今が、反撃の時っっ!!!!

「「花音かのん」」


 僕と妻は、そう言って自分たちの娘を見やった。


 娘も全身汗だくだった。動き出そうとする足を必死に押さえ、生まれたての鹿みたいに膝をがくがく震わせながらこちらを見ていた。


 まさか娘も、この呪いの渦中にいたとは……。


「わたしらが、踊るから。二人も、ついてきて!」と娘はそう言った。


 娘は涙を流していた。笑っているような泣いているような顔だった。


 何やってんだ、俺は……!


「おう!」


 僕はそう応えた。妻と二人でうなずく。


 全身に力を入れる。


 ここは、まさに逆境!!

 全力を出すだけでは足りない。全力の向こう側へ行かねばならない。ここで本気を出さねば。


「あたしたちは、踊らされてるんじゃない!踊ってるんじゃい!うおーっ!!」


 赤いパステルカラーのランドセルの子が、ひと際大声で気合を入れた。

 周囲の人々もそれに応じる。


「っしゃあ!俺たちもやるか!」


 ここまでずっとドラムを叩いてきた男子高生がそう言った。


「よし!音頭おんど取るぞ!」


 仲間たちが応じる。


 ドンッド、ドドドン!ドドンド、ドドド!ドッ、ドドドドン!ドドンド、ドドドン!


「やーっ!」

「おぉっ!!」

「はっ!!」


 旋律に合わせて、一人また一人、動き出す身体に抗い立ち上がる。


 ぴひょ~、ろろろろっ。ぴひょ~ろろろろろ~~♫


 僕らの頭上から、笛の音が響きはじめた。


「なんだこれ?」

「今までとは違う音色だ」

「和楽器ですね。鬼面浮立でも使われてる」

「て言うか、これって鬼面浮立のお囃子はやしだよね?」

「あそこ!千年杉のてっぺん!」


 誰かが空を指さす。みんな指の先を見やった。


 天狗神社にはひときわ大きな杉の木があった。樹齢千年を超えるその名も千年杉である。その突端とったんに、誰かが立っていた。手に笛を持ち、調べを奏でている。


「え?天狗……?」

「神社の天狗様か?」

「まさか」


 ぴひょ~、ろろろろっ。ぴひょ~ろろろろろ~~♫


 その旋律に乗って、宙を漂い、神社の階段を降りてきたのは、笛や太鼓だった。


「これは……」

「神社の倉庫に保管されてる楽器たちだ」


 太鼓と笛がふわふわと宙に漂っている。


「よっしゃ、いっちょやろうじゃないか!」


 股引爺さんがそう言った。


「おう!俺たちの出番だ!」

「いくぞ!」

「お、俺はもう無理だ」

「へばるな!踏ん張りどころだぞ!」


 六十代から上の年配の人々が笛を手にし、一緒に浮遊しているを握る。


 だんだんだんっ!だんだんだだんっ!だんだんだんっ!だんだんだだんっ……!!


 大太鼓が、力強く打ち鳴らされる。


 ぴひょ~、ろろろろっ。ぴひょ~ろろろ……♫

 だだだだだんっ(カッ)だだだだだんっ(カッ)だっだだん、だっだだん!だだんだんだんだん……!


 聞きなじみのある調べがはじまった。僕も香織もこの町の出身ではない。鬼面浮立も踊ったことがなかった。けれど娘の幼稚園・小学生時代に、この旋律は何度も耳にして憶えていた。

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