第17話 凸してきた村人、俺は当然許さない。


 ジャガイモの植え付けを終わらせ一息つく。


 我が師テンコが好む『りょくちゃ』という物を飲んでいる。お茶は気候的な物なのか、はたまた土のせいなのか…、同じ『茶の木』という木から採れる葉から茶はれるものだが『りょくちゃ』は海洋貿易によって少量入ってくる紅茶の中のような色の葉ではなく、真夏に見上げる常緑樹の厚い葉のように深緑色をしている。


「ふう〜、師匠どうしているかなあ…」


 ふとそんな事を呟く。


 きっとまだ遥か海を越えた国にいるだろう。世界最高の大魔術士と言われる実力もさることながら、たいへん美しい女性ひとだ。依頼はひっきりなし、それも莫大な報酬つき。ある国の王様からの依頼では報酬は謁見の間から師匠が泊まる客室までの長い廊下に金貨銀貨が敷き詰められていたという。


 おまけにどこかの国の王子から出会うなり求婚されたって言ってたしなあ…。さすがに結婚はちょっと…という流れになったそうだ。

 しかし、王子様もそのままでは引き下がらず『貴女あなたとお会い出来た事は、我が人生で無上の幸福、貴女のその宝石のような瞳にお目にかかれただけでもほまれというもの。どうか貴女のその青眼ブルーアイズと同じ大きさのサファイアを贈らせていただけませんか?』と言ってきたらしい。


 さすがにこれまで断ると王子様のメンツが丸潰れにしてしまうので、贈り物をいただく事にしたそうだ。

 しかし師匠も師匠で、『瞳と同じ大きさの宝石って言われたから思いっきり目を開いちゃった♡」なんて茶目っ気たっぷりに言っていた。


 美人って得だよな…そんな事を呟いて俺は次にする事を考えた。作物の植え付けが終わり、しばらくはヒマだ。付与魔法を施した生活雑貨でも作るかと手近にあった農機具に手をのばそうとした時、道の向こうに何やら沢山の村人がやってくる。


 面倒な厄介事やっかいごとの予感がした。



 一言で言えば、村の畑に強化術バフをかけてくれ、村人たちの求めてきた内容である。


「村の一員として、役に立つべきだ」


 奴らの勝手な言い草である。


「別に俺になんのメリットも無いんだよな。そもそも家に火をかけようとするわ…、石を投げつけてくるわ…。おまけに畑から作物を盗もうとするわ、荒そうとするわ…なんでそんな奴らを助けてやらなきゃならねえの?」


 俺の不満にあれは村長にやれと言われたからと開き直る。しまいには細かい事をグジグジ言うなんて男らしくないだの、謝罪あやまったんだからもう良いじゃないかなどと全くもって反省する様子もない。


「さあ、もう良いだろう?さっさと強化術バフをかけろ。同じ村の仲間だ、苦楽を共にしないとな」


 村の奴らはそう言って、何の代償も払わず自分たちの要求だけ押し通そうとする。なるほど…、ならこういう奴らにはお仕置きが必要だろう。


「そうだな、同じ村の者同士苦楽は共にしなくてはならないな。それに、これは村人同士の約束事としておかないといけない、


「おお、そうだそうだ!!」

「へっへっへ!分かってるじゃねえか!」


 俺の家の前に集まっ村の奴らが思い通りになったとばかりにニヤニヤと笑っている。


「さて、じゃあまずはさっき受けた仕打ちを共有しゃうか?」


 そう言って俺は服の内側、胸のあたりに下げている護符に意識を集中させる。


「砂よ、岩にかえれ!」


 山あいにある岩は長い年月をかけ徐々に風化し、剥離はくりした小さな破片が川を流れ削られてやがては粉末の砂になっていく。そのイメージを逆行させ元の岩に戻す…いわば過去の姿に戻す事を思い浮かべながら護符に魔力を注ぎ込む。


 俺がかつて、対物時間逆行オブジェクティブ・リターンの魔法を護符に付与したアイテムである。

 この世界の時間を全て逆行させるのではなく、物に対して時間を戻す魔法である。そして今回、時間を戻したのは村人たちが俺の家に投げつけたいくつかの松明であった。それが、植え付けたばかりのジャガイモ畑の上にふわふわと浮かぶ。


「な、なんだ?松明なんて浮かべて…。それより早く俺たちの畑を」


 村人たちは早く畑に強化術をかけろと迫ってくるが、俺は当然取り合わない。


「今日、お前たちには俺の苦しみを分かち合ってもらう!」


「な、なんだとッ!?」


「やる事は簡単だ!昨日受けたお前らからの仕打ち、それをお前らにも受けてもらう!」


「何をするつもりだ!?」


 村人たちが少し焦り出しているようだ。


「この浮いてる松明は昨日お前らが俺の家に投げつけた松明だ!そしてこれを…」


 俺はその浮いている松明に複写コピーの付与魔法をかけ何十個と作り出す。


「お前らからの熱い気持ちをぜひ共有したくてな。だからこれをお返ししてやる、全範囲反射オールレンジ・リフレクション!」


 俺は全ての松明に付与魔法エンチャントをかけてやった。たちまち松明が村中に飛んでいく。村中のあちこちから火の手が上がった。

 木を打ち付けただけの家だ、火には滅法弱い。他国を侵略する際も焼き討ちというのは割と使われる戦術だ。


 単純だが防ぎにくく、敵に与える衝撃も大きい。


「か、火事だあっ!」

「な、なんて事しやがる!?」


 村の奴らが険しい顔になる。


「何ってお前らが俺にした事だよ。それより早く帰った方が良いぞ。消火、間に合うかも知れんぞ?」


 そう言ってやると奴らは必死に自分達の家に駆け戻っていった。



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