第7話 悪役令嬢は先輩がお嫌い(ざまぁ回その壱)

 すべての子供達の治療をおこない、広場で休憩をしていると突然どこかで聞いた事のある声が聞こえてきた。


「見つけたぞ!! 本家の出来損ない女」


 ――プリクソスだった。それにしても学院に居た頃はそこまで露骨な悪口は言ってこなかったはずなのだけど。


「プリクソス先輩・・、なぜここに?」


「なぜだと? 勿論本家の当主に頼まれてお前を連れ戻しに来たんだよ」


 お前呼ばわりですか……それよりももしかしてゴレクサの件がばれた? それともボイオティア家の利益になりそうな私の嫁ぎ先でも決まったのかしら?


「聖女様そちらの方は?」

 

 先程の女性が私を心配して訪ねて来た。


「心配かけてすいません、只の古い知り合いです」


「聖女様だと!? 村人をどう騙したのか知らないが、お前には外れスキル持ちの悪役令嬢がお似合いだ」


「はぁ……それでなぜ先輩が?」


「勿論僕がお前と違って優秀だからに決まっているだろ」


「答えになっていませんが……そうですか、それで戻るのはイヤだと言ったら?」


「言わせないさ、そのために僕はプリクソスⅠ号(雷の杖装備Ver)を連れて来たんだから」


 プリクソスⅠ号? 後ろの、杖を持って居る3m程の石のゴーレムの事かしら?ゴーレムに自分と同じ名前を付けるとか恥ずかしくないのかしら?


「外れスキルの生身の私を捕まえる為だけにわざわざゴーレムを連れてきたの?」


「お前を連れて歩くならゴーレムの拳の中の方がお似合いだろ。はっはっは」


 はぁ、ただの分家の嫌がらせね。馬車でも用意してあるのなら少しは考えてあげたのだけど。


「ヘレお嬢様、いかがなさいますか?」


「ええ、勿論抵抗するわよ、では先輩、ここでは村に迷惑がかかるのであそこに見える草原で勝負しましょうか?」


 私は村から少し離れた所にある草原を指さした。


「はぁ? 勝負? 今勝負すると言ったのか? 僕の有能なスキルで魔法の杖を使う事が出来るこのプリクソスⅠ号と?」


「ええそうよ、今なら謝れば今回は見逃してあげるわよ」


「謝る? 見逃す? 何を言っているんだお前は! いいだろう勝負してやる」


 そう言いスタスタと部下とゴーレムを率いて私より先に歩いて行った。



「さて、お望みの場所に到着したが、どうやって勝負するんだい? お前のジョブは確か『裁縫士』でスキルが『繊維・・』だったな、もしかして社交界に着て行く衣装でも作る勝負とか言わないでくれよ。僕にはそんな庶民のような真似は出来ないからね、それは卑怯だよ」


 卑怯ねぇ、私がゴーレムを持って居ないと知っていて自分はゴーレムを連れてきているくせに。まあ今は持って居るけど。


「先輩と違って私はそんな自分に有利な事は言わないわよ、勿論武力で勝負よ。ところで私がそのゴーレム君に勝ったら素直に帰ってくれるのかしら?」


「ははは、ホントに僕のプリクソスⅠ号と戦う気なのかい? いいだろう、部下には手出しさせない。もし一対一で勝てたら大人しく帰ろう、勝てたらな」


言質げんちは取ったわよ」


 私はマジックバックからゴレクサを出し、すかさず『マリオネット戦意』。

 ゴレクサのコアに右手から魔力で出来た針を刺す。先程試した結果コアが命令を部分ごとに出してくれるので針は一本で充分だったが念の為に二本刺しておく。


「さあ、ゴレクサ、ご挨拶なさい」


 命令を流すとゴレクサはまるで貴族のする挨拶の様に片膝を付き片手を胸に当ててお辞儀した。


「なっ!? なんだそのでかくて黒いゴーレムは!? 一体どこから現れた? ズルいぞ! 卑怯者め!」


 酷い言われようだけど私は気にしない。


「あら? じゃあ負けを認めて大人しく帰ってくれるのかしら?」


「ふ、ふざけるな! そんなのどうせ見掛け倒しに決まっている、中身は空っぽだろ、いや人間でも入っているのか? だってお前は『ゴーレム使い』じゃないだろ! そうだ、動くはずがない!」


