第6話 幼女

 俺は宿屋に戻り荷物を片付け親父さんや娘さんに挨拶し、勘当されてからずっとお世話になっていた宿屋を出た。

 そのあと、冒険者ギルドに顔を出し、活動拠点を別の街に移す旨を伝えたら、いつもの受付のお姉さんが寂しそうな顔で『残念です』『ディオさんは今Eランクなので特別な理由がない限り二週間以内に最低一つ依頼を受ける必要があります』『他の街に行く護衛依頼でもあれば丁度いいのですが……Eランクでは護衛依頼は無いのですよ』と色々心配してくれた。


 そう、俺は未だに冒険者ランクは『E』なのだ、なぜなら『スライム討伐』しかしていないから……。

 

 後は近隣の町や村の場所や距離、情報もお姉さんに教えて貰い、最後にギルマスに挨拶でもした方がいいのか聞いたら、『新人冒険者が活動拠点を変えるからと言ってわざわざ報告する必要はないですよ』との事だったので、そのまま冒険者ギルドを後にした。


 その後、雑貨屋に寄り食料やポーション、野営道具などを買って十五年間生まれ育った『辺境の街イーダース』から旅立った。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


「『二連斬り』!」


「グギャアァ」


 ボトリッとゴブリンの首が地面に落ちる。ゴブリンの討伐証明部位の『右耳』を削いで麻袋に入れる。

 街を出て数時間、路銀節約の為、乗合馬車ではなく歩いていたが俺はすでに後悔していた。


 さっきからちょくちょくと魔物と遭遇して、全然ゆったり出来ていないからだ。

 ゴブリンやコボルトなどいわゆる雑魚なのだが、スライム以外の魔物とは初めて戦ったのですごく緊張した。

 

 いくら弱いと言われていても、五,六体集団で来られると厄介だった。

 ところで馬車道にこんな頻繁に魔物が出るものなのか? ここら辺はまだポルックス家の領地のはず。父上は何で放置しているんだ? 報告が上がってないのか?


 ここ最近の父上の仕事は活性化してきた領地内の魔物討伐。

 俺によく『ディオよ、祝福の儀が終わり、ジョブやスキルを授かったら魔物討伐は全部お前とスクロイに任すからな』と笑いながら言われたものだ……。


――疲れてきたので少し休憩でもしようと思った矢先、ここから少し離れたところに二台の馬車が見えた。

 遠くて声は聞こえないが何かと争っているようだ……魔物――いや盗賊か。


 一瞬悩んだが助けるべきと判断し、馬車に向かって駆けだした。


「くそっ、盗賊の数が多い」


「んなことは、いちいち言われなくても分かっている!」


「お前ら死にたいのか! 口より手を動かせ! チッ、また一人仲間やられたか」

 

「ったく、雇った冒険者共は使えねぇな、これでこっちは四人、盗賊はまだ十人以上いるぞ、どうする? 最悪坊ちゃん、じゃなく若旦那見捨てて俺達だけでも逃げるか?」


「逃げるだと? そんなことして戻ったら旦那に殺され――」


 ダッダッダッ シュッ


「――加勢します!」 剣を抜き走って向かってきた俺に、護衛も盗賊達もこちらを見て一瞬驚いた顔をした。


「『二連斬り』!」

 

 スパパッ スパパッ


「なんだ!? ギャー」「がっ?」


 近くに居た盗賊二人の首を跳ねる。


「助太刀感謝する! 謝礼は期待していいぞ!」


 護衛の中で一番強そうな男が答えた。


「よし! ここが正念場だ、俺達も踏ん張るぞ!」 

 

「「「よっしゃあ!」」」


 本当なら盗賊や護衛の人達が良いスキル持っているかもしれないので、観察しながら戦えればいいのだけれど――流石に命のやり取りをしているこの状況だと厳しいよな。逆にスキルを使わせる前に倒さないと。


