第三章 私の外れスキルは『せんい』 ~アリエス共和国のヘレの場合

第1話 悪役令嬢はモフモフがお好き

 ここはこの世界の南東に位置し、国土は小さいが頻繁に隣国と争いを続けている国『アリエス共和国』


 戦争時は一般兵の約八割がゴーレム兵と言う別名ゴーレム国家アリエス。


 この国では貴族の家に生まれた十才から十六歳の子供達は学院に通う義務がある。庶民の子供でも才能かお金があれば学院に通う事が出来る。


 ヘレ・ボイオティアもゴーレム錬金術の名家の三女に生まれた。彼女は生まれつき髪の毛の色が両親や他の兄弟と違い真っ白だった。まるで羊の様な色。そのせいなのかは分からないがあまり仲が良くない。そして現在この国にある四つの学院の中で一番歴史の有る『アリエス第一学院』に通っている。


 学院の生徒達は、通常の授業の他に、最低一つの研究会に在籍しなければならない。勿論人気があるのは『ゴーレム戦術研究会』や『ゴーレム材質研究会』などゴーレム関係の研究会である。

 なぜならこの国では研究会のそれぞれの一年間の成果を集大成として全研究会で協力し一体のゴーレムを作成して、毎年行われる『学院対抗ゴーレム武道会』で全国民の前で披露できるからだ。

 勿論この『アリエス第一学院』は毎年優勝している。

 

 そしてヘレも当然研究会に所属している。ただし悪役令嬢として――。


~アリエス第一学園 【ゴーレム思考回路研究会】研究室


 ゴーレム思考回路とはゴーレムのコアと呼ばれるゴーレムの全てを司る器官に半透明の特殊な羊皮紙に【言語の理解や推論、及びそれに対する解、その解に付随する各部位の稼働などの手順】を描いた魔方陣、要は人工知能を魔方陣にして何層にもワタって組み込んだもので、そのコアを元に実際にゴーレムを生成し動かしてみてゴーレムの能力アップを試みる研究会である。


 但しゴーレムのコアの作成、魔方陣の組み込みやゴーレム本体の生成、ゴーレムの起動や稼働にはそれ専用のスキルが必要で、そのスキルも持って居ない上級生や『祝福の儀』を受けていない下級生達は、コアに組み込む魔方陣を考えて羊皮紙に描き込む事しかできない。


 なのでスキルを持って居ない生徒は自分の研究成果を確認する為には、顧問か、スキルを持って居る上級生に頼むしかない。


「ヘレ嬢、どうやら君はこの伝統ある第一学院『ゴーレム思考回路研究会』のメンバーとして相応しく無いようだ。すまないが出て行ってくれないか」


 突然、研究会会長のプリクソスが私に告げて来た。


「は?」


「聞こえなかったのかい? どうやら君はスキルだけではなく耳も悪いようだね」


 スキル? ああ、なるほどね、そういう事ですか。


「聞いたよ、先週末に受けた『祝福の儀』の結果を、ジョブが『裁縫士』でスキルが『繊維・・』とか言う外れスキル……おっと失礼、貴族には似合わないジョブとスキルだったらしいね」


「プリクソス先輩・・、ジョブやスキルは個人情報のはずなのに随分と、お詳しいのですね」


「そ、それは学院中で噂になっていて、たまたま僕も小耳に挟んだだけだよ」


 噂? 教室で授業を受けていた時はそんな感じはしなかったけど。その後、研究室に来るまでの短い時間に誰かが噂を流したっていうのかしら。例えば目の前の先輩とかがね。まあ、その内ばれると思っていたから別に良いけどね。


「そう、でも先輩は確かにこの研究所の会長だけど、不祥事も起こしていない生徒を首にする権限は無いでしょう?」


「確かに僕には権限が無い、だからお願いしているんだよ、君は来年この研究所の七年生、つまり最上級生になる。それなのに君のスキルだとゴーレムを動かすどころか、コアすらも作ることができない」


「確かにそうですね、でもスキルを持って居なくても、今まで通りゴーレムの思考回路の魔方陣を研究することは出来ますわ」


「はは、下級生と一緒にずっとそんな事をするのかい? 一応君はこの国『アリエス共和国』のゴーレム錬金術の本家であるボイオティア家のご息女なのだぞ。分家の出の僕とは違ってね、まあ僕は『上級ゴーレム使い』と言うジョブと『次世代型ゴーレム』と言う有能なスキルを持って居るけどね」


 邪魔だった本家の私をやっと追い出せる口実が出来たって事かしら?


