第2話 崩壊の始まり

 辺りが静まり返った――間を置き母さんの悲鳴が村中に響き渡る。次の瞬間。


「プレイオネ!」


 剣を抜いた父さんがそう叫ぶとプレイオネと共に領主に襲い掛かった。


 ガシンッ


 父さんの剣とプレイオネの牙が、領主の前に忽然と現れた金色の鎧を着けた巨漢の騎士の大剣に受け止められた。


「ふむ、まあまあだが、相手が悪かったな」


「タイゲタ様に危害を加えようとした悪漢は――死んで償いたまえ」


 そう言い、その後ろから銀色の鎧を着けた優男風な騎士が現れた。


「『百裂粉塵槍ひゃくれつふんじんそう』」


 無数の槍が父さんとプレイオネ目がけて伸びてきた。


 それにいち早く気付いたプレイオネが父さんを庇おうと身をひるがえす。無情にもプレイオネの目、顎、喉、腹を槍が貫く……。


 それを見て怨嗟えんさの声を荒げて父さんが目の前に居る金色の騎士に斬りかかる――が、『真・岩石粉砕斬しん・がんせきふんさいざん』そう聞こえた瞬間、ブンッと大きな剣が通りすぎ、剣を握った腕ごと首を切断された父さんの頭だったものが地面に転げ落ちた。


「え!?」


 この日この瞬間この村最強のコンビが何もできずに――死んだ……。


 そして姉さんの死体のそばで悲しそうに『ギャンギャン』と鳴いていたフェンリルの赤ちゃんのエルナトを『五月蠅いなぁ、僕は犬が好きじゃないんだ』といい銀色の騎士が槍でエルナトの腹を刺し、そのまま持ち上げて遠くへ投げ捨てた――。


 誰かが発狂した声で泣き喚いた。母さんだ……。


 僕は母さんの元に駆け寄り抱きしめる。一体何で……なんでこんなことに……。


「ほう、お前もこいつらの子供か――よし、面白い事を思いついたぞ、余興、じゃなく処刑方法を考えた。俺を殺そうとしたんだから当然一家全員罪人だ。罪人は死刑だ。が、普通に処刑してもつまらん、おい! お前等この親子をどこかに閉じ込めておけ! お楽しみは明日にする」


 村人に命令……が、動かない村人達を見て、領主はあきれた声で話を続けた。


「はぁ、いいかお前達、こいつらは魔物を使って俺達を殺そうとした、きっと俺達が住んでいる街もそのうち魔物に襲わせる計画を立てていたんだろう。しかし有能な俺はそれにいち早く気づき排除できた、だがそんな奴らを村に住まわせていたお前らも同罪だ、死刑だ――他の領主ならば、な」


 ギロリと村の人達を睨みつけると皆怯えだした。


「だが俺はそこまで冷酷じゃないし、お前らは俺の大切な領民だ、こいつら家族とは仲間じゃないと証明すれば、お前らは無罪としよう、それともこいつらと一緒に処刑されたいのか?」


 それを聞いた村の人達の顔色が変わった。


「ち、違います、こいつら一家があんな危険な『魔獣使い』とかいうスキルを持っているからいけないんだ、俺達は関係ない」


「そ、そうです、俺達はこいつら家族に魔物を使って脅されていたんです、言う事を聞かないと食い殺すって。だから仕方がなかったんです」


「そうだそうだ、タイゲタ様に勝手に盾付いてしかも街を襲おうと計画していたとは、なんて恐ろしい。俺達を騙しやがって!」


「ああその通りだ! この反逆者一家め! 死んで罪を償え!」


「流石タイゲタ様です、いち早く計画を察知しこの村を魔物の手から救っていただき感謝します。ありがとうございます」


「え!?……皆、なにを言っているの?」

 

 嘘だよね、なんであんな奴のいう話を信じているんだよ。街を襲撃? そんな事をするはずもないし、そんな事をしてどうするんだよ!


