出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 宮崎伸治

ノエル

わたしも苦い水を飲まされました!


なにぶんにも、文がウマい!、というより編集の圧力がかかっていないぶん、自由に自分の文体を駆使できている。


このシリーズは、これまで5冊出ており、そのなかでも、ほぼ例外的な扱いの本だ。というのも、題名をみてもわかるとおり、「日記」というククリはあっても、これまでのようにオロオロだの、ヨレヨレだのといったオノマトぺは用いていない。


そこが、編集者の意図だったとしたら、これまでのはおしなべて平板な文体、というより、凝りのない文体(リーダビリティ)を志向していたのに対し、今回のは遥かに作者の自由意志に任せた文体となっている。


その意味で、これまでの作者は非常に窮屈な思いで、半ば編集者の規制との軋轢を感じながら書いたものと思われる。


それに引き換え、この『〇〇になるんじゃなかった』コンセプトの日記は別のシリーズとなるべく設えられた痕跡がありありとしている。喚くはホタエるは、ダジャレはかますはで、そのノリに思わず、頬が緩むし、クスクス笑いも出てしまう。


笑い上戸のひとは電車の中では読まない方がいいだろう。それほどに面白い。面白いが、腹が立つ。この腹立ち感は『交通誘導員ヨレヨレ日記』にもあったし、『メーター検針員テゲテゲ日記』にもあった。そして『マンション管理員オロオロ日記』にも歴然として顕著であった、あの独特の苛々(ムカツキ?)感だ。


評者も現役の頃、出版社とやりとりをしていたことがあって、この作者ほどではないが、何度か同様な悲惨なメに遭ったことがある。


天下のニューウェイブ社などでは、ああでもないこうでもない、と一年近くも引きずり回され、挙句の果ては400ページ以上にも及ぶ書下ろし原稿をパァにされたのだ。


まさにこの作者だったら、「にゃに~」を通り越して「にゃにおー」と言いたいくらいだった。しかも、この著者の場合もそうだったように、何度も急かされて書き直させられた挙句、念校である4校にまで到達していたのに、である。


ことほど左様に立派な大出版社であっても、そういうことは平然と行われているのである。


なにやら、評者のグチの場のようになってしまったが、出版業界に興味のあるひと、もしくは物書きになろうとしているひとは、必ず一読しておくべき一冊だと思う。


評者もそうだったが、やはりまずは契約をしっかり行ってから、仕事に着手する。これが一番なのだ。いい調子で安請け合いすると、あとで泣きを見るのは作者のほうなのだから。


出典 https://www.honzuki.jp/book/294251/review/255275/

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