「それに今まで君がしでかした事だってある、ゴーレムを暴走させ研究員に怪我を負わせたり、研究室の一部を破壊したり、それに――」


「――分かりました。最後に昨日考えたゴーレムの攻撃力を二倍にするこの思考回路の魔方陣を試したら辞めます」


 私はカバンから一枚の半透明の特殊な羊皮紙に描かれた魔方陣を取り出した。


「何!? 二倍だと!? そ、その必要は無い。あとは僕達に任せたまえ、君の作った物など危険だし、そもそも思考回路の動作結果など君にはもう無用だろ?」


「……そうですか、先輩・・、それに研究会の皆さんお世話になりました。では」


 私は置いていた荷物をまとめて、研究所を後にした。勿論誰も私を擁護などしないし引き止めたりもしない。それどころか目さえ合わせようとしない。

 私は恐れられているし、嫌われているから。だって悪役令嬢ですもの。


 私はそのまま学院を出て外に待機していた馬車に乗りこんだ。


「ヘレお嬢様、本日はいつもよりお早いですね」


 私の専属メイドのアリアが特に驚いた様子もなく聞いて来た。


「色々あってね、それよりアリアこそなんでこんな時間から馬車で迎えに来ていたの?」


「メイドの感です」


 馬車にゆられ屋敷に向かう道中、私は色々と考えた。

 私は人付き合いが苦手だ、いや、人間が嫌いだ。勿論亜人も嫌いだ。

 

 一年前研究室でゴーレムが暴走した事件があって、プリクソスが私を犯人扱いした。勿論犯人ではない私は否定したが、そしたらやっていない証拠を出せと言って来た。そんなものは無い、だから私は無視した。暫くすると他の研究員達も私が犯人だと決めつけて来た。どうせプリクソスの仕業だろう。その内、仲の良かった子達まで私から離れて行った。面倒くさくなった私は、その後何か事件が起きても『はいはい、私ですよ』と自ら悪者役を買って出た。そう悪役令嬢の誕生ね。


 この国は隣国とちょくちょく小競り合いをしていたりするが、私の家は名家なので昔は停戦時に他の種族のお偉いさん達と交流があったりもした。

 例えばエルフ族。あれはダメね、私達人間族を見下している。ドワーフ族は鍛治と酒の事しか考えていない。そして獣人族。ただの馬鹿、何も考えていない。

 この国が人間族至高主義になるのもある意味わかる気がするわ、まあ、もしかしたら私が会った人達が極端だったのかも知れないけど。


 でもメイドのアリアだけは別。可愛いお耳に、綺麗な毛並みに、モフモフの尻尾。それがぜ~んぶ真っ白。そう彼女は私と同じで毛が真っ白なの。調べたら白狐びゃっこ獣人と言う珍しい種族。そして私のたった一人の理解者であり親友。


 そんな事を考えていると屋敷に着いた。アリアを伴い屋敷の中を歩くと、他の使用人達は、私を避けるように端に避ける。別に私に敬意を払っている訳ではない、私に関わりたくないだけ。怖いだけ。睨んでいる訳ではないのだけれど、私の白い髪の毛が不気味でしかも目が怖いと陰口を言っているのを聞いた事が有る。


 自分の部屋に入り、アリアと二人になりやっと私は落ち着くことができる。


「ヘレお嬢様、お茶でございます」


「ありがとう、ゴクッゴクッ、いつもと違うけど美味しいわ、何てお茶かしら?」


「猫の糞です」


「……あらそう、美味しいのね、知らなかったわ」


 アリアとはこんな風に主従関係ではなく、親友みたいな付き合い方をしている。

 ただちょっと気になったので後で書物を漁って調べたら、そういうお茶は確かに存在するが使っているのは糞その物では無いと書かれていたのでほっとした。


「ヘレお嬢様、研究会を辞めて明日からどうなさるおつもりで?」


「あら? 私、辞めたという話をしたかしら?」


「いえ、メイドの感です」


「そう、凄いのねメイドの感って、そうね、学院は辞めてどこか遠くへ旅にでも行こうかしら」


「ゴーレムの思考回路の研究はもうよろしいので?」


「あれは元々、生徒は最低一つの研究会に在籍しなければだめだからと、ゴーレム思考回路研究会を作ったのがボイオティア家だからと言う理由で、まあ仕方がなくね、でも何かを作るのは嫌いじゃないから真面目にやっていたのよ、ただあの分家の先輩が、私を目の敵にしているから……もう相手にするのも疲れたわ」


「そうでございますか……」


「さてそんな事より今日もまた、私のスキル『せんい・・・』の特訓よ、どんどんレベルアップさせないとね、あの先輩は多分私のジョブの『裁縫士』からスキルを『繊維』と勘違いしたようだけど『繊維』じゃなくて『せんい』なのよね」


「『ステータス』! ですわ」


―――――――――――――

ヘレ・ボイオティア (女、15歳)

種族:人間族


ジョブ:裁縫士

スキル:せんい Lv1:『ソーイング戦意』

―――――――――――――

 名前や年齢に種族、ジョブ、スキル、スキル技などの自分の情報が頭の中に流れ込んできた。

 

―――――――――――――

『裁縫士』:針や糸を使う事に長けたジョブ。


『ソーイング戦意』:戦意喪失しないかぎり、両手指から魔力で作った糸や針などを出す事ができる。

―――――――――――――

 と更に頭の中に情報が入って来た。

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