので何か簡単で時間のかからずお金の入る依頼とか……都合がよすぎですね」

「そうですね、さすがに……いえ、グリフさんの能力値の珍しさなら報酬も期待出来る、そんな依頼が一つあるかもしれません」


 ? 言っててなんだがそんな都合のいい依頼無いと思ってたけどあるのか?




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