「ゴレクサ、立って戦闘態勢に! ねっ、ちゃんと動くわよ」


「くっそ、プリクソスⅠ号! 雷の杖に魔力を装填してあの黒いゴーレムに雷魔法で攻撃して、中の人間ごとまる焦げにしてしまえ!」


 そう言うとプリクソスⅠ号が右手に持って居た杖の先の水晶が光り出し、そこからガガガガッと雷魔法が投射された――がゴレクサには全く効いていない。


「く、本物のゴーレムなのか? となると無能が操っていると言ってもゴーレムにはこの程度の魔法は効かないか」


 うーん、一々癇に障るのよねぇ。


「ならば、プリクソスⅠ号、そのでかいだけのゴーレムに体当たりだ! きっと動きは遅いに決まっている」


 プリクソスⅠ号がダッダッダッダと走りだした。うーん遅いわ。


「ゴレクサ、こちらも体当たりよ!」


 ゴレクサがダダダダと走りだし、向かって来るプリクソスⅠ号とぶつかりプリクソスⅠ号が吹っ飛び地面をゴロゴロと転がっていく。更に私は追い打ちをかける。


「ゴレクサ、ジャンプして思いっきり踏みつけなさい! コアが壊れるまで何度でも踏みつけるのよ」


 ドズンッ ガシッガシッガシッ パリン!


 どうやらたったの三踏みでコアが割れたらしい。すると見る見るうちにプリクソスⅠ号が崩れて行き地面に石コロが広がっていった。


「Ⅰ号ぉぉぉぉ、ああ、僕のⅠ号が……嘘だ、嘘だ、こんな女のゴーレムに負けるなんて! おいお前等、仇を討て、全員で攻撃しろ!」


「え? プリクソス様、そのぉ一対一の勝負では? それに私達の魔法ではあのゴーレムには効かないかと」


「うるさい! だまれ! ゴーレムに効かないなら直接あの女を狙えばいいだろ」


「ほ、本家のお嬢様に対してその様な事は……もしばれたら」


「お前等、僕のいう事が聞けないのか、殺してしまえばいい、死体はしゃべらん」


 部下達を見ると申し訳なさそうな顔をしていたが、その中の剣を持った一人が物凄い形相で私に向かって突っ込んで来た。


「早い!? ゴレクサ、その男を薙ぎ払って」


 ゴレクサの拳がブンッと音を立てて振られると男は剣で防いだがそのまま遠くまで吹っ飛ばされた。残りの二人は魔法を詠唱していたらしく杖の先から炎の矢と、岩の塊が私に向かって飛んできた。


「ゴレクサ、私を守って」


 ゴレクサは私の目の前に大きな手を広げ放たれた魔法を握りつぶした。危ない危ない、そうよね、私のジョブ『裁縫士』は生産職でしかも下級職なのだからいくらゴレクサが強くても私自信にはステータス補正がほぼ無いはず。魔法属性の繊維で編んだ服を着ているから通常の物理攻撃や魔法攻撃くらいなら耐えられるけど、それ以上の攻撃をされたら私の目では追えないし、当たったらひとたまりもないわね。なら、今のうちに私自信どれくらい戦えるかちょっと試してみようかしら?