「『二連斬り』」、「『パリイ』!」、「『二連斬り』!」


 スパパッ ガキン ズバッ


「こいつ強いぞ! うわぁ死にたくねぇー」


 ガキン ズバッ


「『パリイ』」、「『二連斬り』!」


「た、助けぎゃぁ」


 辺りを見渡すと、全ての盗賊が地面に横たわっていた。勿論すべて息は無い。町や村が近ければ生け捕りにして犯罪奴隷として売るという方法もあったようだが。


「いやぁ、助かったぜ、兄ちゃん。若旦那ぁ! もう大丈夫ですぜ!」


 馬車の中から小柄だが割腹がいい青年が安堵な表情で降りてきた。


「良かったぁぁ、撃退できたのですね! もうだめかと思いました」 


「若旦那、こっちの兄ちゃんが助太刀してくれなければやばかったですよ」


「おお、そうですか、どうも有難うございます、私は『アキンド商会』のメブスタと言います、ぜひお礼をさせて下さい」


「わた、俺はディオ、冒険者です」


「それにしても若いのに兄ちゃん強いなぁ、良いスキル技も持っているし、あの技は確か……兄ちゃん『中級剣術士』か」


「……いえ、俺は『中級剣術士』じゃないです……」


「ああ、すまんすまん、人のジョブやスキルを詮索するのは良くないよな、そんじゃ兄ちゃんは若旦那と謝礼の話でもしていてくれ。俺達は死体を片付けとくぜ、お前ら休んでないで手伝え」


「「「はいよっ」」」


 メブスタさんから聞いた話によると、ここから馬車で三日ほどかかる距離にある『プロプスの街』の近くに、三ヶ月ほど前に新しくダンジョン・・・・・が生まれたとのことで、『アキンド商会』が支店を出すことになった。


 そこで店長としてメブスタさんが抜擢されたが最近頻繁に魔物が出現するので、

『アキンド商会』で雇っている御者兼護衛の四人と、Dランクパーティーの冒険者四人を引き連れて向かっている途中だったと言う。


 ただ今回は魔物ではなく盗賊に襲われ『アキンド商会』で雇っている護衛は全員無事だったが、Dランク冒険者パーティーは全滅したとの事。


「ダンジョンってたしか地下が巨大な迷路のようになっていて、宝箱や魔物が居て、地下に降りて行けば行くほど良い宝箱や強い魔物が居たりする、未だに解明されていない危険な場所ですよね」


「地下迷宮型だけではないのですが、まあそうですね、確かに危険な場所ですがそこで生計を立てている冒険者は沢山居ますよ」


 その後俺は謝礼を受け取り、ふと護衛の一人が盗賊の体を調べているのを見て不思議に思い、メブスタさん尋ねた。


「あれは何をなさっているのですか?」


「えっ? ああ、戦利品の回収ですよ、悪い言い方をすれば死体漁りですね、もしかしてディオさん、盗賊討伐は始めてで?」


「はい……」


 思わず人を殺したのも初めてですと言いそうになった。あれ? そういえば人を殺したのに震えてない……平気だ……。


「亡くなった冒険者の死体も調べているのもその為ですか?」


「そうですね、邪魔にならず使える様なら装備品や持ち物を貰います、後は遺品や冒険者カードですね、冒険者ギルドに報告し提出しなければいけないので」



 全ての死体の確認が終わったようで、その後地面に掘っておいた穴に死体を埋めていた。


「若旦那ぁ! こっちは終わりましたぜ」


「わかりました、ディオさんはこれからどちらに?」


「メブスタさん、俺を『プロプスの街』まで護衛として雇いませんか?」


「え? よろしいのですか? こちらとしては護衛が減りましたので、ディオさんの様な強い方が居てくれれば助かりますが、もしかしてダンジョンに興味がわきましたか?」


「はい、お願いします」


 ちなみに馬車の中にはメブスタさんの奥さんと、五歳の娘さんのワサちゃん、あと使用人の女性が一人乗っていた。もう一台の荷馬車には商品などの荷物が大量に積んであった。

 

「お兄ちゃんありがとう!」


 ワサちゃんにそう言われ俺はなんだか照れくさくなり、いそいそと荷馬車の後ろに腰かけさせて貰い、久しぶりにゆっくりと休むのだった――。

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