破ッッ!!

 こぶしを突き出しつつ、片足立ちになり、次いで力強く足を踏み抜いて馬歩の姿勢に戻ると、また片足立ちになり力強く拳を突き出す。嵩山すうざん少林寺の僧侶が武術鍛錬で石床をも凹ませる様を彷彿ほうふつとさせる演武を行いはじめた。


「「「……「「「「ハッ、ハッ!ッ!ハッ、ハッ、ハッ!ッ!」」」」……」」」


 誰もが、ボンネットや屋根がどうなっても「わたしは一向にかまわんッッ!!」とばかりに足を踏みしている。


 下では僕たちが軽やかなメロディーに乗って踊り、頭上では力強い気合と共に行われる演武。そんな中に、何やら奇声じみた声が遠くから上がり近づいてくる。




「あ~たしゃねぇ、看護師をしてるもんだがねぇ!」


 小太りおばさんが、何やら叫びながら現れた。


「医療現場は命がけでがんばってんのに、なんですかこれは!」


 ピロロロッロ、ピロ~ロロッロ♪ピロロロッロ、ピロ~ロロ~……♪

 フォン、ブォン、フォンフォン♩フォン、ブォン、ブォンオオン……♩

 パララ♬パララ♬パラララ~ララ……♬

「「「……「「「「ハッ、ハッ!波!波ッ!ハッ、ハッ、ハッ!破!破ッ!」」」」……」」」


 マーチングバンドの音色は消えず、僕らも踊るのをやめず、気合も消えない。


 それでいよいよ、おばさんは怒り狂って金切り声を上げはじめた。


「こんな時代に生きることを楽しむなんて、許さな!/(破ッッ!!!!)

「「「……「「「「ハッ!ハッ!覇!覇――ッッ!!」」」」……」」」

/なな、、、?ななななっ??」




「けしからん!密になりおって、離れんかい!」


 今度は白髪交じりのオールバックおじさんが怒鳴り散らしながら現れた。


「「「……「「「「ハッ、ハッ!波!波ッ!ハッ、ハッ、ハッ!破!破ッ!」」」」……」」」


「貴様ら、マスクはどうした、マスクはっ!まずマスクをしろっ!!」


「「「……「「「「ハッ、ハッ!波!波ッ!ハッ、ハッ、ハッ!破!破ッ!」」」」……」」」


「ええい、腹立たしい!警察に通ほ!/(破ッッ!!!!)

「「「……「「「「ハッ!ハッ!覇!覇――ッッ!!」」」」……」」」

/ほほ、、、?ほほほほっ??」


 ある意味誰よりも正しく、ある意味誰よりも正常で、ある意味誰よりも狂い、ある意味誰よりも病に侵された人々も、そうやって呪いにかかり一人また一人と踊りに加わっていく。


 他にも、沿道の家々からなにごとかと庭先に出てきた住人も、遠巻きに素知らぬフリしてスマホを頭上にかかげ、死んだ目をして上斜め45度で盗撮しようと卑しくコソコソスニーキングしていた人々も、「なに?なになになに?」「ちょっと!ちょっとちょっと!」「あら?あらあらあらあら?」とあまねく呪いにかかっていくのだった。

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