ダンジョンの神の神託をこなそう(強制)
破く紙
始まりの迷宮挑戦はゾンビアタックで
1話 ダンジョンの底で家よりはマシだと叫ぶ
能力が目に見えるようになるというのはありがたい奴と困るやつがいるだろう。ありがたいと思うのは基本的に優秀なやつでステータス開示で自分の能力の高さが保証されることで評価が上がり出世の道が開かれる可能性が高い。欲を言えばもっと早い段階で表示されてほしいと思うやつもいるかもしれない。
逆に能力が目に見えるようになると困るやつもいる。はっきり言うなら能力の低い奴だ。つまり俺みたいなやつだ。伯爵家に長男として生まれ、なのに能力が一般的な平民よりもかなり低いというつまりは役立たず。逆に能力の低さが保証されて将来が閉ざされてしまうといっていい。今の俺がそうだ。
千年以上昔、まだ人族が生きるのも必死だったというころ。人は神様に祈って頼んだらしい。
「人材の無駄遣いができる余裕がないです。お願いですからきちんと正しい役割分担ができるように持っている能力がわかるようにしてください」
戦える奴を机仕事につけて無駄にしないように、机仕事が得意な奴に戦わせて無駄に死なせないように。当時は10万もいなかった人族を適性にあった役割に振り分けられるようにしたい、という願いのために神に頼み込んだ。
それに応えて人族の神は才能も含めた能力の開示の技能を人族に与えた。
それにより役割分担の効率が上がった結果生存率の大きく上がった人族は数を増やし、居住域は当時よりはるかに広くなった。
ただ、そうなって種族として余裕ができると問題が発生した。
無能だろうと頭数が必要だった昔と違い能力が低い赤ん坊を育てる価値がないと殺すか魔物の生息域に捨てる行いが増えたのだ。その行為を愁いた人族の神は能力の開示可能な時期を15歳まで遅らせることにした。ようするに今の能力開示の儀の始まりだ。
正直俺はその恩恵を受けていた恵まれた環境だったのだろう。伯爵家に生まれて平民よりは良い暮らし、教育を受けられた。だから低い能力なりに今こんな風に歴史をざっくり語れる程度には知識もある。
もし生まれたときに表示されるような状況だったら普通に殺されて終わりだった。だから間違いなく恵まれている。
だが、だからと言って能力開示の儀式の後受けた4年間の境遇に才能がないからだと納得はしても仕方ないと思ったことはないし今こうやって進んで死ぬような状況にあいたいと思ったこともない。
「死ぬしかないのか」
壁の出っ張りを何か所か指で掴んで速度をかなり抑えたが落ちるのは止められず、運よく即死は避けられても全身の骨は折るわおそらく内臓も痛めたではっきり言って生き残るすべがない。死ぬしかないのか、なんて思わず言ったが言うまでもなく数時間もしないうちに死ぬだろう。
落とされる前に聞いた
『これで楽になれますね』
とぞっとするほど冷たい表情をしていた能力開示前は優しくしてくれた姉代わりだった世話役の声を思い出した。
正直ひどい扱いだったと思う。食事抜きはよくあることであったとしても弟よりはるかに、いや貧民並みの食事だっただろう。能力開示で悪食なんて技能がつくくらいにはひどい食事が当たり前だった。衣服も使用人より出来の悪い粗悪品で領民からはカラベルム家に奴隷が紛れているなんて笑われていたくらいだ。
そんなひどい日々を思い出した。死ぬのが確定した今思い返した。そしておもわず口をついて出てきたのは
「誰もいなくて静かな分、迷宮のほうがよっぽどましだなっ! はは! ごぼっ」
自分を慰めるためじゃなく心底そう思っていた。
しんでしまう。だがここではカラベルムの人間がいない。領民がいない。罵声を浴びせるものがいない。暴力をふるうものがいない。
静かだ。あれらが周りにいる中で笑われながら死ぬよりはずっとましな死に方だと思った。
「迷宮で死ぬほうがましだな」
<その言葉、真実か>
「は?」
その日、俺は初めての神の啓示を受けた。
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