「ゴレクサ有難う、そうね、じゃあ貴方はそっちの土魔法使いに体当たりしてやっつけて、火魔法使いの方は私がやるわ」


 私はマジックバックから水色のぬいぐるみを取り出した。


「『マリオネット戦意』ですわ」


 今度は左手から魔力で出来た針を五本だしぬいぐるみに刺す。そして先程の剣士が落とした剣を拾って装備させ火魔法使いに向かって飛行させた。


「なんだ? 来るな! 強き炎よ逆らうものを貫け『ファイヤーアロー』」


 炎の矢は水属性で作ったぬいぐるみに当たったが、空気中で拡散し消滅した。

 どうやらぬいぐるみの属性値の方が圧倒的に高かったようだ。


「なに!? 効かないだと! 来るな! 来るな! 『ファイヤーアロー』、『ファイヤーアロー』、『ファイヤーアロー』、『ファイヤーアロー』」


 だから効かないのよ。私はそのままぬいぐるみを飛行させ剣を火魔法使いの首に軽く押し付けた。スーと血が流れる。


「待ってくれ! 待ってください、降参します! あの男に命令されて仕方なく」


 でも私を殺そうとしたからね、どうしようかしら? そうだわ! 剣を持ったぬいぐるみを少し上に移動させ火魔法使いの頭を剣でスパッと斬った。


「ひぃぃ」


 火魔法使いの頭をみるとてっぺんの髪が無くなっていた。ズボンも濡れていた。余り近づきたくないし、まあ今回はこのくらいで許してあげようかしら。


 そしてゴレクサの方を見ると丁度土魔法使いが出した土壁ごと体当たりで吹っ飛ばしているところだった。


 後は――私はプリクソスの方を見た。


「さてと、先輩は約束を破るだけではなく私を殺すように命令したわよね。これは私に殺されても文句は言えないわよね」


「くそ、ズルいぞ、そんなゴーレムを隠し持っていたなんて、こんなことならプリクソスⅡ号も連れてくるんだった、あのゴーレムなら勝てたのに」


「プリクソスⅡ号?」


「ああそうだ、『学院対抗ゴ-レム武道会』用に作っているゴーレムだ。勿論僕の『次世代型ゴーレム』スキルの『ダブルコア』を搭載している最強のゴーレムだ」


「ああ『ダブルコア』ねぇ、ゴーレムには一つのコアしか搭載できないのに、確か処理速度を上げる為に、『計算専用のコア』と『駆動専用のコア』の二つの分けたコアを搭載できるようにするスキルでしたよね?」


「その通りだ、僕のゴーレム思考回路研究会のゴーレムにも搭載しているからお前もそのすごさは知っているだろう!」


「はぁ、まさか本当にあのゴーレムを『学院対抗ゴ-レム武道会』に出場させるつもりですか?」


「あたりまえだろ、その為にずっと研究していたんだ」


「止めておいた方がいいですよ」


「何だと! ははーんどうやら僕のスキルに嫉妬しているようだね、無理もない、だってお前のスキルは外れなんだから」


 はぁ、折角忠告してあげたのに、まあいいか。それより――私は剣を持ったぬいぐるみを先輩の方に移動させた。


「ま、待て! 僕を傷つけたら父上が許さないぞ、いいのか本家と分家で戦争になるぞ、お前にその覚悟があるのか?」


「傷つけたら? 何言っているのかしら、先輩さっき言っていたじゃない、殺してしまえばいい、死体はしゃべらないって」


「な、待て、待ってくれ。僕が悪かった、もう帰るから、見つからなかったって報告するから、だから許してくれ、いや許してください」


 そういい先輩は綺麗な土下座をした。


 はぁ、どうしようかしらこのまま許してもロクな事にならない気がするわ。だったらもう少しお仕置きしといた方がいいわね。『ソーイング戦意』、私は魔力の糸と針を出し、先輩の手足を縛るように縫った。


「おい、止めろ、何をする気だ! くそ、何だこの糸は? 切れないぞ」


「ゴレクサ、地面にこの男の顔だけ出して埋められるくらいの穴を空けて」


 ゴレクサは指を三本ほど地面に突き立てグリグリとほじり穴を空け、そこに先輩を摘まんで入れた。


「ひぃ、おい、止めろ! 止めてくれー」


 注文通り丁度良い深さだったらしく立った状態で顔だけ地面から出していた。


「アレクサ、隙間を土で埋めて」


 アレクサは隙間を土で埋め終わると、命令はしていないのにパンパンと軽く土を叩き固めてくれた。これで一人では抜けだせないわね。


「な、出られない、おい助けてくれ! この僕が土下座までしたんだぞ!」


 五月蠅いわねぇ、私は剣を持ったぬいぐるみをまた操作して、火魔法使いと同じ髪型にしてあげた。


「ぎゃぁあ、な、なんて事を! 酷い! この悪役令嬢め! 僕にこんな事をして許さないぞ!」


「ゴレクサ、五月蠅いのでそこの男を殺さず静かにさせて。先輩とはもう会う事は無いと思うから最後に言っときますね、さようなら」


「く、くそっ お前は、結局僕の事を一度も会長と呼ばなかったな」


 ああ、なるほど、確かに私は意図して呼ばなかったけど、気にしていたのね。


 そしてゴレクサが中指でチョンと先輩の首の後ろに打撃を加えた。すると先輩はカクンッとこうべを垂れた。どうやら気絶したようね。気絶だよね? アレクサ?


 火魔法使い以外の部下の二人はまだ気絶しているので、これで許してあげようかと思ったけどアリアをチラリと見たら『甘いですよ、お嬢様』という顔をしていたので、その男達も先輩と同じように手足を縫って地面に埋めて髪型もお揃いにしてあげた。


 おもらしてっぺん髪無しお兄さんの火魔法使いに少しだけ近づき『もしまた追って来たら次は容赦しないわよ』と警告すると無言でコクコクと頷いたので、『じゃあ後は宜しくね』と言い、マジックバックにゴレクサを戻し、後ついでに戦利品として彼らの持って居た魔法の杖二本と剣を一本貰っておいた。


 そして今まで黙って観戦していたアリアに『村に戻るわよ』と言うと『石のゴーレムが持って居た雷の杖は要らないのですか?』と聞いて来たので、『あら、忘れていたわ』と答え雷の杖もマジックバックに仕舞った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る