第8話 悪役令嬢はメイドがお好き
シュラタン村に戻ると村人達が心配して駆け寄って来た。
「聖女様大丈夫でしたか? お怪我はございませんか」
「大丈夫よ、心配してくれて有難う、そうそう、ちなみにさっきの貴族達がこの村にまた来ても、あの人達はおかしな人達なので余り関わらない方がいいわ」
「え? あっはい! 分かりました」
「ところで少し疲れたので宿屋……は無いようね、何処かゆっくり休める場所はあるかしら? アリアは昨日何処に泊まったの?」
「私は村長さんの家に泊めて貰いましたけど……」
「聖女様方、こちらへ、先ほど皆で空き家を掃除いたしましたので」
数人の村人がやって来て、私達を空き家に案内してくれた。
「わざわざごめんなさいね」
「とんでもございません聖女様。好きに使ってください。大したものはご用意できませんが後ほど食事をお持ちしますので」
そう言い村人達は行ってしまった。
「さてと……アリア何か私に言う事はあるかしら?」
「申し訳ございません、ヘレお嬢様」
「アリア、私は別に謝罪が聞きたい訳ではないのよ、お父様に何を言われたの?」
「アタマス様にですか?」
「……違うの? お父様に何か言われたから出て行ったのではないの? ではなんで私に何も言わずに出て行ったの?」
「はい、置き手紙にも書きましたが故郷に問題が起きたので……もしかして置き手紙は読まれておりませんか? 黙って出て行った事に関しては謝罪します、でも直接だと決心が鈍るから……」
「ちゃんと読んだわ、だからよ、だってアリアの故郷はこの国との戦争でもう今は無いってアリア、貴方が言ったのよ」
「えっ!? ああそう言えばそんな設定をごにょごにょ……」
「え? なんて言ったの? よく聞こえなかったわ」
「えーと、そうですね、実は故郷と言うより故郷に居た人がですね――」
あらあら、いつも冷静なアリアの目が泳いでいるわ……。
「――アリア! 何か誤魔化そうとしていない? 本当の事を言ってちょうだい」
「……分かりました。そもそも私がこの国アリエスに来たのは昔お世話になった人を救う手段がこの国に在ったからなのです」
「そうだったのね、その過程で私と出会ったって事ね」
「はい」
「それでアリアが出て行ったって事は、その手段が手に入ったか不要になった、もしくはアリエス共和国にその手段が無くなってしまったから、かしら?」
「はい……無くなりました」
「そう……貴方が出て行ったのは、私がお父様に呼ばれた話をした次の日の朝の事。魔法国家キャンサーの貴族との婚約破棄、そのおかげで獣人国やドワーフ国を蹂躙する計画が振り出しに戻ったって話を貴方にした後よね、これって何か関係があるのかしら?」
アリアを観ると少し驚いた顔をしていた。どうやらアリアに似せて作ったぬいぐるみが豚さんに似ていた事は関係ないようね。良かったわ。
「流石です、ヘレお嬢様、でも理由は聞かないで頂けると有りがたいです」
「……分かったわ、私はてっきり獣人国に戻ったのかと思ったのよ、でも目的地はその先にある魔法国家キャンサーだったのね、まあアリアなら獣人国も通れるから、わざわざ私達人間族みたいに船で行くか、迂回して山道を行く必要も無いしね」
アリアを観ると凄く驚いた顔をしている。今、何か気になる発言したかしら?