 お前等今まで散々父さんと母さんに狩りで世話になっていただろ、今日だって引率を父さん一人に押し付けて、いつも父さんに感謝していますって言っていただろ。

 そもそも元々は村の女性の代わりに姉さんがあんな事になったんだぞ、助けてやったからだろ、みんなが、お前等が助けないから。大人なのに、男なのに!


 村の人達は母さんと僕を無理やり連れて行こうとし、僕が抵抗するといつもは優しかったおじさん達までが、狂ったように僕を何度も何度も殴りつけた。母さんは『お願い止めてください』と僕の上に覆いかぶさり懇願し僕を守った。


「お前等! あと、ここら辺に散らかっているゴミ・・も綺麗に片付けておけよ」


 姉さんと父さん、プレイオネの遺体を指さして言った。それを見た僕の目から今まで我慢していた涙があふれ出てきて――意識を手放した。


…………


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


「ううーん、あれ?」


 どうやら僕は寝ていたようだ。なんだ、よかった、さっきの事は夢だったのか。

 そうだよな、あんなに強い父さんとプレイオネがやられるわけないよな――。


「――バラン! 気が付いた様ね、体の痛みはどう?」


「母さん!?」


 僕は母さんに膝枕されていたようだ。天井から日差しが少しだけ届いているが辺りを見ると土がむき出しで、まるで大きな落とし穴の中みたいだ。近くに他の人の気配はないようだがとても肌寒い。


「ここはどこなの?」


…………


「牢屋の中よ……」


「えっ……牢屋? じゃあ……あれは……夢じゃ……なかったのか……」


 母さんの涙が僕のほほにポタリッと落ちた。僕だって泣きたかったけど涙を堪えて起き上がった。


「いてててて」


 村の人達に殴られた事を思い出す。お陰で服がボロボロだし体中痛くて熱い。

 母さんも腕や足に怪我をしていて青く腫れているし血も滲んでいる。


「村の中に牢屋なんかあったんだ」


「ええ、村の外れの納屋の裏の地面に穴を掘って、上から柵を被せただけの簡単なものだけどね、大人達は皆この場所を知っているわ」


「母さん、僕達これからどうなるの?」


 いや、答えは分かっている、聴いていたから。明日僕たちは処刑されるのだ。


「……わからないわ」


「母さん、嘘はいいよ、僕も聞いていたから」


「そう……なんでこんなことに……、グスッ、いえ、今はそれよりここを抜け出さないと、何か手が――そういえばバランあなた『祝福の儀』でどんな能力を授かったの? やっぱり私達と同じ『魔獣使い』?」


「……う、」


「う?」


「『う士』だよ、授かったジョブは『う士』でスキルは『うし改』だよ、一緒に『祝福の儀』を受けに来ていた他の村の人や町の人達には『不遇職』だとか『外れスキル』だって笑われて馬鹿にされたし……」


「『牛』に『牛飼い』? それは牛を『使役』できるって能力なのかしら?」


「違うよ、多分違うよ、うーんなんて言えばいいんだろう」


 勉強も読み書きもあまり得意じゃない僕は、母さんにうまく説明できない。


「『ステータス魔法』は使ってみたの?」


「あ、そう言えばまだ使ってないや」


 『ステータス魔法』とは『祝福の儀』を受けた者なら唯一誰でも・・・・・使えるようになる自分の情報を知ることができるという魔法だ。


「たしか『ステータス』と唱えればいいんだよね『ステータス』!」


―――――――――――――

アルデバラン (男、15歳)

種族:人間族


ジョブ:う士

スキル:うし改 Lv1:『ミニプチタウロス』

―――――――――――――

 名前や年齢、ジョブ、スキルなどの自分の情報が頭の中に流れ込んできた。

  

「母さん、レベルだとかタウロスだとか頭の中に色々入って来たけど、良く分からないよ」

 

「本人の情報だけは『鑑定』スキルが無くても分かるから、知りたいことを念じてみて。

―――――――――――――

『う士』:牛ならざるものへ変化できるジョブ。


『ミニプチタウロス』:身長15cm。手のひらサイズで柔軟な体を持つ偵察特化型の牛の魔獣になる事が出来る。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。

―――――――――――――

 と更に頭の中に情報が入って来た。

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