十年ぶりの故郷の村。俺はやられたらやり返す。
第5話 故郷に帰ると、生家は燃やされていた。
王城を発ってから五日、俺は十年ぶりに故郷の村を目指していた。王都で旅をするにあたってみる必要になる携帯食料などを買い込むとすぐに離れた。
罪に問う、問わないという問題ではない、魔物討伐の一行に加わっていた際の褒賞も無かったのにも腹が立った。
タダ働きというのも気に入らない。パン一つ買うにも金がかかるのだ。苦労だけさせて時間も無駄にさせた。それでいて駆け出しの冒険者と変わりない奴らのお守(も)りをさせておいて、返ってきたのは罵倒と追放だ。こんなのはやってられない。
しばらくは故郷の空気でも吸って休養でもするか…、そう思って帰郷する事にしたのだ。
□
山あいにある俺の故郷、エンザ村…。
久々に故郷の村に戻り生家へと向かう道すがら小さな頃を思い出す…。
たまたま師匠の目に留まった俺は孤児(みなしご)だった事もあり、この農村で一人で暮らして行くよりは魔術士になった方が将来の為になるだろうと弟子になった。
仮に魔術士なれなかったとしても、読み書きが出来るようになれば将来就く職業に幅が出る。もっとも師匠に言わせれば、これだけの魔力を持っていてなれない訳がないと言っていたっけ…。
青々とした麦が天に向かって力強く伸びていこうとしている。この調子で育てば豊作だろう。
昔と比べて少し変わったところもあったがやはり地方の村に過ぎない。町中と比べれば時の流れは遅い。見覚えある景色を見ながら歩いていると焚き火を顔の間近でしているような激しく物が焼ける匂いがしてきた。
「あれは…!?」
俺が生まれ育った家の方で煙が上がっている。火事か?とにかく俺は急いでその方向に走った。
□
「何をしているッ!?」
俺が急いで火事の現場に駆けつけると、燃えていたのは俺の家だった。それだけではない、その周りには何人かの姿がありそのうちの一人は松明(たいまつ)を持っている。
明らかに俺の家に火を放ったのだ。
流行り病で両親があっけなく他界すると俺は天涯孤独の身となった。その時、俺はまだ七歳、当時の村は貧しく血がつながらない子供を引き取って養える家などなかった。
迷惑はかけられない、そう考えた俺は一人で生きていくしかないと思い誰を頼る事もなく生きていく事を選んだ。今思えばこの決意こそが付与魔術士としての始まりだったと思う。やせた土地で生きていかねばならない、その為にどうするかという…。
それから一年、たまたまこの村を通りかかった師匠…大魔導師テンコが俺を引き取ってくれるまで暮らしていた生家(いえ)。
両親との思い出がつまったこの家に火をかけていたのは勇者グリウェルの父親でもあるこの村の村長だった。
□
「誰かと思えば…、マリクか。相変わらず貧相なツラだ。何をしてるかって…、見りゃ分かンだろ!燃やしてんだよ!」.
そう言うと村長はブンッと持っていた松明を燃えている俺の家に投げつけた。
「グリウェルから手紙が早馬で来てな。書いてあったよ、何の役にも立たねえ強化じゅつ(バフ)使いが手柄を主張して歯向かってきたと…。それだけじゃない、王様にも不快な思いをさせたってなあ!だから、これは罰だ。お前がどこにいるか分からなかったから代わりに家を燃やしておいてやろうってな!」
村長は俺は良い事をしているんだと言わんばかりの口ぶりで得意げ人語る。周りにいる大人たちにも見覚えがある。オボカの、そしてマケボの父親もいる、揃いも揃って憎たらしい顔つきをしている。
「そうだ、俺の娘は勇者一行の一員だ!その家族がやってるんだ、文句は言わせねえ!」
「そうだべ!オラたちの伜(せがれ)たちと違って無能なオメエなんざこの村のどこにも居場所なんかねえだ!消えろ、この役立たずめ!」
自分たちの子の無能さを知らず、勝手な事を口々に言う、子供の頃には気づかなかったがどうやらあの三人の親だけあってなかなかに馬鹿なようだ。
遺伝というものは頭の悪さも受け継ぐものらしい。
「何が役立たずだ!お前らの自慢の子供はまったくもって使えなかったぞ!俺の強化術無しじゃ体力不足も良いところだ!鎧を着たんじゃ満足に十分と歩いちゃいられない、俺が魔物を身動き取れないようにしておいたところで首筋に剣を振り下ろす…そんなぐらいの役にしか立たなかったよ。ご自慢の勇者サマ一行はな」
俺は嫌味たっぷりに言ってやる。
「だけど村長、それならアンタでも出来る事だ。鉈(ナタ)を振り下ろして薪割りをするような時ってあるよな?そのくらいの子供でも出来る手伝い…、アイツらがやったのはそのくらいだよ。全部俺がお膳立てした結果だ!」
「何を言ってるんだ、役立たずが!だいたいお前がそんなスゲえやつならこの燃え盛る家をどうにかしてみろってンだ!出来る訳ねえよなあ、たかが強化術(バフ)使いごときに!」
自分のしている悪事を棚に上げ村長が嘲笑う。
「なら、やってみせようか?」
「な、何?」
「離れた方が良いぞ、でないと…」
そう言いながら俺は右手を天に向け、そして振り下ろす。 すると天から轟音を立てて大きな滝の水が流れ落ちるが如く降り注ぐ。
一瞬で燃え盛る火を消すだけでなく、目障りだった村長らを押し流した。
「言ったろ…、離れた方が良いって」
ずぶ濡れで泥まみれになっで転がっているクズたちを見下ろしながら俺は言った。
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