「やはり私が獣人族に見えているのね、今までもこの人の言動から、もしかしたらと思っていたけど聞く訳にもいかず……今ので確証したわ、でもなぜ、ボソボソ」
アリアが小声で何かを言っている。
「え? 今なんて言ったの、よく聞こえなかったわ」
「い、いえ、流石ヘレお嬢様と思っただけです」
「それで、その昔お世話になった人を救う手段って言うのを私が手伝ったら邪魔になるかしら?」
「有りがたいですがヘレお嬢様にそんな事はさせられません」
「何言っているの、もう私は屋敷に戻れないし戻る気も無いわよ、アリアが私の事を邪魔だと言うのなら、私はこのまま一人旅に出るだけよ」
「何かやらかしたのですか? もしかしてあの黒くて大きいゴーレムに関係する事ですか?」
「ゴレクサよ、まあそれもあるけど、屋敷に戻ったら私は私の意志でもう生きていけないから、最近何故かお父様に反論するのも面倒くさくなってきてお父様のボイオティア家のただの都合のいい道具になりつつあるのよ、だから戻らない」
「……分かりました、そういう事ならば私と一緒に行って下さると助かります」
「ほんと? いいの? ありがとう、ふふ」
その後お夕食が運ばれてきて、私達はお食事をしながらお互いのここまでの旅の話をして盛り上がった。どうやらアリアは途中で盗賊と三回も出会ったらしいが全て排除したみたい、そのお陰かしら? 私は一度も会わなかったわ。それにしても治安が悪いわね。大丈夫かしらこの国。
「そういえばヘレお嬢様、先程の決闘ですが、どうして相手のゴーレムをスキルで操らなかったのですか? そうすればわざわざ戦わなくて済んだのでは?」
「うーんそれでも良かったのだけど、そうすると何か私の力で勝った気がしないと言うか、私のスキルじゃなくあの先輩なら暴走したとか勝手に思い込みそうだし」
「結局は力でねじ伏せたいほど嫌いな人って事ですね、でも何か忠告していましたよね?」
「忠告? ああ、あの先輩のスキルで作った『ダブルコア』を搭載させたゴーレムを『学院対抗ゴ-レム武道会』に出すって件ね」
「そうです、それです」
「アリアに話した事はあると思うけど、一年くらい前に研究室でゴーレムが暴走した事件があって、研究室が壊されて、生徒にも怪我人が出たんだけどそれが私のせいにされたのよ。なぜならそのゴーレムのコアに組み込まれている魔方陣、つまり思考回路の半分以上が私の作った物だったから」
「申し訳ございません、その話は初めて聞きました」
「あら、そうだったかしら? それでね、犯人扱いされた私は無実を証明する為に色々調べたのよね。そしたら原因はそのゴーレムに搭載されていた二つのコアのせいだったのよ」
「あの男の『ダブルコア』とか言うスキルですね」
「そう、普通は一つのコアにまとめているのに二つの『計算専用のコア』と『駆動専用のコア』に分けることが出来る画期的なスキル。でも
「なるほど、なんとなく分かります」
「『駆動専用のコア』の方の魔力が切れる分には暴走と言っても、長考したまま動かなくなるだけだから被害は無いのだけれど、『計算専用のコア』の魔力が切れた場合は理性を失った魔物の様に暴れてしまうのよ」
「でもその暴走が起こったのは一年前に一度だけなのですよね?」
「それは私が毎回今どんな魔方陣が組み込まれているか調べて二つのコアの魔力使用量が同じになる様に、意味のない魔方陣とかを組み込ませて調整していたのよ、勿論あの先輩は私の言葉なんか信じないし、ましてや私の考えた魔方陣なんか組み込んでくれないから、他の上級生にお願いして組み込んだけどね。悪役令嬢と呼ばれている私でも一応本家の息女だから他の先輩は私のお願いを無下には出来ないから、まあ分家の先輩と違って、私を邪険に扱った事がお父様の耳に入るのを怖がったのでしょう」
アリアにこの話を聞いてもらって少しすっきりしたわ。一応他の研究会の生徒達にもこの話はしたのだけど、裏で手を回されたのか私より先輩の方に付いたわ。悪役令嬢になったのもそのせい。思い出しちゃったわ。あっ? そう言えば研究会を辞める時にゴーレムの攻撃力を二倍にする思考回路の魔方陣を描いた羊皮紙を置いてきたけどまさか組み込んでいないわよね。あれは魔力使用量が多いのよね……まあ別に私には関係ないか。
「そうですか、そのアタマス様もヘレお嬢様に出て行かれて今頃後悔していらっしゃると思いますよ」
「そうね、何処の誰だかは分からないけど、次の婚約相手も破棄しなきゃならなくなったものね」
「そうではなく、ヘレお嬢様がスキルで作ったぬいぐるみや服の事ですよ、きっとバラニーお嬢様に差し上げた物が凄い事に気づいて慌てふためいていますよ」
「そうかしら? それならバラニーにあげたアリアに似ている可愛い動物の形をしたポーチの方が凄いと思うけど」
「マジックバックも差し上げたのですか? 小さいうちからあまり便利すぎる物に慣れてしまうのはどうかと思いますが」
「そうね、でも小さいポーチだから、最初に私が作ったのと同じ入り口が15cmくらいのポーチよ、ただもう会えない今の状況になって思うともっといいものをプレゼントすればよかったと後悔しているわ」
会えなかったのはたったの一週間だけだったのにまだまだ話足りない事がいっぱいあった。でももう夜も更けてきたので私達は寝ることにした。一緒に、ふふ。
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